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シャワーを浴び身支度を済ませダイニングへと向かえば、テーブルの上には既に僕の分の朝食だけが残されていて、両親の姿はなかった。
そりゃそうか。時間に厳しい2人の事だ。既に10時もまわった時間に朝飯喰ってるはずもない、か。
僕の姿に気が付いた有栖が、スッと椅子をひく。その椅子に腰を降ろせば、焼き立てのいい香りのするパンが沢山盛られたカゴが目の前へと置かれる。
「今日はもう朝食は召し上がらないと思っておりました」
どことなく棘のある言葉を吐きながら、皿にパンを取り分けていく。さすが僕専用の執事というだけあって、何も言わずとも好きな食べ物だけが前へ並べられていった。
「誰も食べないなんて言ってない」
「左様ですか。片付けずに待っていた甲斐がありましたよ。せっかくの料理をひとくちも手付かずに捨てられてはシェフにも申し訳ないのでね」
「嫌味が言いたいなら後にしてくれ。飯が不味くなる」
「大丈夫です。我が鷹塔家のシェフの腕はピカイチですからね。それくらいで坊ちゃんの肥えた舌を不快にさせる様なモノは作りませんので」
そういう意味じゃねぇっつの。
露骨にぶすくれた顔になって、サラダにフォークをさす僕に、有栖はやや間を置いて「坊ちゃん」と口を開く。
「貴方の趣味をとやかくいうつもりはございませんが、鷹塔の跡取りとして、男と言えど使用人と性行為をするのはどうかと。誠之にも立場を弁えさせるべきかと」
「じゃあそこらへんから適当に見繕った女ならいいって?」
「避妊をちゃんとなさるのであれば」
なんなら私が御準備致しましょうか? とさらっと言ってのける執事に、僕の眉間の皺が二つ三つと増えていく。
「残念ながら僕は女相手には立たない性癖でな。その案は却下だ」
「ではそれ専用の者を御準備しましょう」
「金を払って僕にセックスをしろと? 払わずとも誠之がいるのに?」
「使用人以外なら良いと申しているんですよ坊ちゃん」
「どう違うってんだ」
放りなげたフォークが皿にぶつかってカチャンと床に落ちる。
「それを生業とする奴らに金を払ってやった方が外聞が悪いんじゃないのか。人の口に戸たてられない。いつ、どこで、誰の口から漏れるかわからないだろ」
日本有数の財閥の一人息子が毎夜男に組み敷かれてよがってる、なんてそれこそパパラッチのいい餌だ。まあ僕はバレたところでどうでもいいが。
「誠之は使用人である前に僕の幼馴染だ。ただの執事であるお前とははなから立場が違うんだよ。弁えるのはお前だ」