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始まり
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僕は金持ちだ。
いきなり何いってんだって? そのまんまの意味さ。
ともに日本有数の資産家と名高い両親の元に生まれ、幼い頃から贅の限りを尽くしてワガママ傍若無人に育てられた。自分で言うのもなんだが性格は悪い。これでもかってほど。
気にくわない事があれば癇癪を起こし、それがものならぶん投げて壊す。それが人なら金の力を使って潰す。そんな人間。
ぶっちゃけ、僕に不可能な事はないと思っていた。
けど。
それでも、1人だけ。どうにもならない奴がいた。
そいつは僕がどれだけ金を使って飼い慣らそうとしても、どれだけ権力を使って脅してもびくともしない。むしろ何事も無かったようにひょいひょいと交わしていく。
ムカつく。すげームカつく。
絶対。いつか絶対そのしたり顔を歪ませてやる__。
朝。
そいつの仕事は僕を起こす事から始まる。
「坊ちゃん起きて下さい」
ゆさゆさと身体を揺さぶられ感覚に、少しずつ僕の意識が覚醒していく。微睡む視界に映ったのは眩しい光。
その光の眩しさに2・3度瞬きをした後、もう1度今度はしっかりと目を開けば黒いスーツを来た男が不気味な程綺麗な微笑みを携えてベッドの横に立っていた。
「おはようございます、坊ちゃん」
「あー……んだよ。今日は起こすなって言っといただろーがよ」
人当たりの良さげな笑顔を貼り付けて僕を見下ろす男……有栖に、舌打ちを混ぜた悪態をついてやる。
「ええ。今日は大学がお休みなので昼まで起こすな……と御命令を受けておりましたね」
「じゃあなんで起こすんだよ。バカかテメェは」
「申し訳ございません坊ちゃん。ですが、旦那様が坊ちゃんには規則正しい生活をさせろ……と仰っておいでで」
仰々しく頭を下げて謝ってくるクセに、表情は一切変わらない微笑んだままだ。
「親父? あーもううぜーな。別にいーだろ休みの日くらい惰眠を貪っても」
苛立たしげに枕を掴むと有栖に投げ付ける。奴はそれを避ける事もせず顔面で受けた。枕はぼふっと音をたてそのままベッドの足元へ転がり落ちる。
「惰眠を貪るのは良い事かと私も思います。寝る子は育つ……という諺もございますからね」
けれど、と奴の切れ長の目が細まる。視線の先は僕ではなく、その隣の膨らみだった。
「坊ちゃん。昨夜は御友人がお泊まりになる旨の御報告は受けておりませんが……」