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Crack⑤
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「キッド、これでは…」
「キャプテンどうしよう!」
騒動を止めようとするキラー達だが、誰かが言った一言で不満が爆発している船員達。
収集がつかない状態に、キッドとローは同時に舌打ちをする。
「てめェらいい加減に…
…………………っ!?」
キッドが能力を使って全員に攻撃をしようとした瞬間、誰かが勢いよくぶつかってきたかと思うと、その誰かはそんな事も気にせずキッドの前を通り過ぎる。
ぶつかってきたのはアマンダだった。
「いてっ!」
「うおっ!!」
逃げるつもりなのか、アマンダは自身の走る通り道の障害となる船員達を押しのけ、そのまま一直線に何処かへ向かう。するとある部屋の扉を開けて中へ入る。そこはキッドの部屋だった。
「アイツ、何する気だ!?」
キッドの部屋に駆け込んだアマンダは、以前自分が持ち込んだ悪魔の実を探す。
キョロキョロと辺りを見回すと、何か引力のようなものを感じ、そこに視線を向ける。
すると、アマンダの目に見えたのは、木材で出来た宝箱の中に入っている、以前自分が拾った川から流れて来た不思議な力を宿す果実。
悪魔の実だった。
アマンダはその果実の方まで近づき、宝箱の中からそっとそれを抜き出した。
妙な感覚が走るその実にゴクリと唾を飲み込む。
そしてそのまま振り返ろうとするよりも先に、ダンッと音を立て、アマンダの頭上が暗くなる。
自分の真横にあるのは若干血管が浮き出た男らしい鍛え上げられた腕。
そして後ろには、この部屋の主であるキッドがいた。
背後を取られた挙句、壁に手を突かれ完全に逃げ場を失ってしまう。
「…てめェは一体何がしてェんだ」
後ろから低く耳をドスの聞いた声で問われ、ゾクリと悪寒が走る。
後ろにいるのは確かにキッドだが、怖くて確認が出来ず、後ろを振り向けない。
その様子に苛立ったのか、キッドは壁に突いた手とは反対の手でアマンダの顎を掴み、思いっきり上に上げる。
嫌が応なくキッドと視線を合わせられるアマンダ。
「人の部屋にズカズカ入り込んでよォ。人質っつー立場忘れてんじゃねェよな?」
いつものように怒鳴ったりするものではないが、明らかに苛立っているのはわかる。
「それ持ってどうするつもりだ、あぁ?」
「ひっ…!」
すると、キッドは壁に突いた手を退けたかと思うと、その手をアマンダの服の中に入れた。
男らしいゴツゴツとした手の感触が身体中を弄る。
「あっ…ん…!」
「無防備な女を痛めつける趣味はねぇが、痛めつけられた方がマシだと思えるくらいの苦しみを与えてやってもいいんだぜ?」
身をよじって逃げようとするも、力の差は一目瞭然であり、徐々に熱い何かが体の内側から込み上がってくる。
「だ、だって…わたしが…わたしの、せいで…うっ!」
「あ?」
下腹部の辺りを撫でられ妙な感覚に支配されかけつつも、アマンダは必死に言葉を紡ぐ。
「私が、これを持ち込まなければ…みんな…」
ようやく服の中から手を出され、上がっていた息が落ち着いてくる。
「し、知ってます。これが船に置かれてから、皆さんの争いが大きくなっていってることっ!この実を持ち込んだのは私だから…」
「………………………」
こいつは何を言ってるんだ?
そう言いかけそうになるが、キッドはふと思い出す。
ローとはお互い敵同士だし、性格的にもあまり気があうとは言い難いため、同盟を組んだ後も睨み合いが続いている。キラーが仲介に入ってくれているお陰で乱闘にはなっていないが、もし彼がいなかったら間違いなく理性が効かずに掴みかかってた自信がある。
船員達も何度か対立してる姿を見かけたことはあった。
が、確かにその対立が頻繁に起きるようになったり悪化していったりしたのは、アマンダが悪魔の実を船に持ち込んでからだ。
どんな力が宿っているのか、その実を食べると自分もキッドやローみたいな有名な海賊になれるだろうか。
そんな好奇心溢れる話を食堂で話している声は何度か聞いたことがあった。
「で?だからどうするつもりだ?まさかその実をてめェが食って事を収めるってんじゃねェよな?」
「「なっ!!?」」
キッドとアマンダの様子を見ていた海賊達がキッドの言葉を聞いて驚愕する。
しかし、アマンダから出た言葉はキッドも予想だにしていないものだった。
「ち、違います!この実が争いの種になるくらいなら、
う、海に捨てます!!」
「「ええええええっっ!!!???」」
何とも斜め上の解答に眠気も吹っ飛ぶ船員達。
全員驚きの声を上げた後、一斉にアマンダにブーイングの声が響く。
ふざけんな!その実にどんだけの価値があると思ってんだ!死ねェ!
