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はじまり
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最後に叫んだ言葉は何だっただろう。
助けて? 死にたくない?
もう今は憶えてないけれど。
だけどひとつだけ憶えてるんだ。
それは悲しいと言う思い。
そして見捨てられたんだと言う絶望感。
そう
私は見捨てられたのだ。
私をこの世に生み出した者達自らの手で。
許さない
許さない
許さ……ない────。
「やぁ、やっと目覚めたね小さなレディー。わしの顔が見えるかね」
暗闇から目を覚ますと、目の前に見知らぬ男性がにっこりとした笑みを携えて私の顔を覗き込んでいた。
私の前でパタパタと掌を振りながら見えるかねともう一度同じ質問をしてくる。
「……はい、Dr.」
呟く様にそう答えを返せば、Dr.と呼んだ男は笑みを深くして私から放れる。
それにひかれる様にそっと状態を起こせば、さらりと黒く長い髪が頬をくすぐった。
「…………」
その髪を一房掌にとりジッと見詰める。
これは何かしら……?
何故私の髪がこんな色になっているの?
首を傾げていると、突然ポンッと肩を叩かれ顔をあければ先程の男と目があった。
「どうだね、それが人の身体というものだセト」
セト……? それが私の名前?
セト……セト……。
「まだ安心は出来ないがこの少女の身体と君の電脳は上手く交わった様だ」
「電脳……?」
何の事だろうと瞬きをすれば、ふいに男が眉を寄せた。
「記録回路にバグが出ているのか?」
言って傍らの台に置かれたPCを覗き込みキーボードの上を細い指が軽快に踊る。
それをボーッと見つめていると、男がふむと頷く。
「まぁ多少のバグは仕方がなかろう。どれ、少し立ってみろセト」
「え……?」
立つ?
あぁ、地に足をつけろという事ね。
耳から入る情報と頭で理解する速さに多少の違和感を覚えながらも言われたとおりに寝台の上から地へと足をつく。
けれど足は冷たいコンクリートを踏みしめきれず、支えを失った私の身体はガクリとその場にへたりこんでしまう。
「なんだ、立てないのか?」
Dr.が上から見下ろしながら訪ねてくる。私がコクリと頷き返事を返すと、自分の顎を指でさすりながら彼はもう一度も「ふむ」と頷いた。
「まぁ五年も寝たきりだった身体だ仕方がない」