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桜前線。
夢ノ咲に桜が舞い始めて、3週間が経った。今年は全国的に暖かな気候になっているらしい。柔らかな風が、昨日、朔間零達3年生の卒業を見送った。
「ついでに現世からも卒業してくれて良いんだけど」
「わわっ」
気だるそうな声のした方向を振り返ると、眠たげに目を擦って欠伸をする"彼"が立っていた。
名前は朔間凛月。夢ノ咲学院のアイドル科に学籍を置いている、高校2年生──とは言え1年留年しているらしく、実際は3年生に相当する年齢らしい。多分。所蔵のアイドルユニットは実力者揃いの騎士道『Knights』で、『眠れる冷笑の黒王子』というキャッチコピーと共に活躍中だ。
ふわふわとした黒い猫っ毛は軽く靡いており、欠伸の産物で潤った赤い瞳はこれまた眠たげ。二つ名通りの夜型である彼には辛い時間なのだろうから、致し方ない。
「まあ、昼よりは幾分マシだけどねぇ……」
宙に視線を向けて微笑む彼は、いつになく機嫌が良さそうだった。どれ程のものかというと、漫画なら周りに音符やのほほんとした花が散らされていそうな程。更に言えば、語尾に音符マークが付いていても何ら不自然ではない程だ。
私は思わず素早い瞬きをぱちぱちと繰り返しながら、右隣にあるその横顔に問い掛ける。
「り、凛月くん。どうして私の考えてる事が解ったの?」
「だって【名前】、全然喋らないでしょ? まあ膝枕させる側としてはその方が助かるんだけど、プロデューサーが無口って結構困るんだよねぇ……だから自然と大抵の事は見透せる様になったって感じ~」
「そ、そっか。流石だね」
「ふふん……もっと褒めてくれても良いんだけど?」
やはり、何だかやけにほわほわとした浮遊感がある。今日は彼の好きそうな気温と天気なので、自然と気分が高揚しているのかもしれないが──しかし、それにしても『ルンルン過ぎる』のだ。
私は微かに笑みを零しながら、言葉を重ねる。
「凛月くん、今日は機嫌が良いんだね」
「は?」
何気ない一言のつもりだったのだが、つい先程まで和やかに彼を包んでいた空気は、途端に氷点下に落ちたようだった。張り詰めたオーラが、私の右肩にちくちくと刺さる。
此処まで彼を舞い上がらせ、それでいてテン下げさせる人物といえば、あの人しかいない。それがとても微笑ましくて、思わず頬が緩んだ──それを、すかさず凛月くんに摘まれた。
「いひゃい、りつくん~」
「痛いのは##NAME1##の顔。なに俺見てロクでもない妄想でニヤついてんの、鬱陶しいなぁ?」
頬が両側からギリギリと容赦なく引っ張られ、最早痛いどころの騒ぎではない。アイドル男子のイケメンフェイスがすぐ目の前にあるとか、距離が近いとか、そんな事を気に留めていられないくらいに深刻なダメージが、私の顔をすぐに真っ赤に変色させた。
「は、はにゃして~」
「あー、今朝は珍しくよく喋るねぇ……でもやだ。ちゃんと反省するまで離してあげない」
「ごめんなひゃいー」
「え、なに? ハッキリ言ってくれないと聞こえないんだけど。それとも顔色だけじゃなくて、口まで林檎になって人間語を話せなくなっちゃったのかなぁ……?」
比較的長めの爪が食い込む勢いで、更に力を加えられる。ふふん、と澄ました笑みを隠し切れていないところから、彼が本気で怒っているという訳ではないと理解する。どうやら私は、完全に遊ばれているようだった。
どうしたものかなぁ、と悩んでいると。
「こら凛月、朝から何プレイだよ。そろそろ通報されるぞ、お前。離してやれって」
