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side:7
花火の後、トイレに行ったっきりの大和さんと環がなかなか戻ってこなくて、マネージャーが電話を入れようとした時に2人は戻ってきた。
血相を変えてやって来た2人、環が誰かを背負っているのが視えた。大和さんは万里さんに救急車を呼ぶように言ってから、環が抱えた人をシートに下ろすよう伝える。
その人が誰だか分かった瞬間、オレは動けなかった。
だって、それはオレの知る(名前)さんだったから。
最近壮五さんとも(名前)さんの話題で盛り上がっていたのに。
壮五さんも会った時は病院では無く、レコード店で、元気そうだったと言っていたのに。
ゴホゴホと重い咳をする(名前)さんを横向きにするように言ったのは、ナギだ。
社長が(名前)さんの手に触れて「体温は低いが、発汗が激しいな」と緊迫した表情で言う。
それを聞くなり、壮五さんが弾かれたたように走りだした。
戻ってきた壮五さんの手には車にあった毛布で、(名前)さんの名前を呼びながら包む彼の後ろ姿をただオレは見てるだけだった。
「七瀬さん、」
「_!」
「大丈夫です、落ち着いて下さい」
「…あ」
呼吸が乱れ始めていた事に気づいて、深呼吸した。
ケースが1つ。芝生の上にぽつんと置かれているのに気づいたオレはきっと(名前)さんの、ヴァイオリンだろうと、それを抱き上げた。
持ち主じゃなくて、ごめんな。心で謝りながら、オレは(名前)さんに近づいたのだった。
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翌日、俺達は(名前)さんの運び込まれた病院へ行った。
目覚めた(名前)さんは最初はぼんやりとしていたけど、検診を終えて面会が許可された時には意識がはっきりしてきたらしい。オレの心を落ち着ける変わらずなあの笑顔を浮かべていた。
暫く顔を合わせない事もあり、沢山話して、ふとオレは思った。
やっぱり(名前)さんは聞き手がとても上手で、話し手としてとても気持ちがいい。
穏やかに聞き耳を立てて、此方の言葉を一つ一つ逃さないように噛み締めながら聞いてくれる(名前)さん。大きな陽だまりのような心地良い包容力にオレはつい甘えてしまう。
だから、(名前)さんとナイショ話をする環に嫉妬したのはここだけの秘密にしておこう。