-
おまけ
-
朧くんと互いの想いを伝え合った私は、彼から虚様の話を聞いた。
「つまり……虚様には色々な人格があって、昔の朧くんと一緒にいた人は、その中の一つに過ぎないと……」
正直難しくてよく分からなかったが、つまり、虚様とあの男の人は同一人物であって同一人物ではないのだ。
(色々複雑な人なんだな)
虚様の読めない笑顔を思い出して眉を寄せると、朧くんの手が伸びてきて、躊躇いがちに引き寄せられた。
「……お前と虚様が仲睦まじく話している姿を想像したら、胸に痛みが走った」
(……それって)
「虚様に、嫉妬してたの……?」
「……嗚呼」
緩く抱き締められて、朧くんが嫉妬してくれた喜びから、彼を抱き締め返す。
「私が好きなのは、朧くんだよ」
「……嗚呼」
「安心して。虚様にはもう触れさせないから」
朧くんは頷いて、私の髪に触れる。
梳くように触れられて、胸が脈打つのを感じていると、朧くんが「……蓮」と私を呼んだ。
「お前を……誰にも渡したくない。たとえ、虚様であろうとな」
真剣な声音で言われ、ドクンと心臓が跳ねるのを感じながら、「……うん」と頷く。
朧くんの不器用な優しさを感じながら、私は朧くんと抱き合い続けた。
朧くんと恋人同士になってからも、私は時折虚様と会って話をしていた。でも、当然二人きりにはならず、決まって朧くんも同行していた。
「それで、君達はどこまでいったんですか?」
虚様がにっこり笑いながら問い掛けてくる。
「……どこまでって。まだ手すら繋いでませんが……」
虚様は驚いたように目を見開く。
「手すら繋いでいないとは……やはり蓮は私が貰うしかないようですね」
「いやいや……ご冗談を」
ひきつった笑みを浮かべていると、「虚様」と静かに朧くんが虚様を呼んだ。
「蓮は誰にも渡すつもりはありませぬ……それがたとえ貴方であろうとも」
虚様は朧くんを見据え、ふっと笑う。
「君がそんな顔をするとはね。つまらない男だと思っていましたが、そうでもないようですね」
私を見て、楽しげに言う。
「君達は見ていて面白いですね。つい邪魔をしたくなります」
(……この人、完全に楽しんでるな……)
改めて油断出来ない人だな、と思いながら私ははぁ、と息を吐いた。
奈落の隠れ家に戻る道を歩いていると、隣にいた朧くんが私に右手を差し出した。それが意味することが分からず「ん?」と首を傾げると、朧くんは私を見ないまま言った。
「手を、繋ぐぞ」
「……え、……あ、ああ、なるほど!」
理解した私は朧くんの手に自分の手を伸ばして、朧くんの手を握る。
直に感じる体温に緊張が走って俯くと、朧くんは私の手を握り返して歩き出した。
(朧くんと手を繋いで歩ける日が来るなんて)
朧くんは私に歩く速度を合わせてくれて、朧くんの優しさを感じて頬を緩める。
(やっぱり朧くんは変わってないんだ)
それを実感して、嬉しくなって朧くんの手を握る手に力を込めた。