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エルリック家
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それは私がまだ国家錬金術師になる前の話。
イシュヴァールの内戦のあと。私は東部に位置するリゼンブールという村のある一家に養子して引き取られた。
母の名はトリシャ・エルリック。父の名はヴァン・ホーエンハイムという。彼らには一人息子がいて、それがアルフォンス・エルリックだ。
私が彼らに引き取られてすぐ、父のホーエンハイムは家を出る。理由はわからなかったけれど「母さんを頼んだ」という言葉と、頭を撫でてくれた大きな掌を私は未だ忘れられずにいる。
母のトリシャは一言で太陽の様な人だと思った。やわらかく穏やかな笑みでアルフォンスだけじゃなく私も包んでくれる、そんな温かい女性だった。アルフォンスは聡明で、優しい子。自分の心配より他人の心配ばかりする。
そんな彼らが大好きだった。私は大好きだったの__。
事の始まりは些細なもの。同じ村に住む数人の人達が、家ヘと怒鳴り混んできたのが始まり。
『トリシャ、わしらはあんたになんの恨みもないがな。だがその子供は違う。そのイシュヴァールの娘はいつか必ず村に厄災をもたらす』
『その赤い目。今でも忘れんよわしは。この娘は恐ろしい人殺しじゃ!』
エルリックの家へとやって来たのは元アメストリスの軍にいた兵士だと名乗る男達だ。
彼らは先のイシュヴァール殲滅戦に派遣された者達。そこで私の姿を見たのだと口々にお母さんにまくし立てた。
母さんはその男達に私は違うと。親をなくした戦災孤児だと庇ってくれたけれど男達は信じなかった。
『イシュヴァールのガキが』
吐かれた差別の言葉と共に向けられた銃口。それは至近距離だった。
撃たれる! と思ったその時。
ガウン! という音と共に聞こえたのは、母さんの呻く声だった。
『おか……さん?』
服に伝う生温い雫。ずるりと滑るように膝に落ちたのは愛する母の顔だった。
『おか、さん……お母さん!!』
悲痛の叫びと共にすがりついた母の身体は大きく震えていた。胸元には赤い染み。
何故? 何故? 何故こんな事になってるの!?
パニックになる思考。お母さんと叫びつづける私と、親しい人間の血まみれな姿に恐れをなしたのか男達は次々に家を飛び出していく。
残された私は次第に弱くなる呼吸と、冷たくなっていく母の身体をただ抱き締める事しか出来なくて……。
最後『愛してるわ』という言葉と共に動かなくなった母に、私はずっとごめんなさいと言い続けた。
何故? 何故この人が死なないといけないの?
何故? 何故私を庇ったの?
その答えは3年経つ今でもわからないまま。
だから私は答えを欲したの。
大好きだった人。愛する人、
またあの声が聞きたくて。
またあの微笑みを見たくて。
だから私は禁忌を犯した。錬金術師として犯してはならない最大の禁忌。
人体錬成を。
錬金術で母を生き返らせようとしたのだ。
でもそれは失敗し、巻き込まれたアルフォンスは全身をなくし魂だけを縛った鎧の姿になってしまう。
そして私は。
私は__。