-
Princess Kidnapping④
-
その後、オーナーから聞いた話によると、男は妻と子供を海賊に殺され、更に昨年、唯一側にいてくれた母親も肺癌で亡くなったらしい。
元々住民と友好的ではなかった男は心の拠り所を失い、何もかもが嫌になって現実逃避をするかのように酒を飲み続けた。
そのせいでますます人が寄り付かなくなり、わざわざ離れにあるこのBARまで憩いの場を探しに来たのだという。
男は人の視線に敏感になっていた。心の拠り所を強く求めれば求めるほど、人からどう思われているのか気になる。
そのストレスを少しでも緩和させるために酒を飲む。酒を飲み続けると理性を失い周囲に迷惑をかける。
その繰り返しだった。
とても迷惑な人であったし、実際に襲われそうになったけれど、オーナーからその男の過去を聞くと、自身が最も憎む海賊に最後は殺されるなど、少し、ほんの少しだけ同情するアマンダだった。
翌日
やはり、住民の話によると男は死んでしまったらしい。医者の話によると即死だったという。
海賊が暴れたという噂はあっという間に町中に広がり、住民達は外出を控え、外は人っ子一人いなかった。
そんな中、島の離れに船を停めておいたキッドとキラーは、突然の来客に驚愕する。
「何の用だ、トラファルガー」
クルー達の殺気に怯むことなくコツコツと静かな足取りでやって来たのは、昨夜、偶然同じBARで顔を合わせたローだった。
ローは殺気立った海賊達の中心に立つ一際目立った風貌の男、キッドにある海図を見せる。
「〝ディストピア島〟への海図だ」
「!!?」
ディストピア島、それは今まさに自分たちが向かう島の名前だ。
ローがその海図を見せたことで、キッドはローも同じ目的でその島に行こうとしているのがわかる。
「てめぇも四皇の首を狙ってこの宝を手に入れるつもりだろう?ユースタス屋」
「…何が言いてぇ」
「簡単な話だ、今すぐてめぇの持ってる海図をおれに寄越せ」
「あぁ!?」
突然の物言いに怒りが収まらないキッド。
ローの話だと、この海図はまだ未完成で二つの海図を合わせてはじめて宝のありかを示す海図が完成するとのこと。
昨夜立ち寄ったBARのオーナーが見せた海図がローの持っている海図を完成させるパズルのピースだそうだ。
「ふざけんな!!ならてめぇの海図をおれに寄越せ!」
「まぁ想定内だ、元から話し合いで解決させようなんて思ってねぇ」
ローが刀を抜こうとすると、キャプテン!と後方から滑走を変えてクルーの一人がローを呼ぶ。
「大変だキャプテン!軍艦がこっちに向かってくる!!」
「「っ何!?」」
どうやら海賊が来たことが町の住民達に知れ渡ってしまい、そのうちの一人が海軍を呼んだらしい。
幸い頂上決戦の後、白ひげ海賊団の縄張りを荒らす海賊達の処理で忙しいのか、大きな軍艦の割に乗っている海軍の数は少なかった。
「大した数じゃねぇ、お前らでなんとかしろ!」
「無理だキャプテン!だって、あそこには〝青キジ〟も乗ってるんだ!!」
「「!!?」」
突然の報告にローだけでなくキッド達も驚愕する。
キッド海賊団の一人が望遠鏡で軍艦を見ると、確かに船の真ん中に仁王立ちしているのは、海軍大将〝青キジ〟だ。
天竜人人質事件の共犯者の二人を捉えに来たのだ。
「キッド!一旦船を置いて島の何処かに隠れるぞ!」
「チッ!てめぇら!!今すぐ船から降りろ!!」
キッドの声に船にいた船員達が急いで梯子をつけて降りる。
好戦的なキッドも大将とやりあうのは避けたいらしい。
ローもキッド達と同様の支持を報告して来た部下に伝え、その場を離れる。
しばらくして、海軍の船が島に上陸した。
その中から梯子を使わずに飛び降りたのは長身の男
海軍大将〝青キジ〟だ。
降り立ったその場で仁王立ちをしながらポリポリと頭をかく。
「トラファルガー・ローとユースタス・キッドがこの町にいるってのは本当らしいね」
「はい!この船はキッド海賊団のものでして、あちらの岸にハートの海賊団の船も発見されました!」
「んじゃ、中に誰かいないか確認して来て。おれは、あれだ、忘れたもういい」
「町の住民に聞き込みに行ってくださいよ!!」
銃を持った海軍達がキッドとローの船に乗り込む。
その様子を昨夜破壊された倉庫の瓦礫から覗くロー達。少し離れた隣の瓦礫にはキッドとクルー達が隠れている。
