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Common Front of Pirates④
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思えば、故郷から離れたのはこれが生まれて初めてだ。
ベポと共に島を探検するアマンダは賑わう町の風景を見渡しながら思った。
まだ船から離れて然程歩いていない。
お店にはこの町の観光名物やらマスコットキャラのキーホールダーやらが売られており、旅行者向けのお店が立ち並んでいる。
これが本当に観光目的だったら目を輝かせてあれやこれやと買い物をしていただろうが、今は生憎手持ちもないし、気分的にも乗らない。
賑やかな屋台を遠目で見ているだけで素通りする。
そのままどんどん森へと歩いていくと、川のせせらぎのような音が聞こえて来た。
音のする方へ向かっていくと
「すっげー!!滝だよアマンダ!!」
「きれい…」
其処には、透明な水が流れている滝のある川が見つかった。
小魚も優雅に泳いでおり、とても綺麗で澄んだ川だ。
両手で掬い取ってみると救いきれない分がさらさらと流れていく。
その光景に見惚れていたアマンダはおそるおそるベポにある相談を持ちかける。
「あの、ベポ…さん」
何?と首をかしげるベポ。正直ベポはアマンダにとってあの海賊達の中では一番話しやすかった。
自分をあの暗闇の中から外へ出してくれたし、今も名目上監視ではあるが、一緒に島を見て回るのを楽しんでくれている。
「時間があるなら、その、ここで少し水浴びをしてもいいですか?ふ、服とかも洗いたいし…」
あの船に閉じ込められてから二日間、アマンダは服の替えを持っていなかった。周りが男ばかりで服を借りるのも気が引ける。町を見ている時もアマンダは自分の匂いが心配だった。
少しシワも入って所々汚れている部分を落としたくて尋ねてみるとベポはあっさりと許可をくれた。
「じゃあおれは誰か来ないか見張っとくから楽しんでてよ〜」
服を脱ぐため当然裸になる。
恥ずかしいが背に腹は変えられない。
ベポも見張っててくれているので、安心してアマンダは服を洗い始めた。
「冷たっ…」
当然といえば当然だが、川なため水は冷たく、足からゆっくり浸かっていく。
彼らに誘拐されてから、アマンダは行動を制限されていた。
食事は朝昼晩と船員の誰かが部屋まで持って来てくれて、トイレはその時頼んで行っていた。
お風呂も船員が入り終えた頃に入るため、一人といえば一人だが、アマンダが何か仕出かさないよう、扉の前には誰かが見張っており、アマンダはそれが急かされているように感じ、またその見張りが男なので不安だった。その為お風呂でも気が休まることはなく、まともに髪や身体を洗っていなかった。
お風呂のみでなく、基本的にアマンダが何かをするときは必ず誰かが見張っており、手首の縄も解かれる事はなかった。お陰で手首は赤く、縄の跡がしっかりと残ってしまっている。
その手首を優しく触りながら、アマンダはその日までの疲労を少しでも癒す為、水浴びを楽しんでいた。
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「なんつーか、何もない島だよな」
「ああ、賑やかだけどこれといって特徴ないな」
トラファルガー・ロー率いるハートの海賊団の船員であるシャチとペンギンは人混みを抜け森の方へ歩きながら雑談をしていた。
青キジの猛攻を咄嗟の機転で切り抜けて早二日。
この間キッド海賊団と同盟を組み始め、彼らの船でお世話になることになってから、二人は正直生きた心地がしなかった。
シャボンディ諸島では、成り行きでバーソロミュー・クマを倒すために一時的キッド海賊団と共に闘った仲だが、やはり海賊同士いきなり同盟を組むことになったといって得体の知れない連中と寝床を共にするのは精神的に辛い。
現に島に着いて船を降りたのは大半がハートの海賊団だ。
まるで敵地に裸で乗り込んだような不安感を少しでも和らげるために船を降りたのだろう。
「しっかし、キャプテンもおれらに何も言わずにキッド海賊団と同盟を組むとかいきなりだよなー」
「目的が一緒で互いに欠けた海図を持ってたからっつってもあいつらと四六時中顔を合わせるなんざ心の準備ってもんがあるだろ」
あの時一緒に闘ったたまたまキッドと共にオークションに来ていたキラーやヒート、ワイヤーならまだしも他の連中は油断できない。
またあの時のBARでの喧嘩を見る限り、船長同士がまず気が合いそうにない。
こんな状態でこれからやっていけるだろうか。
そんな不安不満を言い合いながら、シャチは「そういえば」と何かを思い出したかのように呟く。
「BARにいた女の子、今どっかに幽閉されてんだよな。捕まえたおれ達が言える事じゃないけど、大丈夫かな?」
「ああそのことか。詳しくは知らないけど一応メシは三食毎日食わせてるらしいし今日もベポがその娘を連れて島を冒険してるみたいだから問題ないだろう。気になんのか?シャチ」
「そ、そりゃあ気になんだろ!?おれ達海賊なんて一般人から見たら悪い印象しかねぇし、キャプテンや向こうの船長なんて懸賞金億越えの海賊だぜ!?おれ達以上に生きた心地しねぇだろ!」
「確かにな、実際キャプテンなんてあの娘が働いてる店壊しちまったわけだし、ちょっと同情するな」
女もまさか自分の人生に海賊達に誘拐されるなんて歴史が刻まれるとは思いもしなかっただろう。しかし海賊にとって人質をとるというのはよくあるケースだし、可哀想だとか何とかしてあげたいと思うのは海賊の世界ではタブーな気がすると二人は思う。
それにキッドは知らないが、自分達の船長であるローは、人質が大人しくしてくれれば何も危害は加えない人間だとよく知っているため、安心してもいいと思う。まぁそんな事あの娘には知った事じゃないだろうが。
「はぁ〜、…ん?」
これから先が見えない不安にシャチはため息をこぼすが、ふと森の向こうに一筋の光が見えた気がした。ペンギンが「何だ?」とシャチに問いかけ、彼と同じ方を見て見ると、ペンギンの目に映ったのは木の隙間から見える綺麗な滝の流れる姿。
「へぇ、偶には滝のある川でのんびりするのもいいな」
「だな、行ってみようぜペンギン」
賑わう町で何も考えずただ騒ぐのもいいが、静かな場所でのんびりと寛ぐのも悪くないと思えるほど、綺麗な滝だった。
二人はその滝に向かって歩を進めると、ペンギンは川の方に誰か人影が見える。
「おい、誰かいるぞ」
「ちぇ、先客かよ。つまんねぇな」
シャチが心底つまんなそうに言うと、ペンギンは「仲間かもしれないだろ」と言ってとにかくその人影が誰か判別できる距離まで歩く。
だが二人の目に飛び込んで来たのは…