「あ、まーくん。おはよ~」
「おはよ。で、離してやれな」
突如現れた幼馴染みの一言に、凛月くんは端正な眉を不満げに顰める。
「んん、ちょっとお仕置きしてただけなんだけどねぇ。【名前】が昼間から変な事考えてるっぽかったからさぁ」
「いひゃいいひゃいいひゃい!」
「おい、言ってるそばから何やってんだよ! ……大丈夫か、【名前】?」
慌てて止めに入った衣更くんが、心配そうな面差しで私の頬を撫でてくれる。『遊び』を邪魔された凛月くんが明らかに不貞腐れた不服な表情を浮かべていたので、私はそそくさと黒髪の彼から視線を外した。
私がこくこく、と頷くと、衣更くんは苦々しい笑みを浮かべる。
「ったく、【名前】も少しは抵抗していいんだぞ~? 凛月のやつには、加減が難しいみたいだからさ」
左手をVの字に曲げてやれやれと首を振る真緒くんに、凛月くんは少々カチンと来てしまったらしい。鋭い自身の目を合わせようともせずに、アイドルらしからぬ毒を吐き始める。
「は? 幼馴染みだからって、分かったような事言わないでよね。【名前】もデレデレしちゃって、気持ち悪いなぁ」
「で、デレデレなんてしてないよ」
「してるでしょ、まさに今。老いた騎士よりも、眩い煌きと共に新たな時代を切り拓く若い星の方が魅力的って事かねぇ……?」
「ち、違うってば。夢ノ咲のユニットは皆キラキラ輝いてて……っていうか、どうしてそんな話になるの」
「さぁね。自分の言動を振り返ってみれば良いんじゃない?」
「いーや凛月、お前が振り返れ」
困った目線で訴える私を見兼ねたのか、衣更くんが凛月くんの額を指先でピンと軽く跳ねる。「いったぁ……」と突かれた箇所を片手で押さえて、ぷくりと片頬を膨らませた。
「まーくん、今日はやけに乱暴〜」
「おいおい、お前が俺達のプロデューサーを困らせるからだろ? 俺、生徒会長に呼び出されてるからもう行くけど、あんまり【名前】に迷惑掛けんなよ〜」
「ふーん、まーくんは困ったさんな俺よりもセッちゃん達生徒会を優先するんだ。ふーん、ふーん」
「お前もう、態度がコロコロ変わりすぎてよく分かんないぞ……それじゃ、邪魔者は退散しますよっと」
いつもの調子でそう告げると、衣更くんは自身の頭を掻き回しながら校舎内に入っていく。その背中を見送っていると、ふいに背後から首に両腕を回された。背中にずしりと伸し掛かった圧力に耐えられなくて、よろけるように背中が曲がってしまう。
姿勢を保ったまま、凛月くんが面白くなさそうに言った。
「【名前】、喉渇いた。今ここで"飲んでも"良い?」
「り、凛月くん……おも、」
「え〜、【名前】に言われたくないんだけど。ダイエットする〜とか言ったくせに、さっき購買で甘いお菓子買ってたでしょ。いけないんだー」
「う……だって美味しそうで……」
「うんうん。美味しそうなものを目の前にして口にしないだなんて、どう考えても無理だし大損、愚鈍極まれりだよねぇ。だから……」
彼の声のトーンが一層低くなり、細い息が更に耳元へ近付くのを感じる。思わず飛び跳ねて逃げてしまいたくなるが、背中の重みと足の緊張で上手くいかない。
吐息に乗せるようにして、凛月くんがその先を囁いた。
「【名前】の血、ちょーだい?」
「──!」
「はい、返事がないから決定ね」
ふふ、と音を立てて、凛月くんが意地悪く笑う。耳から自分の顔全体にかけて急速に熱を帯びていくのを実感した。
何度も経験しているとはいえ、やはり一般的に有り得ない『吸血』にそう易々と慣れる事など出来ない。私はただ静かに口を噤む事しか出来ずに、目を閉じて"その時"を待った。手を掛けられた制服のシャツの襟元から露出したうなじが、空気に晒されて少し肌寒い。
