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基礎の時間
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「晴れた午後の運動場に響くかけ声……平和ですねぇ……───生徒の手に武器が無ければ、ですが」
体育着を着て運動場を眺める殺せんせー。その視線の先には、号令に合わせて対先生ナイフをふるう生徒の姿。
「八方向からナイフを正しく振れるように!!どんな体勢でもバランスを崩さない!!」
と生徒達に指導するのは防衛省の烏間さん。あ、先生になったんだっけ。
「この時間はどっか行ってろと言ったろう。おまえが体育着着てどうする。体育の時間は今日から俺の受け持ちだ」
そう言って殺せんせーを睨み上げる烏間先生。流石叩き上げの軍人……じゃない、自衛官。そこらのチンピラも泣き出すレベルだ。
「……追い払っても無駄だろうがな。せいぜいそこの砂場で遊んでろ」
「ひどいですよ。烏間さ……烏間先生。私の体育は生徒に評判良かったのに」
泣きながら砂場でペタペタと素直に砂遊びをし始める殺せんせー。その砂場は遊び場ではないと思うんだけどな……
「うそつけよ、殺せんせー。身体能力が違いすぎんだよ。この前もさぁ……」
菅谷くんが静かに突っ込みを入れる。
確かに、殺せんせーの体育の授業はなんと言うか………異次元過ぎた。
「───……では、反復横飛びをやってみましょう。まず先生が見本を見せます」
等間隔に引かれた3番線の真ん中に立った先生。見本を見せると言った次の瞬間、先生が3つになった。
「「「「!!?」」」」
「まずは基本の視覚分身から。慣れてきたらあやとりも混ぜましょう───……」
───その授業は生徒のブーイングで幕を閉じたのは記憶に新しい。
「体育は人間の先生に教わりたいわ」
杉野くんのこの一言に殺せんせーはとどめを刺された様でトボトボと砂場遊びに戻った。
「……やっと暗殺対象を追っ払えた。授業を続けるぞ」
「でも烏間先生こんな訓練意味あんスか?しかも当の暗殺対象がいる前でさ」
溜息を溢した烏間先生に前原くんが質問をする。
「勉強も暗殺も同じ事だ。基礎は身につけるほど役に立つ」
「「「「????」」」」
勉強の基礎が大事な事は言うまでもない。でも、暗殺も基礎が大事なの?
「例えば……そうだな。磯貝君、前原君。そのナイフを俺に当ててみろ」
烏間先生は2人を指名して構える。
「え……いいんですか?2人がかりで?」
「対先生ナイフなら俺達人間に怪我は無い。かすりでもすれば今日の授業は終わりでいい」
「え、えーと……そんじゃ………」
と少し戸惑いながら磯貝くんはナイフを烏間先生へ振りかざす。が、烏間先生はスッっとナイフをよける。
「!!」
「さあ」
そして、前原くんにも目線で誘う。
「くっ」
前原くんも同じく襲い掛かるが烏間先生は、ナイフを意図も簡単にかわす。
「このように多少の心得があれば素人2人のナイフ位は俺でも捌ける」
「ゲッ」「わッ」
磯貝くんと前原くんが襲い掛かるが、まとめて烏間先生に腕をとられ投げられてしまう。
「すごい……」
「俺に当たらないようでは、マッハ20の奴に当たる確率の低さがわかるだろう。見ろ!今の攻防の間に奴は、砂場に大阪城を作った上に着替えて茶まで立てている!」
「……結構なお点前で」
「いえいえ」
殺せんせーの傍らには完成した砂の大阪城が建っており、丁寧に緋毛氈(ひもうせん=赤絨毯)を敷いてそこで東西南北さんをもてなしていた。あー…暗殺に関係する事だから体育の授業は欠席なんだね、東西南北さん。
「そして生徒を巻き込むな!!」
烏間先生の怒りもなんのその、先生はニヤニヤと笑っていた。
───腹立つわぁ………
「クラス全員が俺に当てられる位になれば、少なくとも暗殺の成功率は格段に上がる。ナイフや狙撃暗殺に必要な基礎の数々体育の時間で俺から教えさせてもらう!」
そう、烏間先生は宣言し授業…と言うか訓練の続きに戻った。
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