-
3話
-
クラスの委員長をしているすずるは、度々行事が嫌になる。今回の学校祭も、その嫌になる行事の1つだ。
「委員長、今日隣の学校までテント取りに行くからついてきてくれ」
「え、やですけど」
「やじゃねーよ。お前委員長だろうが。俺、腰痛めてるから頼むわ」
担任にそう言われ、しぶしぶ了承する。当然、車は担任が出してくれるのだが、部活もあるし正直そんなの委員長だからやれっていうのも変な話だ。学校祭には、運営委員会なるものが存在していて、クラスから二名も選出しているのに。
しかし、遠征以外で他の学校にいくのは初めてだ。ましてや伊達工にいく事なんて滅多にない。普通科の自分たちと工業高校の彼らは、多分違う生活をしている。そんな気がしていた。
他校には他校の色があり、自分たちとは違うことをしている。科が違えばそれは尚のことだとすずるは考えている。
(ちょっとくすんだ、セルリアンブルーか、エメラルド色…)
伊達工のイメージは、そういう感じ。こんなに近いのに、紅葉原高校では伊達工の話を一切聞かない。いい噂も、悪い噂も。ただ知ってるのは、自分が使ってる駅の次が最寄り駅で、制服が学ランとセーラー服で、うちの隣の学校。ということだけ。
「あっ」
「あ?」
「?」
すずるの突然の声に、運転していた担任とクラス委員長(男)は首を傾げた。そうだ、あの人も伊達工生だった。っていうことは、もしかしたら学校にいるかも。
「そうだった、忘れてた…先生、早く行きましょう!」
「なんだお前、さっきまであんなにやる気なかったくせに…」
紅葉原から伊達工までは車で約15分。校舎は典型的な学校。一昨年建て替えた紅葉原とは異なる雰囲気の校舎に、すずるは去年まで通っていた中学校を想起していた。
関係者入り口を通り、案内されたのは第二体育館。そこの倉庫にテントがあるという。
紅葉原の制服の生徒が自分たちの学校に入ってきていることに、伊達工の生徒はいちいち一瞥してくる。多くが男子の伊達工で、すずるはあのときに似た居心地の悪さを感じていた。
(うーん…男子ばっか…)
担任は体育館に入るなり、そこにいた強面のジャージ姿の男性教諭に意気揚々と話しかける。気になるのは、話しかけられた伊達工の教諭もしくは監督が露骨に、面倒くさい奴が来た…という顔をした点だ。
「え?なに?先生、知り合い?」
「大学時代の同期だって。向こうは結婚して子どももいるのに、こっちは独身で夕飯がカップ麺って哀しいよな」
担任が余計な事を言ったクラス委員長(男)の頭を叩く。それを見て、すずるはケラケラと笑った。そこへ外周から帰ってきた部員が怪訝な顔をしてやってくる。そのメンバーに見慣れた顔をみつけて、今度はすずるが担任がしたのと同じように手を上げた。
「あ、青根くんー」
「!?」
「!!?」
青根が伊達工にすずるがいることに驚くのは当然である。が、それよりも驚いたのは部員と追分監督である。青根にこんなに気さくに話しかける女子など、今までに見たことがない。
二口はすずるの顔を見て、この前の子であることを瞬時に察する。
「あー、この前の子じゃん」
「え?ってことはこいつが!?」
「例の!?」
「はい??」
「紅葉原の子だったんだ」
「っていうか、先輩たちには写真見せましたよね?」
「写真??」
「あんなブレブレの写真アテにならないって」
「あ、そうか紅葉原って隣の駅か。だから青根と知り合ったのか。なるほど」
各々好き勝手に話を進めていくバレー部員に、すずるの首は傾くばかりだ。(ちなみに、青根の首も傾くばかりだ)
「お前うちの学校じゃ有名だぞー!」
「はい!?」
突然隣にやってきた男に背中を叩かれ、すずるはこの前伊達工生ばかりの電車に乗ったとき以上の困惑をしていた。というか、これだけの長身(平均身長180.6cm)に囲まれれば、誰もが萎縮して困惑することだろう。
青根と同じくらい身長が高く、ガタイも良い男性は構わずすずるの背中をバシバシと叩いて「なんせ青根に話しかける女子だもんなー!」と笑う。
「え?ちょ、意味わかんな…っ、ゲホッ」
あまりに強く背中を叩く男の力に、すずるは咽せ込む。男子は「お、悪い」と手を止めた。
「で、紅葉原のひとが伊達工でなにか?」
「あ、テント借りに来たんです。学祭の」
「ああ、だからか。学祭っていつ?」
「来月の初旬です」
「大変だね-」と二口はニヤニヤしながら青根を一瞥して「お前手伝ってやれよ」と青根の肩をパンと叩く。
「え?いや、いいですよ。こっちも男いますし………」
「…」
傍らにいた学級委員長(男)を見て黙る。眼鏡に、見るからにひょろい学級委員長(男)と、腰を痛めている担任。
(お前ら、使えないな!!)
「テントの骨組みって意外と重たいしさ!」
「でも、いま部活中ですよね?」
二口の提案に、ちらりとバレー部の監督の顔色を窺うすずる。
その目線に気づいて、すずるの担任の様子を窺う追分。
腰を痛めているジェスチャーをする、すずるの担任。
「…はぁ、仕方ない。手伝ってやれ」
「さすが!できる男は違うぜ!今度呑もう!」
「断る」
「じゃあ…すいませんけど、よろしくお願いします」
頭を下げるすずるに、青根は頷く。
二口はそんな青根を一歩下がって見ながらニヤニヤしてる。が、追分監督の「お前等も手伝え」の一言でげんなりとした。
←

2013/09/20