もうひとつの世界にしおりをはさみました!
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世界はあなたの隣〜another sky〜【進撃trip/リヴァイ】
もうひとつの世界
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頬へのザラザラとした感覚に、瞼が震え、視界が広がる。
ジリジリと照りつける太陽の光に、目を細めた。
『…いったぁ…』
私は思いっきり舗装もされていない地面の上に頬を当てて気を失っていたらしい。
重い身体をのそりと起こし、頬の土や砂を手の平でほろい、周りを見回した。
そして何度も瞬きを繰り返した。
だけど、目の前の景色は変わらない。
『ここ、どこ…?』
どうしても言ってしまう、この言葉。
私の小さな呟きは、強い風に吹かれてどこかに飛んで行ってしまった。
目に映るのは、何も遮るものが無い見渡す限り広がる原野。
聴こえるのは、ひゅーっという音を立てて吹き続ける風の音。
1人置き去りにされたように、ポツンと座り込む私…。
確か、会社帰りにショーウィンドウに映る不思議な景色を見てて、おかしな浮遊感に襲われて…。
そして…意識を失った…――?
とにかく、ここがどこなのか、さっぱり検討がつかない。
日本かどうかすら…。
思考が儘ならないまま、私の視界の先に砂ぼこりが見え、微かにドドドド…という地鳴りが聴こえ、地面が震え出した。
嫌な予感しかしないけど、隠れる場所も無い。
砂ぼこりと地鳴りが近づくにつれ、それが馬の大群であることがわかってきた。馬の1頭1頭に緑のマントの人?が乗っている。
え、このままだと、私に直撃じゃない?
私は少し脇に逸れようと立ち上がり、小走りに横へ逃げた。
すると、先頭を走っていた馬が前足を振り上げいななき、私の目の前で急停止した。
後続の馬もそれに倣い急停止する。
「リヴァイ班、ハンジ班だけ残り、後の者はそのまま壁内へ帰還せよ!!ハンジ班、周りを警戒!!」
「はっ!!」
先頭の馬に乗った金髪の男性が、後続の人達に叫んだ。
10頭くらいの馬に乗った人達だけその場に残り、後続の馬達がそのまま走り去る。
無意識に後ずさりした私は、何かに足を取られ尻もちを着いた。
その直後、ズシン…ズシン…と、地面が強く規則的に揺れる。
急に空が暗くなり、ただならぬ気配に後ろを振り返り見上げると、巨大な裸の人間が気味の悪い笑顔で私を見下ろしていた。
『〜〜〜ッ!!』
驚きと恐怖で声が出ない。
何これ、人?
その巨大な人間は、少し前屈みになり、
私に向かって大きな掌を下ろす。
掴まれる!!
「リヴァイ!!」
「わかってる!お前らいいな!!」
「了解!!」
リヴァイと呼ばれた男の人が馬から飛び上がり、宙を舞う。
そして、巨大な人間の背後に回り、ありえない速さで回転しながら、両手に持った剣を振り下ろした…ように見えた。
ザシュッ――
大量の血しぶきが飛び散り、私の目の前にボタボタと大きな雫が降り注いだ。
巨大な人間は、気持ち悪い笑みを浮かべたまま、うなじ付近から大量の血を流し、白い蒸気のような煙を立ち上らせて、私の方に倒れかかってきた。
え!?うそ!!
信じらんない!!
逃げなきゃ!!
そう思うのに、私の身体はその場に座り込んだまま、恐怖でピクリとも動かない。
「馬鹿か!危ねぇ!来いっ!!」
そんな怒声が聞こえた瞬間、私の身体は力強い腕に抱きかかえられ、宙に浮いた。
リヴァイさんが私を抱えて空を飛んでいた。
はっ!?
どういう状態なの!?
轟音と共に巨大な人間が倒れると、リヴァイさんは、その巨体の上へフワッと着地した。
そして、私を横抱きにしてゆっくりと地面に下り立ち、地面に座らせ、私の前で片膝を付いて、鋭い目付きで問いかけてきた。
「…お前、何故こんなところにいる?馬はどうした?その格好は何だ?」
そう言う彼のマントと顔に飛んだ巨大な人間の血から出ていた白い煙は、モクモクと空気に溶けて蒸発し、飛び散った血は跡形もなく消えた。
…は…?消えた…?
