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Princess Kidnapping
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サラバンナ島
シャボンディ諸島から少し離れた人口108万人が住む小さな島。
その島の離れに小さなBARが一つ。
落ち着いた雰囲気を漂わせるその場所の扉が壊れるくらいの勢いで開かれた。
「邪魔するぜ!」
扉の先には燃えるように赤い髪を逆立て、他を威圧するかのような風貌をした男性。その後ろには怪しげなマスクを被った男やその他にも奇抜な格好をした連中がぞろぞろいた。
一目見て彼らが海賊だと理解したオーナーは、彼の後ろで海賊達を呆然としながら見ているアルバイトとして雇った娘、アマンダにメニュー表の用意を促し、自分は席に案内する。
アマンダに用意させたメニュー表をおそらくこの海賊団の船長かと思われる赤い髪の男に差し出すと、男は人一人殺せそうなくらいの鋭い眼光でオーナーをひと睨みした後、
「酒を樽ごと持ってこい」
とだけ告げた後、メニュー表を受け取る素振りすら見せず隣にいるマスクの男と何か話し始めた。
帰ってきたオーナーはメニュー表を持って行く前よりも顔面蒼白で、それを見たアマンダは酒を用意する前に此方へ来いと指で支持するオーナーに疑問を浮かべながらも彼の側に駆け寄る。
「店長、大丈夫ですか?顔が…」
「あの顔は、いや、間違いない…」
焦点の合っていない目で何やらぶつぶつと独り言を呟くオーナー。
今は〝ひとつなぎの大秘宝〟を求めて海を渡る大海賊時代だ。小さなBARとはいえ、今までにも海賊達が訪れた事はあった。
その度にアマンダは裏に回され、オーナーが注文を取っていた。確かに海を荒らすゴロツキばかりだったが、海賊にこれだけ怯える姿のオーナーは見た事はない。
「手配書で見た事があった。新聞にもよく顔を出す。
奴はユースタス・キャプテン・キッド。懸賞金3億越えの海賊だ」
「…え?」
懸賞金3億越え。
ユースタス・キャプテン・キッド。
その名前ならアマンダも耳にした事があった。
一般人の虐殺も平気な顔で行う非道の海賊。
今までの海賊もシャボンディ諸島までの苦難の道のりを渡ってきた猛者ばかりなのでそれなりの額はあったが、億を超える程の者はいなかった。
なるほど、それだけの実力の者なら、オーナーが怯えるのもわかる。
オーナーは「裏から酒を樽ごと持ってきてくれ」と言ってアマンダをその場から遠ざけようとする。
しかし、タイミングが悪く凶悪な海賊達が集うそのBARの扉を今度は静かに開ける者が現れた。
「あ、いらっしゃいま…」
「…!
てめェは、ユースタス屋か?」
海賊達に絡まれる事態を避ける為、入ってきた客をカウンターへ案内しようと扉を開けたその者に駆け寄るアマンダ。
だが、予想外の人物がアマンダの目にとどまる。
獣の足跡のような模様の帽子を深く被り、その影から見える目の下には隈がうっすらある。
がっしりとした体格のキッドとは違い、長身で細身の身体。
身丈ほどもある刀を肩に担ぎながらやってきたその男は
「!トラファルガー、てめェ何故ここにいやがる!?」
懸賞金2億ベリー、〝死の外科医〟トラファルガー・ロー。
シャボンディ諸島で天竜人を拘束し、海軍相手にキッドや麦わらのルフィと共に戦った海賊だ。
彼の後ろには、皆同じつなぎを着た海賊達が騒ついていた。
「俺がどこでどうしようがてめェには関係のない事だ、ユースタス屋。
…17人、入れるか?」
「は、はい。空いてる席へ、どうぞ」
そう言うとぞろぞろと席へ向かう海賊達。
三億越えと二億の海賊が集う一味がBARに集結している異様な光景に、オーナーとアマンダは息を呑んだ。