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Crack②
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「「!!?」」
アマンダが海へ落ちてしまった事でようやく怒りが収まりアマンダが落ちた方向へ視線をよこす一同。
「…っぷは!!」
何とか顔を出したアマンダだが、結構な深さがあるため、足がつかない。
あまり泳ぎが得意でないアマンダは必死に足をバタつかせ、島まで行こうとするが波が押し寄せるせいで身体は思うように動かずどんどん島や船から遠ざかって行く。
「待ってろ!今梯子を用意するから!!」
船員の一人がそう言って梯子をかけるが、波の引力に逆らえずとどかない。
それでも何とかして船まで泳ごうと必死に手を伸ばすアマンダをあざ笑うかのように、次の恐怖がやってくる。
「!あれは!」
アマンダのはるか後方から三角形の尾びれが見え隠れしている。
その生き物はアマンダ目掛けて物凄いスピードで海を走ってきた。
「ひ、人食いザメだ!!」
「!!?」
男の言葉に後ろを向くと、死んだ魚のような目が僅かに見えた。
更なる恐怖に必死に足をバタつかせるが、その効果はサメをおびき寄せるのに十分な効果があった。
「バカ!サメは動くものを対象に餌を選んでいるんだ!!あまり手足をバタつかせるな!!」
男がそう言うが、手足をバタつかせなければそのまま海に沈んでしまう。
泳ぎがあまり得意でないアマンダにとってこの荒波の流れに逆らいながら手足を最低限に動かし器用に船まで泳いで行くなんて至難の技である。
「っきゃああ!!」
気づくとサメはもうそこまで来ていた。アマンダから僅かに距離をあけながらピタリと動きを止めたかと思うと、その場でアマンダの周りをぐるりと一周し始めた。
「!マズイ!円を描き始めやがった!」
円運動を行なった後、サメは獲物を狙って一気に襲いかかってくる。どうやらアマンダを獲物と定めたようだ。
「おい!お前が突き飛ばしたんだろ!?助けに行けよ!」
「だ、だけどもう…」
手の打ちようがない状況で誰か誰かと慌てふためく一同。
すると、言い争う二人の前に一つの影が通り過ぎる。
その影は船端に足をかけ勢いよく宙を舞ったかと思うと、アマンダに向かって海に落ちて行く。
その最中、円を描き終えたサメは一度潜り込み姿を消したかと思うと、次の瞬間、アマンダの目の前には鋭利な刃物よりも鋭い牙を持った口を大きく開けたサメの姿があった。
叫び声もあげられないほどの恐怖に目をこれでもかと見開きながら喰べられるその瞬間がゆっくりに感じるアマンダ。
もう駄目だ!
そう思った刹那、空から何者かがサメに向かって落下して行った。
そしてその足をサメの目を目掛けて蹴り落とし、サメはアマンダを喰べようとする直前で大きく体を横に倒しそのまま海に沈んでいった。
「!!?」
ブクブクと水面に泡が浮かび、そこから勢いよく顔を出したのはキラーだった。あの人影はキラーだったのだ。
彼は辺りを見回しアマンダを見つけると彼女の身体を自分の方へ引き寄せ頭を自身の胸板に押し付ける。そしてそのまま押し寄せる波の流れをものともせず船の方まで泳いでいく。
僅かな時間で梯子がぶら下がっている所まで泳いできたキラーは、アマンダの手を掴み、梯子に掴まらせた。
「先に行け」
「あ、ありがとうございます…」
自分の命が助かった事を身に染みるのは後だ。
後から登るキラーに迷惑がかからないよう必死に足をかけ登るアマンダ。続いてキラーも登ろうと梯子に足をかけるが、突然足に激痛が走り、そしてそのまま物凄い力で海に引っ張られる。
「!?」
ドボンと何か大きなものが海に投げ捨てられたかのような音がしたため下を見ると、そこにキラーの姿はなく、変わりに水面からジワリと赤い何かが浮かび上がる。
それは血だった。
「う…そ…」
その光景に絶望が走り、無意識に手足が震えるアマンダ。
キラーさんが、私のせいで…
誰もがキラーはサメに喰べられたと、そう思った。
「おい!何やってやがる!!」
突然島の方から声が響き、見て見るとたった今島から帰って来たローとキッドの姿があった。
「せ、船長!実は…」