もう一思いに今すぐ吸ってほしい──とさえ思い始めたその時、ふっと重圧が私の体を離れた。
拍子抜けして地面に崩れ落ちた私を、凛月くんが正面に回って呆れたように見下ろしている。
「……なんてね。こんなとこで立ったまま食事する趣味なんてないし」
「え……ええと……」
「なに腰抜かしてるの、寂しいの? 後で幾らでも吸ってあげるから、ほら立ちなって」
「あ……」
溜息と一緒に伸ばされた手に驚きながら、自分の手を重ねる。冷ややかな感触に包まれて、ぐいっと手を引いてくれる──と思ったのだが、なんと凛月くんはそのまま此方へ倒れ込んできた。つい短く悲鳴を上げた私の上で、彼は「う〜……」と呻いている。
「【名前】重くて引っ張れない……やっぱり昼間はきらい……このまま寝る……すやすや……」
「り、凛月くん!?」
「うるさい〜……俺はここで寝るのー……ふふ、【名前】ふかふかで心地良い〜。流石、俺の枕……」
「凛月くん!!」
* * *
「アイドルの顔を引っ叩くなんて酷いよねぇ……? これ、立派な商売道具なんだけど。俺は何処に訴えれば良いのかなぁ?」
「だ、だって凛月くんが……」
「文句なんて最初から受け付けてないんだけど」
凛月くんが『〜んだけど』という語尾を繰り返す時は、大抵非常に虫の居所が悪い。ついでに付け足すと、気分の起伏が激しい割にご機嫌斜め状態が長いのだ。
頭の片隅で理不尽さを思い浮かべながら、私は吸血鬼の背中を小走りで追い掛ける。突然立ち止まった彼の背中に衝突したが、驚きの声を上げる間はなかった。
「はい、到着〜」
「えっと……中庭?」
「そう。格好のお昼寝場所」
凛月くんが柔和な笑みを此方に向けるので、思わずドキッと胸が躍動する。分かってはいたが、黒王子の名は伊達じゃない。
春風で彼の黒い髪が向かって左に流れて、何だか新鮮さを感じる。その雰囲気に反する事なく、穏やかな声音で凛月くんは言葉を紡いだ。
「ここ、この庭の中でも1番お気に入りの場所なの。木陰が良い具合に差し込んで気持ち良いんだよね」
「私と凛月くんが、初めて話した所だね」
「ふーん、よく覚えてるじゃん。出会い頭というか、安眠妨害が出会いの切っ掛けだったよねぇ。第一印象最悪だったんだけど」
「それは忘れてほしかったかな〜……」
「忘れられる訳ないでしょ、あんな始まりじゃねぇ。今こうして関わり合ってるのが不思議なくらい」
「あ、あはは……」
弁解を始める私なんてお構いなしに、凛月くんは近くの木樹に背中を預けてそのまま座り込んだ。性別と性格にそぐわない、古風な座り方──平たく言うと、正座をしている。
いつもは楽に真っ直ぐ伸ばしているのになあ、なんて首を傾げていると、「ほら何してんの」と声を掛けられた。自身の腿に両手の付け根を置いて、ぱしぱしと叩く仕草をしている。
「あ、ええと……」
「たまにはこっちが膝枕してあげるって言ってるの。いつもやって貰ってるからねぇ。今日は兄っぽい人が学院を出てってくれて気分が晴れやかだし、ついでにお礼? みたいな?」
「えっ、でも……」
「良いから。たまには俺と同じ景色を仰いでみなよ。俺、気分屋だから、早くしないと気が変わっちゃうんだけど」
はーやーくー、と急かすので、私は渋々彼の前に膝をつく。その先を躊躇う私に業を煮やしたのか、凛月くんが私の腕を掴んで、少しだけ乱暴に引き寄せた。あっという間に、彼の足の上に頭を収められる。
