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面影
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奈落に入ったばかりの朧くんは、よく虚という人と一緒にいた。
虚という人を見る朧くんの目は輝いていて、朧くんは心底その人を尊敬しているようだった。
(思えば朧くんが冷たくなったのは、その人がいなくなってからだっけ)
虚という人が失踪して、朧くんはいつも一人でいるようになった。朧くんは誰にも心を許すことはなく、常に張り詰めた雰囲気を纏っていた。
(朧くん、何か抱えているんだろうな……)
それが何なのかは、考えても分からなかった。
奈落の隠れ家から出た私は、数羽の烏を連れている銀髪の男の姿を発見した。
(あの男……烏にだけは、優しいんだよね)
烏を眺める男の顔は朧くんの面影があって、ああ、この男は間違いなく私が好きだった朧くんが成長した姿なのだと実感することが出来た。
男は暫く烏を眺めて、私の気配に気付いたのか此方を見る。
男と目があって、男の冷たい眼差しや声を思い出した私は、男から視線を逸らす。
「…………」
「…………」
沈黙が流れて、気まずいものを感じていると、男は蓮、と私を呼んだ。
「……何?」
男は暫く沈黙して、話し出す。
「ある御方が、お前と会いたいとおっしゃっていた」
ある御方……?誰だろう。
首を傾げる私を男は感情が読み取れない顔で見据える。
「俺の、大事な方だ。失礼のないようにな」
……大事な方?
「ふーん……。貴方にそんな人がいたんだ」
大事な方と言われて、浮かんだのは朧くんとよく一緒にいた男の人。
(……まさかね)
浮かんだ考えを、私は打ち消した。