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激昂
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ぐちゃぐちゃと蜜壺がかき混ぜられる音が響く昏い中で、三人の男が一人の少女を嬲っていた。度重なる性交に少女は疲弊し、もう嬌声を上げる力さえ残っておらず、さながら人形のように好き勝手に犯されている。そんな異常な中で、淡々とした口調で三人の男の内、屈曲な男が話し始める。
「苗字には幾つかの規則を守ってもらうよ」
「まず一つ、逃げないこと。もし、逃げたら全員でお前を嬲って殺す。」
「俺たちもできれば、殺したくはないんだけど…ね。」
気の弱そうな青年が、少女の身体の下から犯しながら呟く。
「二つ、俺たちの命令には従順であること。もし逆らったりしたら、それだけ酷い目に合わせるよ。」
「まあ、反抗してくれた方が燃えるんだけどね」
泣き黒子が特徴の優男風な青年が、少女の身体を後ろから犯しながらはにかむ。
「三つ、苗字は俺達のペットであることを自覚すること…。この三つさえ守れば快適な監禁生活が送れるよ。簡単でしょ?」
少女の瞳は虚ろで、とても言葉を理解しているとは言い難い。
「ぁ……う……」
「苗字、返事は?」
屈強な身体つきの青年が、有無を言わさない口調で掛ける。
「……は……い……」
「イイ子だね」
屈強な青年、澤村大地は精液と汗でカピカピになった少女の頭を優しく撫でた。
男達は事が終わると身を整えてさっさと出て行ってしまった。少女を昏い檻に閉じ込めたまま、汚れた身体をまともに洗ってやることもしなかった。少女は誰もいない空間で身を縮め、身体を抱き締め声を殺して泣いた。己が身に降りかかるであろう所業に涙する。周りに、親に心配をかけているということでも涙する。先行きは真っ暗だった。
夏なのに冷んやりとした部屋の環境は劣悪で、畳の床は虫食いと湿気のせいでこぼことしている。窓が無いから空気も入れ替えができず、埃っぽい。こんなところで暮らすのか、そう考えた少女は絶望してくる。
窓は無く、日の光も射さないせいでカビ臭い部屋。時計なんてものは無く時間の感覚さえもわからない。申し訳ない程度に灯ったランプは、辺りに置いてある血にまみれた拷問具をゆらゆらと照らしている。微かに反射した光が薄くぼんやりと器具を照らすせいで、更におどろおどろしい雰囲気を醸し出していた。
そんな不気味な雰囲気の中、珍妙な音が響いた。
ぐきゅるるるる……
(お腹…空いたな…。)
少女、名前の腹の音だった。
(喉も渇いた。……ここにいる間、飲食とか…どうすればいいんだろ。)
(ご飯とか…食べさせてもらえないのかな)
(もしかして、限界まで食べさせないつもり…なのかな。)
(お母さん、昨日なに作ったんだろ…。そういえば今日、補習があったはず。仁花ちゃんと一緒に行くって…約束…してた…んだけどな。)
……きゅるるる
(先輩たちの……まだ、喉に味が残ってる)
(お腹もジンジンしてて…痛い)
(頭とか身体もカピカピで汚い…)
カツン
(いつまで…ここにいさせられるんだろう)
ギイイィィ、バタンッ
(私は…ここから出して貰えるのかな)
カツン
(…足音?)
ガタガタガタガダダダダダダッ
冷たい金属製の階段に靴音が聴こえたと思ったら、駆け降りてくる轟音が響いてきた。
「ちわー!苗字さん元気ー?!」
「きゃああああああああ?!」
いつもの陽気なテンションで現れたのは日向翔陽だった。
「もぉー、そんな驚かないでよ。獲って食いやしないからさ?ほら、お腹空いたでしょ?先輩に頼まれてご飯と飲み物もってきたよ!」
「え…え?」
「近くの坂ノ下商店でオニギリと肉まんとか買ってきたんだけどなに食べる?」
「なんで…?」
「丁度よかった~、俺寝坊して朝御飯食べてなかったんだよなあ。澤村先輩公認のサボりとれたからよかった~」
「ねえ、日向君…?」
「あれ、食べないの?食べたほうがいいよ。これからロクでもないもの食わされるかもしれないんだからさ。」
意気揚々とプラスチックトレーを開けてパスタを啜る日向。
「日向君は…、もしかして…?」
「"助けて"って言ってもムダだよ?俺、澤村先輩側の人間だから」
ちゅるりと麺を啜って、唇についた真っ赤なトマトソースを舌で舐めとった。
「俺が無関係だったら助けでも頼むつもりだった?生憎それは無理。あの人に逆らえる人はこの部活にはいないよ。」
「部活?!部活ってことは…部員のみんな全員…ッ?」
「御名答、苗字さんはこれからみーんなにボロクソに嬲られますっ!あ、みんなっていっても基本的にレギュラー面子だけね~」
「そんな、嘘でしょう…?あんなことがこれからも続くのッ?お願い!お願いだよ日向君!私をここから出してよ!!」
思わず日向に迫り、縋り付く名前。日向はそれに眉を顰める。
「離れて、近いよ」
「嫌よ!ここら出してよ!!もうあんなの嫌なの…お願い、お願いだから…!」
「離れろ」
感情の籠っていない声で呟く日向。
日向の豹変に気付きながらも、激昂している名前の耳には届かない。
「いいから出し…ッッ!!?」
