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暴力的な再会
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好きな人がいた。けれど、護るべき人を優先した。後悔なんてものはない。有るのは使命感だけだ。自分の運命や命は全て、彼女を護るためにある。だから、もう二度と会えなくてもそれはそれで仕方のないことだと彼方は自分に言い聞かせていた。
「う゛ぉ…」
「…!」
だからこうして、また逢えるなんて思ってもみなかった。それは目の前にいる男も同じだったようで鮫のように鋭い目は大きく見開かれ、呆然と立ち尽くしている。そんな顔を見て少しだけ彼方は期待した。あの時の、学生時代の有耶無耶になってしまった告白はまだ彼の中で生きているのだろうか、と。耳がキンキンするような大きな声で話す姿からは想像出来ないようなか細い声で彼方の名前を呼んだ。おいおい、声の大きいマフィアランキング1位が聞いて呆れるな、なんてまだ少し考える余裕がある。「なぁ」。その一言だけなのに、彼の体はビクリと震えた。いつもの自信満々で、生意気で傲慢な態度はどうしたのだろう。昔よりも成長して大人になっている筈なのに昔よりも小さく見える。
「カス鮫」
「う゛おぉぉい!!久しぶりに会って第一声がそれってのはどぉいうことだぁ!!!」
素直に名前を呼べなかった。好きな子ほどいじめたいと言わんばかりにわざと突っかかってた学生時代から全然成長していない自分にほとほと呆れる。いや、でもそれほど…それほどまでにコイツの気を引きたいのだ、俺は。いつもの調子が戻ったスクアーロは、無愛想だとかもっと他に言うことがあるだろうとか、うるさいくらい文句を言ってくる。
「会いたかった」
うるさかったのが一変、静かになった。また大きく見開かれた眼に男のくせに意外と色白な肌はほんのりと赤くなっていた。小さい声で「笑った…」。と言ったのが聞こえて、俺は笑っていたのかと少し驚く。
「スクアーロ」
肩が揺れた。一歩、また一歩と近づく度、挙動不審になっていく。面白い、手を伸ばして頬を撫でたならどうなるだろう。学生時代より随分と長くなった銀髪に触れたならどうなるだろう。…キスをしたらどうなるだろうか。意地悪心か、愛しさからか次々とそんな考えが頭に浮かぶ。
────ん?長くなった銀髪?
伸ばした手が止まる。目を瞑っていたスクアーロは恐る恐る目を開け、彼方の顔を見た。不思議そうに名前を呼ぶ。
「…髪、伸ばしたのか」
「ん?ああ、そりゃあ伸ばすだろ。あの時、言ったじゃねぇか」
「………」
「おい?どうし……っでぇああああーー!!!??」
「…尻軽男が」
彼方はスクアーロの綺麗に伸びた銀髪を思い切り引っ張った。何本か抜けたがそんな事は気にしない。非道だと言われようがそんなもの関係ない。
彼方以外の男の為にスクアーロが何かをしているのが気に食わなかったなんてことはない。そんなことは。本当に。これっぽっちも。
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