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穏やかな、一日の始まりだった。
朧気な記憶の中の曇り空ではなく、雲1つない澄み切った空がカーテンを開けると広がっていた。
そんな空と太陽に見守られながら看護師さんが定期健診に来て検温から点滴のパック替えし、出て行く後ろ姿を見送る。
上体を起こしたまま、体重をベッドに預ける。清々しい空とは反対に、出るのは重い溜息ばかりだ。
ここ数日は体調が悪かったのか、記憶が混濁してて鮮明に覚えていない。
今日って何月何日だろう...?
__がらッ
誰か、が入って来た。
『……りゅう……?』
さっき看護師さんが出て行ったから、僕を訪ねるのはりゅうしかいないと見込んで顔を上げる。
だが、入ってきたのはりゅうではなく眼鏡を掛けた一人の男性だった。
「お前が十束(名前)か」と舐めるような、品定めをするような視線に言葉を詰まらせる。
その眼に何処と無くほんの僅かに、嫌悪感が這い上がってきた。
ただ、その表情を表には出さず穏やかな声音で「どちら様でしょうか?」と尋ねてみた。そうだ、きっと病室を間違えて入って来てしまったに違いない。
そんな想いも虚しく、男の眼が僕の頭の天辺からベッドに伸ばす足の爪先まで、じっくりと堪能した後に更に鼻で笑う。
「はっ、舞台を降ろされた哀れなバイオリニストだな」
『!?』
_どうして...?
一瞬崩れた僕の表情に、「男は核心を突いたな」と言うような質の悪い笑みを浮かべる。
大きく鳴った鼓動は、心の奥に直接氷を落としたように全身を直ぐ様硬直させた。
太陽に照らされた銀髪が放つ光が、ナイフのように突き刺さってくる気がしたのは気のせいではない筈。
_、息をしろ。この人は、何を知ってるのか、聞かなくては…。
『ッは!……ッ…!』
考えれば、考えるほど頭のなかでの情報処理が追いついて来なくなる。
息もままならなくて、心臓を抑えこみうずくまってしまった。
「聞け、十束(名前)」
男の鋭い視線。
僕は怖さに目を背けることも出来ず、彼が放つ言葉の数々に、幼なじみの名前を心の中で叫ぶことしか出来なかった。