その膝枕は、思いの外硬かった。寝てばかりとはいえ、流石男子高校生兼『Knights』のアイドルといったところだろうか。改めて感心すると同時に反応に困っていると、彼は深い息に混じって口を開いた。
「さっきも言ったように、あんたの最初の印象って言ったら、それはもう酷かったの。俺のささやかな楽しみを奪おうとする、『悪い子』だったよねぇ?」
子供をあやすような口吻を弄して、私の頭を撫でる。髪が乱れないよう気遣ってくれているのか、全て一定方向だ。
次第に離れかけていた私の意識を、彼の「でも」の一言が連れ戻す。
「あんたはこんな俺を、いつも探してくれたよね。『Trick Star』や他のユニットのお世話だって忙しい筈なのに、『Knights』の事もきちんと考えてくれててさ……これでも、感謝してるんだよ?」
「……!」
「それでいつしか俺も、そんな【名前】の姿を探すようになってた。……ふふ、例えば修学旅行の時とか、すぐに気が付いたんだけど。凄いでしょ」
ふふん、と得意気に笑い、繊細な五指で私の髪をさらりと梳く。その様は、宛ら王子──いや、騎士のようだ。私の気持ちを意図して汲み取ったかのように、赤眼の騎士は続けた。
「眠くなってきた? 今回は許してあげるから、このまま寝ても良いよ。なんなら、騎士として子守唄でも歌ってあげようかなぁ。今日だけだからね……」
『Knights』の新曲を披露してくれるのかな、という予想は意外にも外れた。日本に住む人間なら恐らく皆が知っていると思われる王道の子守唄を、凛月くんは鼻歌で奏でたのだ。ぽん、ぽん、と方に置かれる掌がこれまた優しくて、何だか安心してしまう。
すっかり重くなってしまった瞼によって、ゆっくりと視界が狭まっていく。ふわりとした微睡みの中で、彼の声が降ってきた気がした。
「いつもありがとう。ゆっくりおやすみ、俺のお姫様」
* * *
「うーん……」
どうやら、随分と長い間仮寝をしてしまっていたらしい。辺りを見回した限りでは、既に夕刻を回っているようだ。慌てて腕時計スケジュールを確認して、今日は何も予定がなかったという事に深く安堵する。
──私、どうしてここで眠ってたんだっけ。
直前の記憶を辿ると、真っ先に『Knights』メンバーである朔間凛月くんの顔が浮かんだ。確か、彼に連れられてここへ来て──その先を思い出して、自分の顔が火照り始めるのをはっきりと感じる。
「あぁ……」
恥ずかしさのあまり頭を抱えて俯くと、ぱさりと何かが擦れる音がした。ふと手を離して、足元を見る。転がっていたのは、空色のブレザー──きっと、凛月くんのものだ。名前を見た訳でもなければ匂いを嗅いだ訳でもないが、すぐに分かった。その衣類を手に取って、抱き締めるように自分の方へと寄せる。
「……何も、置いていかなくたって良いのに」
目が覚めた私は木にもたれ掛かった状態だったので、恐らく凛月くんは既に何処か別の場所へ行ってしまったものと思われる。
実力派アイドルである彼が忙しいのは、当たり前。だから、私1人に構ってられる筈がないのも当たり前。特に今のような陽の落ちてきた時間帯なら、凛月くんもきっとレッスンしやすいだろう。
──さっきまでの時間は、もしかして夢か幻だったのかな。
鏡を見た訳ではないが、私はきっと今にも泣き出しそうな顔をしている筈だ。こんな弱いプロデューサーでごめんね、なんて考えながら手中のブレザーをきゅっと握り締めた、その時だった。
「なんて顔してんの」
淡々とした声が耳に届いて、私は俯いたまま目を見開いた。ばっと顔を上げると、その声の主と視線が絡み合う。
意図せず零れた1摘の雫が、はらりと頬をつたった。
