-
策士流プロポーズ
-
あーびっくりした。いきなり結婚とか言われてもはっきり言ってピンと来ない。
デリカシーないよね…。捲簾さんは冗談で言ってたんだろうけど。そういや、天蓬さんもいつかは結婚しちゃうのかな…。な、何で天蓬さんのこと考えてんだろ…。
それより財布忘れた!どうしよう。怒って出て行った手前戻りにくいよ。
「どうかされたんですか?」
声をかけて来たのは天界でも少し地位のある男性だ。
「いえ、特には。天蓬元帥のところに行かなくてはと思い出しただけですので。」
あながち嘘ではない。現に忘れ物しているし。
「天蓬元帥も隅に置けないですね。あなたのような美しい人を付き人にしているなんて。」
そう言って髪に触れてくる。何だか怖くなってきて思わず一歩下がってしまったが、後ろは壁だ。逃げ場がない。
「良ければ、私のところに付き人に来ませんか?あなたなら大歓迎ですよ。」
「いえ、私は…。」
今度は頰に触れて来ようとして来て、逃げたかったけど、体が動かなかったから目を瞑った。何も触れてこないので恐る恐る目を開けたら天蓬さんが男性の腕を掴んでいた。
「花蓮に何か用ですか?彼女は僕の付き人なんですから、まずは僕を通してもらわないと困りますねぇ。」
そう言って天蓬さんは私の手を取ると歩き出した。だが、すぐに男性のほうに振り返ってまた話出した。
「あ、言い忘れてましたが、僕たち婚約してるので、もう花蓮には近寄らないでくださいね。」
えぇー!!と言いそうになったが、さりげなく天蓬さんに口を塞がれてしまったので何も言えなかった。でも、男性のポカンとした顔はあまりにも滑稽だったので少しだけスッキリはした。
「天蓬さん。あの…。」
「すいませんね。前からあなたがあの男に言い寄られてたのは知っていたので、あそこまで言っておけばもう大丈夫でしょう。」
「でも、そんな婚約なんて…。それが嘘なんてバレたら…」
「だったらこれから事実にすればいいんですよ。」
「へ…?!」
私が驚いて声を上げたが、天蓬さんはニコニコとして私を見ている。その様子は私の反応を見て楽しんでいるように見えなくもない。
「本気で言ってます?」
「僕は冗談でこんなことは絶対言いません。それとも僕と結婚するのは嫌ですか?」
「そんな聞き方はズルいです。それにさっき私にいい人いないんですか?って聞いてたから私のことなんてアウトオブ眼中かと思ってました。」
「その言い方ちょっと古いですよ。確かにそうともとれる言い方をしてしまいましたね。あれはあなたにそういう人がいないか単に気になっただけですよ。」
「え…。」
天蓬さんは戸惑う私の手を取って甲にキスを落とした。
体中の熱が顔に集まるのが感じられた。
「天蓬さん…!」
「花蓮。改めて言います。僕と結婚してください。」
私はもう、はい以外答えることなどできなかった。
…なんか大事なことを忘れている気がするけど、まっいっか。
「あ、思い出しました。」
「何ですか?」
「僕、あなたに財布届けに来てたんでした。」
「あ…。」
「まさか、こんなことになるとは思いませんでしたけど、結果オーライというやつですね。」