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Beast In The Darkness④
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答えた時の皆のアマンダを見る表情に軽蔑の色が加わる。
ベポも困惑した目で見ている。
以前、ベポはアマンダが逃亡するようには見えないと言っていた。
見事に裏切られた気分だろう。
その表情にズキリと胸が痛むも今更違うと言えば更に疑いがかけられる。
ベポの顔を見れないでいると、彼の前に立ちこちらを睨みつけるローがいた。
「…おれはお前を人質としてこの船に置くと言った時なんて言った?」
「…逃げ出したり、海軍を呼ぶそぶりを見せれば…そ、その場で殺す、と」
「わかってて逃げ出そうとするなんざ、滑稽な女だ」
ローは仲間の一人に刀を持って来させると、鞘から剣を抜き、アマンダの首元に押し当てる。
「斬り刻まれて海に捨てられるのと、この場で首を刎ねられるのと、どっちがいい?」
「…っ!」
ローの後ろには先ほどアマンダを襲った男がニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。
男のせいで残酷な殺され方をされるかもしれないというのに捩らな様子で見物する男に背筋が凍る。
海賊は、やはり外道の集まりだ。
「…っも、もう逃げたりなんてしませんから、もう一度チャンスを下さい」
死にたくない
こんな理不尽な事で殺されるのは嫌だ
この絶望的な状況でそれでも生に縋りつこうとアマンダは必死に頭を振り絞って考えるが、結局泣きながら懇願するしか手はなかった。
こんな口約束じゃ絶対に許されるはずがないと思うも、意外にもローはアマンダの首元から刀を遠ざけ鞘に収める
「…二度目はないと思え」
冷たく刺すような声色でそう言うと、ローはアマンダから背を向けて寝床まで歩き出した。
こんな夜中に起こすんじゃねーよ
迷惑なんだよ
次々と罵声を浴びせながら去っていく船員達を悔しくも見ていることしかできないアマンダ
すると、頭を掴まれ一気に上に持ち上げられる。
見るとそこには自分を冷たい目で見下ろすキッドがいた。
「トラファルガーの甘さに救われたな。次妙な真似してみろ。サラバンナ島でおれ達に舐めた口ききやがったあの雑魚同様にぶっ殺してやるよ」
あの雑魚と言うのはBARに来ていた常連客の事だ。
実際に死を目の当たりにしたあの時の光景が蘇り、恐怖から顔を青ざめる。
キッドはそれだけ言うとキラーにアマンダを部屋に連れて行くように命じた後その場を去って行った。
「………………行くぞ」
キラーにそう言われ、大人しく手を後ろで拘束されながら、長い廊下を歩く。
「……本当に……」
「?」
後ろからボソリと何か呟く声がして後ろを振り向くと、マスクの上からなのでよくわからないが、キラーが確かめるかのようにアマンダに問いかける。
「本当に、脱走しようと思っていたのか?」
「…え?」
思いがけない彼の言葉に目がキョトンとなる
「本当に逃げるつもりだったなら、何故おれ達の寝床まで来た。まるで捕まえてくれと言わんばかりだ」
どうやら彼は自分の仲間の証言を疑っているらしい。
彼の言葉に、ほんの僅かだけ縋り付きたい衝動に駆られる。
「わ、わたし…は…」
何かに願うような瞳で見つめられ、少しだけ動揺してしまう。
しかし、アマンダはすぐに目をそらし「なんでもないです」と言った。
「逃げたかったんです。どうしても…
なりふり構わずとにかく何処かへ逃げ出したかったんです」
我ながら強引な理由付けだと自分の嘘の下手さに笑いそうになる。勿論いい意味ではないが
キラーは何か言いたそうな顔をしたが、結局「そうか」とだけ言った後、物置部屋に到着しアマンダを中に入れた。
「…次からは命はないぞ」
それだけ告げると扉を閉め、鍵をかけ自分の部屋に帰って行った。
一人になった部屋で、アマンダは途端に涙がボロボロと零れ落ちる。
同時に手足の震えが止まらなくなる。
やっぱり彼らは海賊だ。
どこへ行っても海賊なんだ。
彼らの冷たい視線が、アマンダの恐怖を煽る。
出よう
アマンダの頭の中に、ある決意が浮かぶ
もう此処にはいられない
一刻も早くこの場所から出ないと
私はいずれ
血の気の多い獣の群れに、もう正直ついていけなくなった
次の島で、逃げよう
その決意が、固まる
もう一度捕まると本当に命がない
でもそんなリスクを背負ってまでも、アマンダは逃げ出す決意を決める
必ず
必ず逃げ出す!
To Be Continue…