食べればカナヅチになるリスクを背負うが、海の怪物とも渡り合える程の強さを手に入れる。
食べなくとも売れば一億はくだらない値段になる。
どちらに転んでもメリットが大きい実を逃すわけにはいかない。
アマンダの考えを改める必要があった。
「気でも触れたか?そんな勝手な真似許される筈ねェだろうが」
「元は私が拾った実です!ならっ、この実をどうするかは私にも決める権利があるはずっ…」
アマンダの言葉にピキリと眉間に青筋を立てたキッドは彼女の顎を掴む手を下におろし、今度は首を掴んだ。
「権利だと?笑わせんな!
自分の立場わかってんのか?
てめェは客人じゃねェ!人質だ!
使えれば利用し、使えなければ殺す。てめェの立場は此処じゃ家畜以下だ。その意味がわかってねェみてぇだな」
首を絞める手の力が増して行く。
苦しさのあまり目に涙がたまるアマンダ。
自分でもこれが最良の策だなんて思ってはいない。
しかしこの方法しか思い浮かばなかった。
「わた…し…の…ごめん…なさっ…」
「!?」
アマンダ自身も、何故こんなに罪悪感を感じるのかわからなかった。
確かに自分の持ち込んだ悪魔の実のせいで船員の欲を煽って騒動を大きくしたのは間違いはない。
だがそれは不可抗力のようなものであり、アマンダはそれが悪魔の実だと知らなかったし、知ったところでこれまで騒ぎが大きくなるという予想も出来ないだろう。
それに彼らは自分に恐怖を与えている海賊だ。
いけ好かない客だったとはいえ村の人を殺し、店を破壊し、店長に迷惑をかけた。
更に何の罪もないアマンダを目的の為だけに誘拐し、キッドは彼女を家畜以下だと言った。
そんな彼らの内で亀裂が入り、同盟が無くなって殺し合いになろうがアマンダにとってはどうでもいい事だ。
しかし、アマンダは自分が外に出て何かする度に問題を起こしている自分がとても罪深い人間だとどうしても思ってしまう。
昼間もベポが怪我をし、自分をサメから助けてくれたキラーも足を負傷した。
もうどんな事があっても関わらないようにしようと決めた矢先、このような事件が起こった。
きっとローに腕を斬られた人も、そもそもアマンダに見つからなければ動揺し、彼女に斬りかかることもなかっただろう。
そう思うと心の何処かで謝罪の言葉が浮かび上がる。
彼らに謝る必要などないというのに。
「…………」
「おい…」
突然何の反応も示さなくなったアマンダを不審に思うキッド。
少し力が入ってしまったのか、くたりと力なくキッドにもたれかかり、彼女はそのまま気を失ってしまった。
全身の力が抜けてしまったせいで、アマンダの手にあった悪魔の実が彼女の手から滑り落ちてしまう。
しかし、それは地面に衝突することなく、その場に現れたローの手によって受け止められた。
「トラファルガー…」
「気を失わせたのは正解だったな、ユースタス屋。あのまま暴れられたらこいつの腕も斬り落とさなけりゃならなくなるところだった」
意図して気絶させたわけではないのだが、結果的にはアマンダの精神を落ち着かせたことになる。
かなり強引な方法だったが…
力なくキッドにもたれ掛かる顔色の悪いアマンダの手をそっと持ち上げ自分が治療した箇所を見るロー。
包帯を撫でた後チッと舌打ちをし、
「そいつを寄越せ。手首の腫れが悪化してやがる。部屋に戻す前に医務室に連れて行く」
「…好きにしろ」
キッドからアマンダを受け取ると、キラーによって静まった船員達を押しのけ、ローは医務室へ向かった。
…途中、腕をなくし忍び泣く船員を横目に見ながら
To Be Continue…