「女ァ!誰の許可を得て外に出てやがんだ!!」
しかし、キッドの呼びかけにも応じることが出来ないアマンダは絶望的な表情で水面に浮かぶキラーのものであろう鮮血を見ていた。
呆然としながら血が染み渡る水面を眺めているとブクブクと泡が出て来たと思った瞬間、何か巨大なものが水面から勢いよく飛び出し、大きく宙を浮かびながら船に叩きつけられる。
それは、身体のいたるところに切り傷をつけられ、既に死んでいるサメだった。
続いて更にもう一体のサメが今度は島に放り込まれる。こちらもすでに息絶えていた。
「これ…は…?」
そう疑問に思うのも束の間、またもや水面から何かが飛び出しできた。
だがそれは死んだサメではなく、一度体制を整えようと前に一回転した後、華麗に島へ着地する。
「随分な出迎えじゃねェか、キラー」
それは、恐らくサメに噛まれたのであろう、足から血を流したキラーの姿があった。
それと同時に水面に浮かび上がるサメの死体。
どうやらそこにはサメが三体いたらしく、近くにサメのナワバリがあるのだという。
その後はローの能力でアマンダを含めた四人とも船に戻り、現場を見ていたヒートとワイヤーが訳を話した。
「チッ、くだらねぇ事でいちいち張り合ってんじゃねェ」
「す、すいません頭!」
「てめェのせいでベポが怪我をした。罰としててめぇは一週間メシ抜きだ」
「はい、キャプテン…」
互いの船長に咎められ、二人が反省したところで騒動が一悶着した。
「キラーさんも急いで手当てを!」
梯子に登る際に足を噛まれたせいで血がドクドクと流れている。
「ハッ!サメ相手に無様な姿だな、キラー」
「……………………」
キッドの嫌味に対し怒る様子もなくキラーは自分に小走りに駆け寄るアマンダに目を向ける。
そこには目に大粒の涙を溜めボロボロと零している彼女の姿があった。
「ご、ごめん…なさ…ごめ…」
謝罪の言葉を何度も何度も呟くアマンダだが、どれも言葉にならない。
自分の不注意でキラーがサメに襲われたのだ。
サメ相手に立ち向かう度胸のある人なんて、それが誰かを助けるためだとしてもそうそういない。
その事実がアマンダの胸を締め付ける。
「泣くほどの事じゃない、それよりお前は怪我はしていないか?」
自分のことよりアマンダの身を案じるキラーに涙が止まらずコクコクと首を縦に降る。
キラーは「ならいい」と言ってそれ以降はアマンダ
と言葉を交わす事なく誰の手も借りず自分の足で医務室まで歩いて行った。
どうということはない。キラーは海賊、自分は人質。これ以上深く関わってはいけない。
しかし、事の発端は自分が悪魔の実を持ち込んだせいで海賊団内で亀裂が走り、自分が勝手に喧嘩に巻き込まれたせいでサメに襲われ、助けに来たキラーが巻き込まれた。
どうしようもない自分のせいで誰かが傷付き、下手をすれば死んでいたかもしれない状況に、アマンダの足は自然とキラーを追おうとしていた。
しかし、その足は誰かに腕を引っ張られたせいでそれ以上前へ進むことが出来なかった。
「で?てめェは誰の許可を得てここにいやがんだ」
「え?あ…」
腕を掴んでたのはキッドだった。
手首の腫れを気にしているのかあの時ほど強い力ではないが、疑いを持った目で睨まれ思わず縮こまる。
「大方こいつらが鍵を開けっぱなしにしてたんだろ、なァ?」
ローの言葉にビクッと反応するのは、ベポとシャチ、そしてペンギンの三人だった。
一緒に島を探検しようと誘ったが断られてしまい、鍵を開けたままにしてずらかったのだ。
「いや、途中で気が変わったりしてもいいように…」
「…それで船番の目を盗んで逃亡したらどうするつもりだったんだ」
「そんな子には見えないと思うけど…」
ベポの言葉にローは呆れたようにため息をつく。
何があったのかは知らないが、随分彼女を信頼しているようだ。
彼女は客人ではない、人質として扱っているというのに。
「とにかく説教は後だ。ベポ、お前は医務室に行け。おい、誰かベポに肩を貸してやれ」
「あ、おれがやります!」
「それから女、お前も医務室に来い。手首の腫れが悪化してないか診察する」
キッドから乱暴に腕を放されたアマンダは医務室へ向かうローについていく。
他の者も後に続いて各自自室へと戻って行った。