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2話
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次にすずるが青根に出会ったのは、紅葉原高校の試験も終わりテストも返され、撃沈している時期だった。
部活を終え友人と紅葉原駅まで向かう。登りの電車は4両編成。一方、下りの電車は朝のラッシュ時間以外はいつも2両編成。帰りでいつも乗る2両目の真ん中のドアから車両に乗り込む。人が少ないのもいつものこと。
だから、この前の伊達工生を見つけたすずるは「あ、」と声をあげた。そうして、違和感を感じる。青根という彼の左右は妙にガランとしていた。
「ここ、座ってもいいですか?」
「…」
彼女の声に、青根は顔を上げる。すずるのことを一瞥して頷く。すずるが隣に座っても尚、じっと前を見ている目は、他人には分からない程度に動揺していた。
初対面同様の人が隣に腰かけるという経験は、青根が高校生になって始めてだった。電車に乗ると、隣がいくらあいていようと老若男女問わず自分の隣に座ってくれたことはなかった。それが、彼の密かな悩みでもあった。
そして、その光景に驚いたの本人だけではない。2両目前方の青根と同じクラスの男子生徒は、翌週には「青根が電車の中で、他校の女子と一緒にいた」と謎の噂が立つ原因をつくる。
それは当然青根が所属するバレーボール部にも伝わっていた。
青根の同級生の二口堅治は先輩から真偽を確かめてこいといわれたが、一週間青根をつけ回してもそんな気配は微塵もない。おかげでその一週間、二口の帰宅時間はいつもより一時間遅れた。
週の終わりの金曜日。二口は、今日表れなかったら『ガセでした』と伝えようと心に決めた。そもそもそんな噂すら既にくたびれつつある。というか、青根のなんの変鉄も、変化もない日常を二口はもう見飽きていた。
携帯をいじりながら、伊達駅から紅葉原駅を過ぎ、さらにその次の駅にさしかったとき。ふと顔を上げて青根を見ると、隣に紅葉原高校の女の子が座っていた。は?ちょっと待て!いつの間に乗ってきた?!
二口は急いで携帯の無音カメラのシャッターを押す。証拠はバッチリだ。
じいっと二人の様子に目を凝らす。青根は部活でもするように頷いたり、首を振ったりしている。遠くて例の子の声は聞こえないが、何かコミュニケーションを取っているのは確かだ。
彼女は伊達工最寄り駅から六駅目の住宅街で下車した。すかさず、二口は青根に近寄り問い詰める。
「ちょ、青根!あれ誰!」
「…!?」
予想外の場所で二口と会った青根は三白眼をパチクリさせた。そんな青根に構わず二口は「彼女?!」と問う。青根は勢いよく首を振る。
「え…じゃあ、小中学校の知り合いとか…?」
「…」
答えはNo。
「?…名前は?」
「?」
答えはクエスチョン。二口は驚きつつ、呆れた。「バカ!お前本当にバカ!」と車内で一方的に罵る声は、車内に響く。
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2013/06/13