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バーでの演奏バイト、と言うのは半分真実で半分が嘘だ。
八乙女事務所の契約はあの社長がどんな手を回したか知らないが、内密なので例えそれがりゅうでも知られる訳には行かなかった。嘘をつく、とは随分心が痛いものだ。
幼なじみに対する罪悪感を背負いながらも日中、結婚式で演奏し終えた僕はこれからバイト。
しかし、微妙に時間が開いてしまっているため暇を潰そうと、暮始めの夕日に照らされるレコード店に入る。
レトロな雰囲気をした店内は落ち着いていて、心地良い。ゆったりと店内を拝見しながら、今となっては貴重なレコードを隈無く眺めていれば丁度曲がり角で、人にぶつかった。
『!、すみません』
「あっ!こちら、…こ、そ……!!!?」
ぶつかってしまった相手を咄嗟に見上げれば、ビックリ仰天!___まさしくそんな言葉通りの顔だった。
どうかしましたか?と首を傾げる。どうしたのだろう、何処か打ってしまったり…、とか。
さぁっと己の顔から血の気が引くのが判った。
「あ、あのバイオリニストの十束(名前)さん…ですよね!?」
がっちりと握手された両手に、今度は自分がビックリ仰天する番となってしまった。
白髪の彼は何処かで見た気がすると考えた矢先、先日りゅうと見たテレビ特集で報道されたIDLiSH7のメンバーの一人ではないかと僕は思った。確かに、見た気がする。多分…。きっと。
「貴方は…、IDOLiSH7のアイドルグループの一人ですか?」と尋ねた所、彼は途端に俯いた。
もしかして、人違いだったかな?それだとしたら失礼なことをしてしまったと謝罪を口にしようとした瞬間、呻きにも近い呟きが聞こえた。
「十束さんに……顔を覚えて貰えるなんて……!!」
ほろりほろり涙を溢し始めていた彼は「感激です…!!」と途端に滝のように流し始めたので慌てて彼を連れて近くの喫茶店に入ったのだった。
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『落ち着きましたか?』
「はい……、何か、すみません…」
ずずっと鼻を啜った彼、逢坂壮五君は大分落ち着いたらしい。
少し顔を赤らめて恥ずかしそうに俯く彼は、見ててとても可愛らしく思えた。
『可愛いですね』「僕、今年20歳ですよ」『残念。僕は22歳で、貴方よりお兄さんですよ』「そうでしたね」なんてくすくす笑いながら、会話を弾ませる。それから他愛も無い話を時間を忘れて積み重ねていく。
IDOLiSH7って凄くいい子達の集まりなのかな?
何にせよ、7人中2人と出会ってしまうなんて世の中も狭いものだと僕は思うのだった。