-
14
-
_____
入院して一週間弱、ようやく本調子に戻ってきた僕は退院した。
りゅうの車ではなく、タクシーに揺さぶられながら溜まっていた分のメールを確認した。
りゅうには”心配掛けてごめん、今日退院したよ”と文字を打つ。
りゅうのマンションの合鍵は持っているから部屋に入れるけど、勝手に入り込むのも気が引けるので一言付け加えた。
”行く場所があるので、少し出掛けてから帰ります”
■□■
「_来たか」
僕が退院して真っ先に向かったのは、あの男の所だった。
先日渡された名刺に記載されたその名前”八乙女宗助”が社長を務める、日本でも大手の中の大手事務所、らしい。
ただ、今日来たのは名刺に記載された事務所の住所とは違って、八乙女事務所から駅を2つほど離れた小さな事務所。
各地にも場所を押さえているあたり、流石、大手事務所と言った所だ。
椅子に腰掛ける彼に深々と、お辞儀をする。目上の人だ、礼儀正しくしなければ。
無言で渡された紙は、今後のスケジュールだった。
楽団員、ソロのコンサート等が各地で日を開けずに入っている。不満があるわけじゃ無い、寧ろ好都合だと思う。僕の演奏を聞いてくれる人がいる、僕を必要としてくれる人たちがいると思うと、これでも足りないと感じた。
「精々、足掻く事だな」
こんな言葉でも、僕は得体の知れない安心感を感じてしまうのだから_笑えてしまう。
『はい』
やって見せます、幾らでも。