すると昨夜自分たちが暴れたBARに足を踏み入れる青キジ、クザン。彼はその店の壁が破壊されていることに気づき、穴の空いた壁から人を呼ぶ。
するとその中からアマンダが出てきて、事情聴取を受けていた。
話の内容は聞き取れないが、なかなか話が終わらないところを見ると、どうやら昨夜の出来事を話しているらしい。
その様子を見ていたキラーの首元から一筋の汗が溢れる。
昨夜、自分たちはそのBARでこれからの事を話していた。あの女はその時あの場にあまりいなかったので詳しい内容は知らないだろうが、オーナーはもしかしたら聞いていたかもしれない。
女がオーナーを呼んで来たらまずい。
キラーの嫌な予感は的中して、女は一度店の中に入ったかと思うと、中からオーナーが現れた。
よく見えないが、二人が話をしているとクザンの顔が険しくなっている姿が見える。
すると、女が酒瓶をもってこっちに向かってきた。
気づくと此処はキッドとローによって吹っ飛ばされた男が死んだ場所。お供えにやってきたのだ。
「…え?」
瓦礫の後ろで隠れていたローと出くわし、面を食らった顔で見てくる女。
女が悲鳴をあげそうになったところで、咄嗟にローが彼女の腕を引っ張り自分の方へ引き寄せた。
怯える彼女を後ろから口を塞ぎ更にもう片方の手で彼女の両腕を後ろで拘束し身動きを封じる。
「さて、どうするか」
ローがそう呟いた時、拘束している女を見てニヤリと口元を歪める。
離れ隣にいるキッドに目線で合図をした後、クルーに何かを書かせた紙をキッドのクルーに投げ渡す。
舌打ちをしながらもクルーから受け取った一枚の紙を広げ、キラーとともに内容を読む。
**************
「んー、じゃあ本当にその後の彼らの行動は知らないわけね」
「はい、お役に立てずすみません」
ぺこりと頭を下げるオーナーにいやいやとんでもないと謙虚な対応を見せるクザン。
すると、彼らの周りに円状の空間が現れる。
「こ、これは…!」
見たことのあるソレに驚愕していると、何もない場所から突然クザンとオーナーの前にお尋ね者の二人とその内の一人の部下が姿を現した。
「あーらら、まさか向こうさんから来てくれるなんてねぇ」
「!アマンダ!」
対照的な反応を見せる二人の前には、キッドとロー。そしてキッドの部下であるヒートとローに拘束されているアマンダの姿があった。
両手と口元の拘束はとかれているものの、アマンダの首元にはローの愛刀が鞘から僅かに刃を出して食い込むように添えられている。
「おれ達はこれからこの島を出る。女はそれまでの人質だ。」
どうやら人質を見せてクザン達を脅すつもりらしい。
ローの腕の中でか細い悲鳴をあげながら助けを請うアマンダ。
「た、たすけ…」
涙目でそう訴えるアマンダの後ろには、次々と海軍が悲鳴をあげながら船の上から放り投げられている。
「頭ァ!船は奪い返しましたぜ!!」
ローとキッドに気を取られている間に隙をついてクルー達が各々の船に戻り、中にいる海軍達を倒していたのだ。
「これはまたやってくれたね、捕らえる前にちょっと灸をすえないと」
そう言うとクザンは地面にある草を引っこ抜き、悪魔の実の能力で氷の剣をつくる。
「ヒート!!」
だがキッドの命でヒートと呼ばれる海賊が口から火炎を出したことでその氷はあっという間に溶かされる。
その一瞬の隙をついて、ローは〝シャンブルズ〟と唱えると、四人の姿は一瞬にして消えた。
「なっ!アマンダ!?」
オーナーが困惑していると、帆をあげたキッド海賊団とハートの海賊団の旗が見えた。
そしてその先には、各々の船に乗っているキッドとローの姿もある。
さらにローに拘束されているアマンダの姿も発見された。
倒された海軍の一人が立ち上がり船の先にいるキッドに向かって銃を構えるが、その銃は突然宙に浮いて、キッドに操られる。
そして大量の武器を宙に浮かせ、キッドはそのまま海軍達に向かってそれをぶっ放した。
衝撃で煙が立ち上る中、遠ざかる二つの船。
あとを追いかけても人質がいる以上迂闊な行動は取れない。ここは見逃すのが最善の策だと考えたクザンは涙ながらにアマンダの名を呼ぶオーナーに振り返った。
「あのお嬢さんは我々が必ず助けますんで、詳しい話を聞かせてもらえませんかね」
「詳しい話って…」
「奴らの向かう先…ですよ」
クザンは遠ざかる二つの船を見ながら、これから起こるであろう面倒な事件に頭を悩ませることになる
To Be Continue…