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Common Front of Pirates②
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「クマが喋った!!」
「なんでクマが喋るんだよ!」
「すいません…」
「打たれ弱っ!!」
誰からもわかるように落ち込むのはハートの海賊団に属するミンク族の白熊、べポ。
ローはその隣に立つアマンダを一目見た後
「…本来なら海賊にとって役割を果たし終えた人質は、用済みとして海に突き落とされるか、この場で殺されるのが一般的だ」
そんな事を一般的だと言えるこの男は紛れもなく海賊にふさわしい残酷な思考の持ち主だ。
カチリと鞘から刃を少しだけ見せるその恐ろしい光景にアマンダは恐怖から息を呑む。
「だがそいつのオーナーは海軍におれ達の目的を話している可能性がある。万が一奴らから逃げきるためにもまだ使わせてもらう」
ローのその言葉から、とりあえずは今の所死ぬことはないようだ。
「ただし」
ローの口から接続のセリフが出て来たかと思えば、彼はアマンダの目の前まできて、刀を首元まで持ってきた。
「逃げようとしたり、海軍に居場所を教えるような妙な真似をすれば、その場で殺す」
低い声、帽子の影から覗く鋭い目つき。今まで幾千もの修羅場をくぐり抜けてきた彼の「殺す」という言葉は、単なるチンピラが言う脅しの比ではない。
「…は…い…」
あまりの恐怖にアマンダはただ一言消えそうな声で言うしかなかった。
アマンダの返事を聞くと、ローは無言のまま刀を鞘に収め彼女に背を向ける。
その場を凌げてホッとするアマンダだが、この逃げ場のない船の中で明日は我が身の状態である。
その事実が恐ろしかった。
私、今この海賊の船に乗って海を渡っている。
億越えの海賊達に囚われている。
少しでも気を抜けば意識を飛ばしかねない程の衝撃的な出来事にアマンダの心臓は今にも爆発しそうだ。
もう、故郷には帰れないのかな
そんな不安が頭の中を過ぎる。
いっそ夢であって欲しいとアマンダは一度目を瞑って再度目を開けてみるが何も変わらなかった。
その後はローとキラーを介してのキッドとのこれからの事やロー達の寝床などを軽く話し合った後、改めて広い場所で船長同士で話し合うためその場は解散する。
ギスギスした状態で名目上同盟を組んでもまだ互いの腹の中を探っている様子である。
特にハートの海賊団はキッド海賊団の船で過ごすことになるため妙に警戒心が高い。
まず一直線にディストピア島へ向かうといっても島へ向かうまでの航路がとても長く、一日で行けるような距離ではなかった。その為食料の関係などから、一度近くの島に滞留する事にした。
その島までは最低でも2日は掛かるようだ。
それまでアマンダはどこで何をしていればいいのだろうと皆バラバラになって何処かへ足を進めてしまっている為その場に置き去りになってしまう。
するとキッドがクルーを呼び何か指示を出すと、その男は長い縄を持ちながら此方に近づいてくる。
男はキツイ口調で「両手を前に出せ」と言ってきたので言われた通りにすると手首に縄を回し、拘束してきた。
そして余った縄を引っ張るとアマンダの身体は自然とそれに引きずられるように引かれる。
クルーがキッドの横を通り過ぎようとする間際、ぺこりとお辞儀をした。
その姿をみて一応礼儀はあるんだなと思っていると、此方を睨んでくるキッドの赤い瞳と目があった。
吸い込まれそうなほど美しい赤。
自分に絶対の自信があるその強い瞳にアマンダは思わず魅入られてしまう。
ドクリと心臓が跳ね上がるものの、それは恐怖からによるものではなく、えらく心地のいいものだった。
キッドの横を通り過ぎてからもアマンダはキッドから目を離せない。キッドはもうアマンダに興味がなくなったのかすぐに目をそらし、キラーと何か話していた。
その背中をいつまでも見続けるアマンダ。そのせいで前からやってくる船員にぶつかってしまい、その船員とアマンダの縄をもつもう一人の船員に怒られてしまった。
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「ここで大人しくしてろ」
そう言って連れてこられたのは、どこかの物置のようだ。といってもあまり物は置いてないが
まさに人質を捕らえる牢屋といったように、中はほぼ真っ暗で、どこまでの広さなのかがわからないほどだった。
扉を閉められるとどれほどの暗さが増すのだろう。
そんな恐怖から縄で拘束され身動きが取れなくなっている状況を理解しつつも身体が無意識に一歩一歩と後ずさる。
「さっさと入れ!!」
なかなか入ろうとしないアマンダにイライラし始めたのか、男は縄を思いっきり引っ張り前のめりになったアマンダの背中を力強く足で蹴飛ばした。
「痛っ!」
と同時に男が手に持っていた縄を放り投げたため、そのまま物置部屋の地面に転んでしまう。
男はそんなアマンダを心配するそぶりも見せず、そのまま扉を閉める。
部屋が予想以上に真っ暗になり、どこに何があるのかすら判断がつかない。
「ま、待って!出して!出してください!!」
まだ廊下を歩く男の足音が聞こえるため、扉を叩いて出してもらえるよう懇願するが足音は遠ざかるばかり。
すると突然後方からがガサガサと音がし出し、ビクっと身体を顔張らせる。
当然、何が動いたのかわからない。
「い、いや…」
明日も見えない不安と恐怖から足が震え、その場に立つことすらままなくなる。
そのままぺたりと座り込むアマンダ。
せめてこれが夢であるようにと、目をぎゅっと瞑る。
誰か、助けて…