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「ッしゃあやったぜ!!百億いただきィ!!」
「ざまァ!!まさかこいつも自爆テロは予想してなかったろ!!」
寺坂くん、吉田くん、村松くんが歓声をあげる。
「ちょっと寺坂。渚に何持たせたのよ!」
「あ?オモチャの手榴弾だよ。ただし火薬を使って威力を上げてる三百発の対先生弾がすげえ速さで飛び散るように」
「なっ……」
友達に、クラスメイトに何てことさせるの。
爆弾の脅威はその爆発による熱による火傷よりも破裂した破片による裂傷にある。まずは潮田くんの安全確認をしないと。
「人間が死ぬ威力じゃねーよ。俺の百億で治療費ぐらい払ってやらァ」
潮田くんの側に駆け寄り、ケガがないか見る。
え、無傷?火傷ひとつも負ってない?それに何だろう、この潮田くんを覆うこの膜……タコの…先生の形?
「潮田くん、潮田くん」
膜を剥がし、潮田くんの肩を叩き意識の確認をする。
潮田くんは爆発の衝撃に気絶していただけだったようで直ぐに気がついた。良かった。
「実は先生、月に一度ほど脱皮をします。脱いだ皮を爆弾に被せて威力を殺したつまりは月イチで使える奥の手です」
先生の声のする方向に視線を向けると、先生は天井の梁を上手く使って天井に張り付いていた。
そして──先生の顔色は顔色を見るまでもなく……
真っ黒 ド怒りのようす。
「寺坂、吉田、村松、首謀者は君等だな」
「えっいっいや…….渚が勝手に」
一瞬光が走り、寺坂くん達の足元に表札が落ちる。
「え、あ………」
「「!!──俺等ん家の表札!?」」
表札?
「政府との契約ですから先生は決して君達に危害は加えないが、次また今の方法で暗殺に来たら、君達以外には何をするかわかりませんよ」
そう言って皆の表札を教卓にばら撒く先生。
あ、そうか。表札はその人の家──ひいては〝家族〟を表す。つまり、先生は言外に家族を人質にとったんだ。
「家族や友人……いや君達以外を地球ごと消しますかねぇ」
政府との契約は椚ヶ丘中学校3-Eの生徒に危害を加えてはいけない、だった。つまり、私達以外の人間に危害を加えようが何しようが先生は咎められない。
そして、みんな五秒間で悟った。”地球の裏でも逃げられない”と。どうしても逃げたければ……この先生を殺すしかないと。
「なっ……何なんだよテメエ……迷惑なんだよォ!!いきなり来て地球爆破とか暗殺しろとか……迷惑な奴に迷惑な殺し方して何が悪いんだよォ!!」
腰を抜かした寺坂くんが声を裏返して抗議する。
「迷惑?とんでもない君達のアイディア自体はすごく良かった」
先生は触手を潮田くんの頭に乗せた。
「特に渚君、君の肉迫までの自然な体運びは百点です。先生は見事に隙を突かれました」
「……!!」
「ただし!寺坂君達は渚君を渚君は自分を大切にしなかった…!!そんな生徒に暗殺する資格はありません!」
「人に笑顔で胸を張れる暗殺をしましょう!君達全員それが出来る力を秘めた有能な暗殺者だ。暗殺対象である先生からのアドバイスです。そして、東西南北さん」
「はい」
「皆が状況に動けないでいる間に貴女は周囲の安全確認に加え渚君の安否を怠らなかった。素晴らしい状況判断と対処です」
ペタンと触手で撫でられた。なんか思っていたより柔い。
「さて問題です渚君。先生は殺される気など微塵も無い。皆さんと3月までエンジョイしてから地球を爆破です。それが嫌なら君達はどうしますか?」
マッハ20で怒られて、うねる触手で褒められた。そして悟ってしまった。
あぁ、この〝先生〟は私を、私達を正面から殺意も何もかもまっすぐに受け止めてくれるだろうと
「……その前に先生を殺します」
「ならば今殺ってみなさい。殺せた者から今日は帰って良し!!」
「殺せない……先生──あ、名前。〝殺せんせー〟は?」
「シャレも効いていて良いのでは?1年間、よろしくお願いしますね〝殺せんせー〟」
───此処は暗殺者と標的が同居する暗殺教室。始業のベルは明日も鳴る。
「さて、殺せんせー。課題が終わりましたので私は帰りますね」
みんなが意外そうな顔を向けてくるがナイフを振りかぶらなくても銃を向けなくても、物理的に殺さなくても殺せなくても殺し方はいくらでもある。
短冊を渡すと先生は明るい朱色の顔になった。
「───!! はい、趣向を凝らした素晴らしい歌ですね。また明日」
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