最後まで言えなかったのは名前の鳩尾を、日向が膝で蹴り上げたからだ。名前の身体は軽く宙に浮き崩れ落ち、身体を丸め込んで嗚咽する。
「ウッ…グゥッ!??ゲホッゲホッゲッ…ッッ!!」
「御飯食べる前でよかったね苗字さん。先輩方にお約束、聞かなかった?イマイチ自分の立場を解ってない苗字さんに教えたゲル!ストレス発散、性欲処理機の欲潰し。それが苗字さんっ♪ダッチワイフよりかはマシなレベルの扱いしか受けられない奴隷っていうことを自覚してね!」
幼子に諭すようにしゃがみ込み、前髪を掴み上げ顔を覗き込む日向。名前は余程打撃が強かったのか、まだ呻いてる。
「イウコトはちゃーんと守ったほうがいいよ?でないと、洒落抜きで即折檻だからね。今のよりもイタイことされるよ~?特に3年の先輩方は容赦無いからね。」
「うぅ……あっ……」
「ちなみにね、日にち毎に苗字さん飼育係が決まっててね。俺が来たのは、今日の担当が要事で来れないから代理、朝だけだけどね。」
日向はそうまくし立てると、いつの間にか食べ終えたパスタのトレーの底のソースを薬指で掬い取ると、苗字の唇に塗りつけた。すると蠱惑的な表情でにっこりと微笑うと、ソースでベトベトになった唇に吸い付いた。ぬとぬととした油の感触と柔らかい唇を味わい悦に浸りながらソースを舐めとる。
「…んっ…?!」
一度離れて自分の唇をぺろりとひと舐めしたかと思うと、再度名前の唇にかぶりつき吸い上げる。
「……んぅ!?…ッ!……ッッッ!!」
今度は唇の割れ目に沿って、舌をなぞり割り込む。いきなり入ってきた異物に名前はの引っ込んだ舌をを絡め取り尚も吸い上げる。名前はなす術もなく、もう放心状態だった。ひとしきり堪能した日向はちゅぽんと音を立てて唇を離す。唇と唇が離れた二人の間に、唾液が銀色の糸となってプツリと千切れる。
「今日の俺は代理だから、苗字さんとこのくらいしか遊べないから残念だけどね。次に俺の当番になったら、もっと可愛がってあげるから…ネ?」
日向は何かの拍子に思い出したかのように言う。
「そうそう、三年生達には気を付けてね。ホントに…容赦しないからね。長年一緒にいたパートナーですらぶちのめす人達だし。頼むから、早いうちに死ぬようなマネはしないでね。処理するの俺ら1年なんだからさ。」
空のトレーを持って立ち上がる日向は、哀しそうな陰りのある笑みを残して去っていった。
「あ、苗字さん!俺が買ってきた御飯ちゃんと食べてね!なんてったって俺の奢りだからね!」
思い出したかのように階段から顔を出して叫んだのを最期に日向は上へ戻っていった。
残された名前は昨夜の出来事と、嵐のようにやってきた日向の出来事で疲れが溜まっていた。身体も汚れており、置き土産の食事をとてもじゃないが食べる気にはならなかった。先程、日向に蹴り上げられた痛みもやっと引き、不安定だった名前の気持ちも安定し冷静に状況を考えるようになった。
(どうしてこんな事になってしまったのだろう…。)
___俺たちマネージャーがいなくて困ってるんだ、これから大会もあってできるだけ練習に専念したいからさ…。君さえよければバレー部に入ってくれないか?
そう言われて入ったバレー部。初めに好きでマネージャーとして入った他の運動部は、競技に集中したい選手と不健全な目的を持つマネージャーとの諍いで居辛くなっていたので丁度よかった。バレー部はみんな真面目に競技に打ち込んでいて、それに青春の全てを賭けているという姿勢が好きだった。唯、純粋な彼らの力になりたいと思えたのだ。彼らは決して、嗤いながら人を痛めつけて楽しむ人間では無かった。何がきっかけでこうなってしまったのか。今でも数々の凄惨たる行いを思い出しただけで、身体の芯が冷えて震える。それに、前任のマネージャーは何処へ消えてしまったのか。日向の処理、死ぬなどの不穏な言葉が脳内で反復する。これ以上は怖くて考えたくなかった。
ふとビニル袋に手を触れた。
(…あったかい)
ぬくもりの残る肉まんを手に取り、胸に抱きしめる。在りし日を思い出して涙を流すのだった。
……
…………
………………
……………………
「すみませーんっ!遅れましたー!」
ぱしんとボールの乾いた音が体育館に響く中で、日向が慌ただしくやってきた。
「遅いぞー日向ぁー」
澤村が檄をとばすその後ろから、菅原が練習を抜け出して日向の所へ行く。
「ごめん日向、俺たちが昨夜餌やり忘れたから…様子はどうだった日向?」
菅原が周りを気にするかのように声を潜める。
「うーん、ちょっと御飯食べる程の元気はありませんでしたよ?先輩方、昨夜なにしたんですかぁ?」
「いや~、ちょっとクスコで穴カッ開いて…子宮を旭のでぶっさしただけだよ?」
「うわぁぁぁ…えげつない!名前ちゃん可哀想~」
「声が棒読みだぞ日向~?」
「そういえば今日の飼育係って誰なんですか?」
「んー…田中と西谷かな?」
「…………、あの二人ですか。」
「まああれだよ、苗字にもイイコトじゃない?ほら、お通じが良くなると美容にも良いし。」
「お前ら、そろそろ練習参加しろよー」
二人は、はーいと間の伸びた返事をして練習風景に入っていった。澤村は一人、錆びついた体育倉庫の扉を見つめてほくそ笑んだ。