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「どうしたー?」
携帯を握りしめたまま、固まった弟を覗き込む兄。_和泉三月は彼の手に握られている端末に目を落とした。
ネットニュースを開いているらしい弟の携帯に映るのは、書かれている記事と大きく貼られる人物の写真だった。
「……誰だ?それ?」
「なっ……!?兄さん、知らないのですか!?」
「...!!__誰デスか?すごく、美しいヒトですネ」
「六弥さんまで…!」
ナギが微かに息を詰めたのはほんの一瞬。
そんな彼の変化に気付かずに言い掛けていた言葉を飲み込み、一織は口を閉ざした。
思い出せばこの二人がこの画面の中の人物を知っていたらそれはそれでどうした?と聞き返したくなるからだ。兄は熱狂な伝説のアイドル「ゼロ」のファンで、ナギは顔に似合わずな残念なアニメ好きだ。
「近年、有名になりつつあるバイオリニストですよ。まだ若いながらも大物歌手と共演しているその道のプロです」
「へー」
端末で別タブを開き、検索を掛けCDのジャケットを二人に見せる。
そこには一人の人物が映しだされていた。
背中ががらりと開いたデザインから覗くのは、きめ細やかな白磁の肌だ。
どこかの教会だろうか、ステンドグラスから降り注ぐ柔らかな光が頭部に輪を描き、その姿は宛ら天使か聖母マリアを思わせる。神に祈りを捧げる様に伏せられた睫毛と微かに弧を描く唇、彫刻の様に刻まれた横顔のパーツ一つ一つはまさに慈しむ愛を謳って、穏やかで、なんとも儚いことか。
「キレイな女性デス…!」
アニメと女性をこよなく愛するナギはうっとりと画面の中に熱い視線を送っていた。
まさかまさかと薄々思っていたが一織とナギの間には少し認識のすれ違いがあった。
こよなく愛すべき「女性」と誤認されてしまったからこそ、一織は言い淀みながらナギに伝える。
「_あの、六弥さん…、大変申し訳無いのですが、…この方男性ですよ?」
「え?」「what?(何だって?)」
ハモったのは三月とナギだ。
兄さん、貴方もでしたか。と心のなかでツッコミを入れる。
だが、そんな事よりも二人して目をパチクリさせた姿は、少し可愛かったと一織は後に悔しそうに語るのだった。