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Common Front of Pirates③
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あれから何日経っただろう。
一応朝昼晩とご飯が持ってこられる為、今日で拘束されてから二日が経った頃だろう。
窓も何もない部屋で暮らしているせいで時間感覚がなくなっている。
真っ暗で右も左もわからなかった景色も徐々に目が慣れてきた。どうやらあの時ガサガサと音がしたのは、山積みになっている資料が崩れた音だった。
店長、大丈夫かな?
あの人、責任感強いからきっと自分を責めてるんだろうな、私が彼等に捕まったせいなのに
村の人たちも大丈夫かな?
自分の住んでいる村の人が海賊に拉致されたなんて、恐怖で外も歩けない状態になってるかもしれない
海軍の人たちは、助けてくれるかな
そんな考えも気が狂いそうな空間の中で過ごしたせいで何も考えられなくなった。
ただ何もせず、一日一日が過ぎるのを黙ってまつ。
そうすると、急に船が音をたてて曲がり始めた。
波に揺れて、船が上下する。そして静かに停止した。
どうやら島に行き着いたみたいだ。
ガタガタと音がする。船員たちは船を降りて島に足を踏み入れるらしい。
また、店長やあの常連客みたいな被害者が出ない事を祈る。
すると、コツコツと足音が聞こえた。その足音はどうやら此方に向かっているみたいだ。徐々に大きくなる。でもなんだかコツコツというより、ドスドスという重い音に近い。
やがて自分が閉じ込められている扉の前で足音が止むと、次はコンコンと控えめなノックの音が聞こえる。
その音に反応するも、声をあげるすら出来ない、いやしたくない。
すると、その扉は誰かの手によって開かれる。
「あ、良かったー!ノックしたのに反応がないから死んだかと思ったぞおれ!!」
暗闇の中から座り込んでいる私を見つけて屈託のない笑顔を向けてきたのは、あの時、ローと共にいた白熊だった。
「あなたは、白熊さん?」
「熊ですいません…」
「あ、えっと…」
急に落ち込んだ様子で謝る白熊にどう言ってあげたらいいのかわからない。
取り敢えず顔を上げて貰うよう頼むと、白熊は「おれはベポ、ハートの海賊団の航海士だ!」と軽く自己紹介してくれた後、黒く、つぶらな瞳を此方に向けてきた。
「島に着いたんだ!良かったらアマンダも外に出て島を冒険してみない?」
これは、逃げ出すチャンスなのか?
あまりにも無防備な白熊にアマンダは目が見開いたままだ。
「え…いいんですか?」
「キャプテンに許可貰ったから大丈夫だよ!逃げないようにお前が見張っとくなら自由に行動していいって!」
やはり見張りがつくようだ。
しかし外に出れるのはありがたい。
お言葉に甘えて縄を解いてもらい、ベポと外に出る。
ベポが外に続く扉を開けた瞬間、あまりの眩しさに目が開けられない。
それに気づかずスタスタと歩くベポに慌てて目を瞑りながら足音だけを頼りについていこうとする。
しかし、耳だけの情報ではやはりベポがどこにいるかわからず、それでも前へ進もうとすると、ガクンと身体が傾く。
遠くから自分の名を呼ぶベポの声。
思ったより違う方へいたらしい。
そのまま身体は前方へと宙に浮きながら倒れていく。
どうやら自分が歩くところに階段があったようだ。
あまりに予想外の出来事に思わず閉じていた目を開くも時すでに遅く、身体は地面に向かって落下していく。しかし、アマンダの目に飛び込んできたのは自分が衝突するであろうそこに、階段を上ろうとするローの姿があった。
「きゃっ!」
自分の方へ落ちてくるアマンダに気づいたローは特別驚いた顔も見せず、アマンダの身体を受け止めた。
「…ん…あ、れ?」
「…鈍臭ェな」
いつまで経っても衝撃がこない事に疑問を感じたアマンダはローとぶつかる事を恐れて瞑っていた目を恐る恐る開く。アマンダの視界いっぱいに映るローの端正な顔。膝裏と背中に回される細くも逞しい腕。そして恐怖の対象に助けて貰ったという驚きの出来事に頭がパニックになりながらも細身だが男らしい体格を身体に感じ、顔が赤くなる。
「あ…あり「アマンダー!大丈夫!?」」
どうしようか考えるよりも先にまずお礼を言わなければと口を開こうとするが、それよりも大きな声で自分の身を案じるベポの声に、アマンダのお礼の言葉はかき消される。
同時に膝裏に回されていた腕が離され、そのまま地面に落とされる。その後背中に回された腕も解放する彼に愛くるしい笑顔を見せ、アマンダよりも先にベポがお礼を言った。
「ありがとうキャプテン!アマンダを助けてくれて!!」
「これから出かけるのか、ベポ」
「そうだよ!もーアマンダ!なんでおれにちゃんとついてこなかったんだよ!!」
「え?あ…」
咄嗟に言葉が出ないアマンダを不審に思ったのか、ローが彼女の腕を掴む。
「なんだお前、逃げようとでも思ったのか?」
「ち、ちが…んっ」
ローの後ろにちょうど太陽が昇っていてそれがアマンダの目にうつり、眩しさの余り再び目を瞑るアマンダ。
そんな彼女の姿になるほどと納得したローは、彼女の腕を掴んでいた手を離し、ベポに訳を伝える。
アマンダが何故あらぬ方向へ行ってしまったのか理解できたベポは「それならそうと早く言ってくれよ!」と言ってアマンダの腕を引っ張り、船の外へ出ようとする。
「あ…あの!トラファルガー…さん!」
アマンダが船を降りようとした時、何かを思い出したかのようにローの名前をたどたどしくも勇気を絞って呼ぶ。
相変わらず無愛想な顔をこちらに向けるロー。
「あ…あ、ありがとう、ございます!その…お外出る許可をくれたり…助けて、くれたり…」
徐々に声が小さくなっていく。こんな風にこの人と話したのは初めてだからだ。
でも、お礼は言っておかなければならない。
聞こえなかっただろうかと不安になるも、一応は聞こえていたらしい。
「…外に出す許可を出した事に礼を言うのは、逃げ出すチャンスをくれてって事か?」
「え?ち、ちが…」
確かに、急にベポから外に出よう!と言われた時は逃げ出すチャンスだと思った。
しかし、別にその事に対してお礼を言っているわけでもないが、外に出れる事に対して何が嬉しくてお礼を言うのか、ただ単純に嬉しいという理由でお礼を言ってはいけなかったのだろうか。
ローの問いに対して明確な答えが出てこず、しかしこのまま黙っていると、本当に逃げるチャンスをくれた事に対してお礼を言ったと勘違いされるため、アマンダは言葉を選びながらも口を開いた。
「あ、あの部屋は、とても暗くて、精神的に辛くて…だから、其処から出してくれてお外の空気も吸えて、単純に嬉しかったから…です」
理由らしい理由ではなかったが、これが今アマンダに言える答えだった。
しかし、ローは元々アマンダの出す答えに興味なかったのか、それ以上は何も聞かず顔を晒すと、「日が暮れるまでには船に戻れ」とだけ告げて何処かへ去って行った。
「良かったね!キャプテンに許可貰えて!さ、行こう!!」
「う、うん…」
ベポが笑顔を向けてくれているのに上手く笑顔がつくれない。
良かった…のかな?