どういう仕組み…?
『…え?…何故…?えっと…気付いたらここに……馬……?』
目の前の信じられない光景に戸惑い、突然いくつも質問を浴びせられ、何から答えていいのか分からなくなった。
私がこの場所にいるのが不思議なようで、もの凄く不審な奴だと言わんばかりの視線を送ってくる。
「まさか…記憶がねぇのか…?」
『……。』
ごめんなさい。
記憶はあるけど、今起こっていること全てに対応できる順応性は無いので、絶賛パニック中です。
心の中では饒舌に話せるのに、混乱が頂点に達している私の口はプルプル震えるだけで音を発しない。
色々上手く説明できないし、話したところで信じてもらえる気がしないので、記憶喪失で通した方が無難かもしれない。
とりあえず……。
『あの…ここはどこですか?あなた方は…誰?』
なんとか口の筋肉を動かし一番の疑問を投げ掛ける。
私を見つめていたリヴァイさんの、綺麗なブルーグレーの瞳が、一瞬ギラリと光った。
その鋭い視線に耐えて、私も彼をじっと見つめ返した。
まず、ここがどこなのか知りたい。
なんとなく、日本では無いことは馬に乗った人達の顔立ちから窺える。
目の前にいるリヴァイさんは、髪の毛は黒いけれど、堀が深く、目の色は薄いブルーグレーだ。
寝不足なのか、クマも濃い。
そして、ずっと眉間にシワを寄せていて、凄く不機嫌そう。
…というか、怖い…。
視線で殺されそうな勢いなんですが…。
「とにかく、ここは危ねぇ。一緒に来い」
『え…どこに…?』
「壁の中に決まってるだろうが!巨人の餌になりたいのか!?」
ひぃっ…!!
めっちゃ睨まれて、怒鳴られた。
怖っ!!
いや、もう言ってる単語の意味がわからない。
壁の中?巨人?餌?
しかも今頃気付いたけど、言葉通じてるよね。
私、日本語で喋ってるつもりなんだけど…。
どうなってるの…?
はてながいくらあっても足りないこの状況。
このリヴァイっていう人が言うように、ここが危ない場所なら、この人達について行った方が良さそう。
「エルヴィン、コイツを連れて行くんだろう?」
「ああ。この平地で長居は危険だ。早くその子を連れて帰還しよう」
エルヴィンと呼ばれた人が、何か切迫した様子で答える。
それに無言で答えたリヴァイさんが私に向き直り…
「おい、お前、立てるか?時間がねぇから俺の馬に乗れ」
私の腕を掴み持ち上げるように、立たせた。
だけど、私の足は力が抜けて、また地面に逆戻り。
『こ、腰が抜けちゃって…』
涙目で訴えると、チッという舌打ちが聞こえ、突然、浮遊感と温かさが身体を包む。
気づくと私は、リヴァイさんに横抱きにされて、馬の背に軽々と乗せられていた。
リヴァイさんも私を前に抱え込むように馬に跨がる。
――え、密着度が半端ないんですが…。
そんな私の動揺を気にする雰囲気は無く、平然と私の腰に片腕を回して支えるように抱きかかえた。
リヴァイ「行くぞ。ちゃんと掴まっとけよ」
耳元で囁かれた瞬間、馬が走り出した。
『ッ!!…い…やぁーっ!!怖いっ!落ちる!!ムリーッ!!』
リヴァイ「うるせぇ!じっとしてろ!支えてるから大丈夫だ!もうすぐ着く!!」
想像以上の馬の揺れ具合に叫ぶ私…。
容赦なく馬で駆けるリヴァイさん…。
程なくして私は、馬の一行と共に、
ここがどこなのかわからないまま、
そびえ立つ高い壁の中に吸い込まれ…
その重い扉は閉められた――…
*