「……騎士さま……」
「えっ、なに」
無意識の内に声に出してしまっていたらしい。数時間前に騎士のような慈愛に溢れた双眸で此方を見詰めていた彼が、ぎょっと軽く仰け反る。それは、リアクション芸でも勉強しているのだろうかと思う程に早い反応で──私の言った事ってかなり痛々しいんだなあ、と改めて気付かされて、すっかり萎縮してしまった。
そんな心情を知らずしてか、騎士──凛月くんが更に言葉を重ねた。
「それじゃあ【名前】は、お姫様かなぁ」
「……!」
「何で顔隠すの」
「さっ……き……」
凛月くんの言葉の通り、私は両腕を使って自分の顔を覆っている。『隠すって事は、何かやましい事があるの? その場を凌ぐ為の嘘や隠し事を俺が嫌ってる事くらい、あんたもよく知ってる筈だよねぇ?』なんて言われるに違いない──そう思っていたのだが、そんな懸念は全く不要だったようだ。腕の隙間からは、静かに此方の話を聞く姿勢を取る凛月くんの姿が覗けた。
私は観念して、ぽつりぽつりと話し始める。
「……夢、見たの。凛月くんがまるで、本物の騎士様みたいだった」
「ふーん。俺は騎士として紛い物だって言いたいんだ?」
「そ、そうじゃなくて!」
「分かってる、ちょっとからかっただけ。冗談通じないよねぇ、【名前】って」
冗談が通じないのは凛月くんも同じではないか、という言葉が喉の先まで出掛かっていたが、何とか抑え込んで苦笑いを浮かべる。
凛月くんは、暫く貫いていた無表情を「あー……」という嘆息と共に崩したかと思うと、矢庭に白い右手を此方へ突き出した──かなり悠揚迫らぬ態度なので、"伸ばした"と言うよりしっくり来る。
「はい」
「はい?」
「はい」
復唱された事については不満を持たなかったらしく、凛月くんは一本調子に自分の音を繰り返した。
"yes"の意ではなく、恐らく『はいどうぞ』とか、何らかの前置きとして使用する方の『はい』だ。差し出されたらしいその白い手を、おずおずと取る。瞬間そっと握り返されて、何だか照れくさくなった。
「……えっと、」
「行くよ」
「えっ……何処に?」
「俺達のスタジオに決まってるでしょ。ほら早く、手は掴んでてあげるから自分で歩いて」
引っ張ってはくれないんだなあ、とぼんやり考えながら苦々しく首を傾げる。それを見た凛月くんが、したり顔でふふん、と音立てて笑った。
「ダイエット真面目にやるなら引っ張ってあげても良いよ。俺としては、寧ろ『おんぶ』してほしいくらいだけど」
「な、なに、その条件……」
「このくらい言ってあげないと、多分続かないからねぇ。まあ、そのままでも十分悪くないと思うけど」
「……! 本当!?」
「裕福なお姫様なら、そのくらい健康的な体型の方がそれっぽいでしょ」
「それ、どういう意味……」
「はいはい、手離すよ」
「ち、ちょっと待って……!」
容赦なく歩き出す彼の後──陽も落ちてきたので、人並みに速い──を、一生懸命小走りで追い掛ける。ダイエットになって丁度良いかも、という発想は、頭《かぶり》を振って吹き飛ばした。
私の知っている赤い双眸の騎士は、驚く程にマイペース。騎士様だ〜って思ってしまうような紳士さも寛大さも、あまり大きく持ち合わせてはいない。
でも、ひとたび戦場《ステージ》に上がったなら。舞台の幕が、開いたなら。その時の彼は、他の誰にも劣らない自分だけの輝きを放つ──私の騎士って、そんな人なんだ。
私はクスリと微笑んで、待ってってばー、と大声で叫んだ。
「……夢オチに出来てたみたいで良かった」
そんな彼の声は風に飛ばされ、私の耳には届かなかった。