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病院で出会ったのは十束(名前)さん、と言う人だった。元々イタリアに住んでいたらしく休養の為日本に戻ってきたらしい。
子供二人は診療時間で戻ってしまったのでオレは十束さんの車椅子を押しながら、中庭を目指す。
『助かります、最近筋力まで衰えてきちゃって』
車椅子、押すのキツかったんですよ。
そう言って苦笑を浮かべた十束さんは、オレより断然年上だった。同い年か1つ2つ上かなぁ、と思ってたら全然違うし。
『時間は、大丈夫ですか?』
「はい。今日オフなので」
でも、やっぱり話していると落ち着いてて年上オーラ?みたいなのが感じられる。
病衣から羽織りものを掛けて、笑う度に肩を揺らすこの人の創りだす空気が好きかもしれないと短い時間ながらにそう思ったのだった。
中庭に着いて、車椅子をベンチに並べてからオレはベンチに座った。
『?、学校ですか?』
「いっ、いえ…。あの、オレ…アイドル目指してて」
『アイドル…、』
「や、やっぱり、変ですか?病気を抱えたまま…」
言い掛けてハッとする。
呼吸器を掛けたままの十束さんも何かしら病気を抱えているのに…。これじゃあ十束さんも否定してしまう。
__違う、オレは、自分だけが。
ぎゅっと貰った薬の袋が強く握り過ぎて音を立てる。怒らせてしまっただろうか?
『変じゃないですよ』
「!?」
『寧ろ、尊敬します』
そう言った十束さんの横顔はまるで遠くの誰か、例えるなら想い人を眺めているように優しいものだった。
『君が何で苦しんでいるか解りません。でも、僕は一生懸命に頑張っている子は好きですよ』
「十束さん…」
『病気だから頑張るなって言う方が可笑しいんです。……陸君の苦しみは僕にも少しは、分かります』
申し訳無さと、同じ境遇に立つ人との言葉の深さ、苦しんでいるのはオレだけじゃないんだって言う開放的な気持ちがぐるぐると混じって鼻奥がつん、とした。
『……、今まで良く頑張って来ましたね』
天にいとは違う温もりが、頭を撫でる。
初対面の人の前で泣くなんて、初めてだった。