-
Common Front of Pirates⑤
-
「「え!?天女!?」」
人影の正体に思わず見惚れながら同じタイミングで同じセリフを吐く二人。
いやいやいやいや、あれは人間だ、人間の女だ。
目をゴシゴシと擦りながらもう一度よく見てみると、そこに居たのは川にその清らかな身体を沈めながら水浴びをしているアマンダだった。
「え!?なな、なんであいつがここに?」
「しっ!静かにしろよシャチ!」
口元に人差し指を立てながらその場に座り込んで茂みに身を隠すよう促すペンギン。
辺りをよく見回すと、アマンダ以外は誰もいない。ベポも何処かへ行った様子だ。
ただ、確かな事は
これはかなりおいしい場面だということ。
世界遺産に選ばれても問題ないような綺麗な川に目を奪われる程の綺麗な裸体を魅せる女性。髪は洗ったのかポタポタと雫が落ちて彼女の美しい身体のラインをなぞりながら透明な水に溶け込む。
川を自由に泳ぐ小魚と戯れる姿はあの伝説の人魚と間違えるほど二人の目を錯覚させる。
細くしなやかな手で水を掬い上げ、身体にかける。そして手のひらで身体を撫でながらその水の感触を味わうアマンダ。
美しい川に水を与える滝の丁度真上には太陽が昇っており、アマンダはその日の光を浴びるように顔を上げ喉元を照らす。その反動で後ろ髪が下に下り、そこから見える首元やうなじに張り付く濡れた髪。
その幻想的な光景に感極まった二人の手足はガクガクと震え、顔は茹でたこのように真っ赤に染まっている。
鼻血が出そうになるもこの美しい光景を自分の血で汚したくないと必死に我慢する。
するとシャチは彼女の向こうに彼女の服と、その上になにか果実のようなものが置いてあることに気づく。
よく見て見ると、その果実は妙な模様があり、一目見るだけでおどろおどろしいものだと遠くからでも見て感じとれる。
シャチは、果実自体は見たことがなくとも、その果実にある妙な模様はどんなものか知っていた。
その果実の正体を知って驚きのあまり目を見開きながら、隠れていた木の茂みから顔を出して大声で叫んだ。
「お、おい!!あれって…!」
「バカシャチ!!そんな大きな声で叫んだら…」
シャチを止めようとするペンギンの声もなかなか大きい。立ち上がるシャチの服を引っ張りしゃがむよう促すが、それが原因なのか二人の体はバランスを崩し前屈みになってしまう。
そしてそのまま前のめりに倒れてしまい、大きな物音を立てて茂みから姿をあらわし転んでしまう。
「いっつつ…
…………ん?」
二人して顔を上げると、其処にはもう日が暮れて赤い夕日に照らされたアマンダの姿。
彼女の生まれたままの姿を正面から余すことなく見てしまい、ついにツゥーと鼻から赤い血が流れていることに気づく。
アマンダも目の前にいる二人に自身の裸を見られ、一回二回と瞬きをした後、夕日に負けないくらい顔を赤くさせ、わなわなと震えだす。
すると二人とは反対側の茂みからひょっこりと顔を出すベポ。
「アマンダー!タオル持ってきたよ!後キャプテンに頼んで替えの服用意して貰ったからこれで大丈夫だぞ!!」
緊迫した雰囲気の中可愛い笑顔を向けながらタオルとローのクルー達が着ているつなぎを持ってやってきたベポ。
恐らくそれを取りに一旦その場から離れたのだろう。
見張りがそんな事でいいのかと問いたくなるが、今はそんな事どうでも良かった。
「あれ?シャチとペンギン、何してんだ?こんなところで」
「あ、いや、これはその…」
「て、天女だ…」
シャチのその言葉を聞いて更に顔を赤くするアマンダ。
そして、恥ずかしさの余り彼女の断末魔のような叫び声が森中に響き渡った。
*****************
「「あ、悪魔の実だと!!??」」
ローの言いつけ通り、日が暮れる前になんとか船へ戻ったベポ達。
数多くいる船員の中から一際目立つオーラを放ったローとキッドを探し当てると、アマンダの手元にある布で包んだ果実を二人の前に晒し出した。
その異様な模様を身につける果実。それを一度口にしたことのある二人は、それが一目見て悪魔の化身となる不思議な能力を得る果実、〝悪魔の実〟だとわかった。
その果実を見せた瞬間、船にいた全員の顔が強張る。
「おれもよくわかんないけど、アマンダの服とタオルを取りに行って戻ってきたらその実があったんだ、ね?シャチ、ペンギン」
「?お前らも川へ行ったのか?」
「いや、おれ達は偶然通りかかって…その…」
アマンダの裸をみたその時の光景を思い出し、なんて説明したらいいのかわからなくなる二人。
隣にいるアマンダの顔が見れず口ごもる二人にローは首を傾げる。
「お、おれらも川に来た時には既にその実があって…彼女に聞いたら、川から流れて来たって…」
その瞬間、船から馬鹿にしたような笑い声がこだまする。
「ぎゃははは!!あ、あの伝説の悪魔の実が川から流れて来たァ!?作り話だとしても笑えねーな!!」
