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「いやいやいや!!これで男は無いだろ!!」
「一織、ウソはいけませんよ!」
「残念ながら、嘘ではありません」
「どうしたの?」
三月とナギがぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる声に、壮五が心配そうな顔持ちで尋ねてきた。喧嘩だと思ったのか不安げな彼に「何でもありませんよ、彼らは混乱してるだけですから」と頭を抑えながら一織は端末をしまおうとする。
「それって十束(名前)さんの初回版CDジャケット?」
さらりと壮五の口から出てきた名前に今度は一織が驚く番になった。
そうか、普段音楽プレーヤーを所持して暇さえあれば聞いている彼ならクラシックを聞いていて、尚且つ十束(名前)を知っていてもおかしくはない筈。
「ええ、ネットニュースで流れていたので」
「彼は凄いよ。あの若さでこれだけの成果を残せているし、今後期待のバイオリニストだね!」
珍しく、興奮した様子の壮五。
一織とて最近知った十束(名前)だが、壮五はそうでもないらしい。「レコードもあってね…」と大方を語り出す前に一織は、放っていたナギと三月に向かい合う。
「……(名前)さん、?」
丁度その時、ぽつりと呟く声に一織は片眉を上げる。
その声は他でもない陸から漏れた呟きだった。
「おー、リク。知ってるのか?」
大体此処まで騒ぎたてれば、おおまかな話の流れが分かってしまったのだろう。
やや離れた所から、大和は所謂「大人の笑み」を浮かべ、末っ子のように可愛がる陸に質問を投げる。彼の肩には環が遠慮なく伸し掛かり、ぐーすかと寝息を立てていた。
「オ、オオオレこの人と話しました…!」
「本当!?陸君!?」
「本当ですっ!この間病院で話しました!」
勢い良く喰らいついたのは壮五で、二人共興奮しまくった様子で語り出す。
凄く優しい人で、綺麗な人でした!とピュアなどストレート感想に「それでそれで!?」と壮五がせがむ。
もはや収集のない事態に一織は溜息を吐き、それを見た大和が「頑張れ」と語尾にハートを加えて言ったそうな。