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「…………」
ふと、広がった視界が映したのは見慣れた茶色の天井だった。開いた窓から見えたのは明けきらぬ空。そしてしとしと降る雨。
むくり、と上体を起こせばベッドの淵に寄りかかる様に座っていたアルフォンスが暗闇の中みじろいだ。
「姉さん?」
「雨……」
ぼ、とした思考の中呟いた言葉。それにアルフォンスが同じ様に窓の外を仰いだ。
「寒い?」
外を見たまま動かない私に、アルフォンスが傍らにあったコートを肩にかけてくれた。それに手を添える。
「ありがとう」
「あ、そういえば」
ふと思い出した様に傍らにあった棚から数枚の紙を拾い渡してくる。なに? と聞けば報告書だよと返された。
「報告書?」
「今セントラルを中心に国家錬金術師だけを狙った事件が相次いでいるんだって。同じ錬金術師の姉さんにも気を付けるようにってさっき軍の人が持ってきてくれたんだ」
「物騒ね。犯人は錬金術師に恨みのある誰か……かしら」
そんなのいくらでもいるでしょうけど。自虐的にも似た言葉を吐きながら、紙に目を通していく。3枚目に行く少し前。二枚目の最後ら編に書かれていた犯人の目撃情報に目をとめる。
通称名 スカー
性別 男
銀の髪、褐色の肌をしたイシュヴァール人。
「イシュヴァール……人」
国家錬金術師の連続殺人犯がイシュヴァール人ですって? え、でも。
もう1度一枚目から目を通していく。その紙面に書かれていたのはそのイシュヴァール人に殺されたとされる国家錬金術師の名簿だった。15人、けして少なくはないその人数に眉間に皺を刻んだ。
ルーカス・プレディー。
クレス・ミキサー。
マルコ・ウェザー……。
どれも知らない名前だった。
もしこのイシュヴァールの犯人が先の内戦での恨みで国家錬金術師を殺して歩いてるとするなら1人はいるはずだ。あの戦地にいた者が。けれど私が知る限りでその15人の中にそれらしき人物を見つける事は出来なかった。
錬金術師なら誰でもいいということかしら? それとも戦地にいた人物を探しての犯行? でもそんな事してたら事が知れ渡って反対に危険な目にあうはず。
それともこの犯人は錬金術師そのものを……?
「姉さん? 姉さん」
「あ、ごめんなさい。なぁにアルフォンス?」
「変な事、考えていないよね?」
「変な事?」
「この犯人を捕まえようなんて、思っていないよね」
今まさに考えていた事を代弁された様で私の頬が軽く引きつった。
「そんな事」
「思ってるでしょ。姉さん嘘つく時左頬だけ持ち上げるくせあるの、気付いてる?」
流石。よく見ていらっしゃる。
「捕まえようとは思ってないわ。ほんとよ? ただ、イシュヴァール人だというからちょっと気になっただけ」
でもきっと彼が無差別に国家錬金術師だけを殺すというならきっと私の前にも現れるはず。
イシュヴァール人の国家錬金術師。それだけできっと彼への餌になるはずだから。
「知り合いだったらって。思っただけ」
そう。同じイシュヴァールなら私の事を知らないはずはない。もし、出会ってしまった時。彼はどう思うのかしら。
軍の狗に成り下がってしまった、今の私を見たら____。