いや笑ってんじゃねーかと突っ込みたくなった。
呆れを通り越して笑っている船員に言い返そうにも実を拾ったアマンダ本人がそう言っているのだからこれ以上二人から言えることは何もない。
肝心のアマンダは彼らの笑い声に耳を貸すことなく、自身の腕の中にある果実をじっと見つめていた。
悪魔の実
その実のことは知識としてなら少なからずとも知っていた。
その果実を一口食べただけで不思議な能力を身に宿すという伝説なら聞いたことがあった。
しかしその能力を得る代償として、海から嫌われる、カナヅチになるという説もBARで海賊達が話しているのを聞いたこともあった。
都市伝説かと思ったが、先日のローやキッドの不思議な現象を見て、あれが悪魔の実を食べた人達のチカラなのかと思った。
後は実を二つ以上口にしたら死ぬとか、それとも能力者に別の実を近づけたら体が弾け飛ぶとか
でも、今自分が持っている実が本当に悪魔の実なら、そらを口にしているローやキッドがそばにいるのに身体が弾け飛ばないということはその噂はハッタリなのだろう。
するとアマンダの前に一つの大きな影が差し掛かる。見上げると其処には怪しげな顔でこちらを見下ろしているキッドの姿があった。
「女、本当の事を言え。下手な嘘抜かしやがるとぶっ殺すぞ」
「え?な、なにを…痛っ!」
凄みある顔で言われて肩身が狭くなるアマンダ。聞かれた意味がわからず問いかけると、機嫌を損ねてしまったようで、眉間に大きく皺を寄せたキッドに手首を力強く掴まれる。
「このおれを怒らせてェのか?正直に言わねェとこのまま骨をくだく」
どんどん力が強くなっていく。骨の軋む音がし始め、あまりの痛さに目に涙が溜まる。
「ひっ…痛い!いたっ…」
何故機嫌を損ねたのかわからない。
答えようにも痛すぎて悲鳴しか上がらない。
「キッド、その辺にしておけ」
アマンダの手首を掴むキッドの腕に手を乗せ制止の声を出すキラー。
チッと舌打ちをするとキッドは乱暴にアマンダから手を離す。
その反動で後ずさりしてしまうアマンダは赤く腫れたがった手首を見て驚愕する。少し捻るだけでズキズキと痛みが襲って来てやっと縄の解放で赤みが冷えたというのに赤みよりも酷い腫れが襲って来て思わず腕にある果実に布を被せ、そこに顔を埋める。
「?おい」
キッドがアマンダの不審な行動に眉を顰め声を掛けると、アマンダの身体がビクリと反応した後、僅かに震えていた。
そこから聞こえる嗚咽に、泣いていることがわかる。
ローが不審に思い、彼女に近づきキッドに掴まれた腕を見る。
「手首が圧迫されて内出血を起こしてやがる」
「!」
ローの言葉を聞き目を見開くキッド。
彼自身はそこまで強く握ったつもりはなかったが、やはり女性と男性では腕力に差があるのだろう。
果実に覆いかぶさる白い布がアマンダの涙のせいで濡れているのがわかる。しかしアマンダは一向に布から頭を上げる様子はない。
するとそれを見ていたキッド海賊団の一人がまるでキッドが悪いかのような扱いに腹が立ったのか泣いているアマンダに追い打ちをかけるように罵声を浴びせる。
「てめェ!泣いてごまかそうったってそうはいかねぇぞ!!頭!そいつの手首もうそのまま折っちまえ!」
「うるせぇ!!!」
男の浴びせる怒声よりも更に大きな声で怒鳴りつけるキッド。
彼のこの一言で、船中に響いていた笑い声とアマンダに対するブーイングが一斉に止み、しんと静まりかえる。
「…ユースタス屋、これはお前が管理しろ。この船に持ち込まれたものはお前が責任を持て」
泣いているアマンダの腕の中にある悪魔の実を彼女を刺激しないようゆっくりと取り上げ、キッドに差し出すロー。
「あぁ?なんでてめェにそんな事…」
「女が持っててもしょうがねェだろ。さっきも言ったが、この船に持ち込まれたものはお前が責任を持って管理しろ」
それからとローは付け足し
「医務室はどこだ、こいつを連れて行く。
お前もいつまで泣いてやがる。これくらいの怪我で面倒くせェ」
「いや、キャプテン。その娘が泣いてるのは怪我のせいじゃないと思います」
ローの手にある悪魔の実をキッドの変わりにキラーが受け取った後、ロー達はキッド海賊団の船医に医務室まで案内してもらうことになった。
「キッド、これを」
「…………」
*****************
結局、アマンダが拾った悪魔の実はキッドの部屋で預かることになった。
アマンダは医務室でローに手首の腫れを治療してもらい、傷が完全に治るまでは縄で拘束するのは禁止となり暫くは手首が解放されたまま生活を許された。
いつも通りの物置部屋で自身の手首をそっと優しい手つきでさすりながら、少しだけ自由な身となったことに安心する。
しかし、彼女はまだ、自分が持ち込んだ悪魔の実がこれから起こる暗雲を降らせることになるなんて思ってもいなかった。
To Be Countinue…