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言いながら掛け布団をガッと引っ付かんで床へと放りなげられる。白いシーツのかけられたベッドに現れたのは、下着さえも身に付けていない俺と浅黒い肌の男。
有栖はその男が誰かと把握すると、一つだけ小さく溜息をついた。と、次の瞬間。
ガンッ
スラリとした長い足が天へと伸びたかと思えば、そのまま男の脳天へと振り落とされたんだ。
「んがっ……」
同時に響いた情けない悲鳴。
「え……え〜……何ぃ?」
枕に埋められていた顔が、呆けた声と共に持ち上がりキョロキョロと左右に振られた。
「あれぇ、坊ちゃんもう起きてたんだぁ」
さ迷っていた視線が隣にいる俺を捉えると、にこぉっと子供の様に緩む。
「てかまだ早いっしょー? お目覚めのもう1発……しちゃう?」
俺の腰に縋り付くように回して来た腕を、有栖がバシッと音がする程叩く。
「何がもう1発、なんですか? 誠之さん」
「え……?」
地を這うような低い低い声音に、誠之がそろりと顔を有栖の方へと向ける。声の主が誰かと認識した途端飛び上がる様に起き上がる。
「うおっ、有栖!? なんで!?」
「私はお仕事ですよ。坊ちゃんを起こしに来たんです。それで? ただの使用人である貴方がこんな所でそんな姿で何を?」
「え、いやぁそれは……そのぅ」
仁王立ちで睨む様に見下ろされ、誠之が口篭る。なんて言い訳をしようかと考えているんだろうな。まぁ無駄な足掻きとは思うけど。
「き、昨日はほら。結構寒かったじゃないすか。だから坊ちゃんが風邪ひいちゃタイヘーンと思って温めに……」
「寒いと衣服も着用せず寝るんですか貴方は。珍しい趣味をお持ちなんですね」
「え、えーと……これは、その」
誠之を睨む眼光が鋭くなる。その視線にいたたまれなくなったのか「坊ちゃん」と情けない声が俺を呼んだ。
内心溜息を付きつつ。
「俺が自分の部屋で、誰といつどんな格好でいようがテメーには関係ねぇだろ」
「坊ちゃん、それは……」
「お前こそただの執事のクセに僕のやる事に口出して来てんじゃねー。誰のおかげで飯食えてると思ってんだ?」
いい加減うるせー、黙って出てけ。と最後に締めくくる。
有栖は何か言いたげな顔をしていたが、そこは奴も一応執事という自分の立場を弁えているらしく「かしこまりました」と頭を垂れ部屋を出て行く。
有栖の背を外へと見送った後。
「はあ〜。しくったぁ。完全にキレてたよあの顔」
「朝までには出て行くって言ったやつはどこのどいつだ? 自業自得だろ」
「や〜だって坊ちゃんの肌スベスベで気持ちよかったんですもん。もうちょっともうちょっとって思ってたら寝ちゃった。あ、勿論昨夜の坊ちゃんとのお楽しみが名残惜しくて離れ難かった……ってのもありますけど」
てへ、なんてかわいこぶって笑う男を横目に鼻で笑い飛ばしてやる。
「この屋敷で僕にそんなふざけたセリフを吐くのはお前くらいだぞ誠之」
「お、それって俺は特別ってこと?」
「言ってろ」
何が特別だ。笑わせんなっての。
「あれ、坊ちゃん二度寝は?」
ベッドから降りて備え付けのバスルームへと足を向ける僕の背に、誠之の声が届く。その顔は何かを含んだニッコリとした笑み。
「……1回だけだからな」
その含み笑顔に吐き捨てる様な言葉を返し、僕はもう1度ベッドへと身体を横たえた__。