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An Escape And The Truth④
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「ほ、本当なのかな?アイツがアマンダを…」
「知らねェよ。でもアマンダが何も言わねェ理由はそれしか考えられねェだろ?」
船の看板で話をしているのは先程ローからアマンダの周囲を警戒しとけと命じられたベポとシャチ、そしてペンギンにジャンバールまでいた。
あの時、本当は男の証言に対してアマンダが否定しなかった理由を四人で考えていた。
そして一つ思いついたのが…
「やっぱアイツがアマンダをお、おそ、おそ…」
そこまでシャチが言うと途端にペンギンと共に顔が赤くなる。
「アマンダを襲おうとしてたんだな!でも、なんでアマンダはその事をキャプテンに言わなかったんだろう?」
ベポの問いに三人は言葉に詰まる。
それはベポが襲われるという意味をちゃんと理解していないからだ。
恐らく海賊が一般市民を襲う時の「襲う」と思っているのだろう。
三人は人間でもう経験ある大人なため、意味はわかっていた。
島に上陸した時、そういう目的で女性に絡んだ事も何度かあった。
……………ジャンバールは知らないが
「………しかし」
するとポツリとジャンバールが呟く。
彼の言葉に耳を傾ける一同。
「本当にそうなのだとしたら尚更一人にしておくのは危ないんじゃないか?」
ジャンバールの言葉にハッとなる。
今は昼間なためそんな時にまで襲う奴などいるはずもないが、万が一の事を考えてせめてアマンダの味方である自分達は側についておかなくてはならない。
しかし
「そ、そうだな。じゃあ……
………………ベポ、お前が行け」
「えぇ!?なんでさペンギン!!皆で行った方がアマンダも安心するだろ!?」
「いや、行きたいのは山々なんだが、おれ達は前科があるからなァ」
ペンギンがそう言うと、二人の頭の中には以前偶々立ち寄った森の中で見かけた裸姿のアマンダが浮かんでくる。
と、途端に顔が赤くなる二人。
「おい!ジャンバール!お前も一緒に来い!」
「………………………」
ジャンバールもあまり賛同できない。
もし彼らの思う通り、アマンダが脱走したのではなく、男に襲われて逃げるために部屋を飛び出したのなら、彼らに下心がなくとも同じ男ではアマンダは安心できないだろう。
最悪の場合、自分達のせいで余計あの時の出来事を思い出して傷を広げてしまうかもしれない。
なら、この船で唯一人間の女性には興味のないベポが慰めてあげるのが得策だ。
しかしそんな事ベポには理解できない。
どうしたものかと悩んでいると、船員の誰かが「島が見えたぞー!」と叫んでいるのが聞こえた。
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「……島に着いたみてェだな」
突如大きく船が揺れたかと思うと、外の方でガタガタと物音がした。
恐らく島に上陸するために船を調整しているのだろう。
しかし、念願の上陸に喜ぶ間も無く、男のアマンダの身体を弄る手は下降していく。
この状態では逃げるのは無理だ。
諦め掛けていたその時
「「!!?」」
何やら廊下の方で話し声が聞こえる。
廊下を歩く音は聞き覚えのある独特の音だった。
今この部屋に用のある者はいない筈。
しかし、アマンダの中にはいつも島が見えた際この部屋を訪れる者達を知っていた。
まさか、何故彼らが………
「お、おい離せよベポ!」
「い・や・だ!皆でアマンダの様子を見に行くんだ!おいジャンバール、ちゃんと付いてきてるか!?」
聞き覚えのある声。
その声にまだ彼らがアマンダを助けにきたわけでないというのに、心のどこかで安心してしまう。
違う、彼らももしかしたらこの男と一緒に…
そんな事を頭で考えてもどうしても期待が過ぎる。
アマンダの瞳に光が宿る。
彼女は突然の来客に焦る男の一瞬の隙を付いて男を押しのけ、自由になった身体を起こして扉の前まで全力疾走する。その衝動で口を塞いでいた布が解けたが度重なる恐怖で声が出なかったため、扉を手で思いっきりドンドンと叩き助けを求めた。
その音が聞こえたのか、四人が扉まで走ってくる音が聞こえる。
「!てめェ!」
男がそれ以上音を立てるなとアマンダの髪を引っ張ったその時。
「おい!どうした!?なんだ今の音!」
「アマンダの他に誰かいるんだろ!?鍵がなかったぞ!!ここを開けろ!」
外からドンドンとアマンダが扉を叩いた時よりも大きく叩く音が聞こえる。
だが一向に開く気配がなかったためラチが明かないと思ったのか
「アマンダ!扉から離れろ!」
外からそのような声が聞こえ、未だ引っ張られた状態の髪を思いっきり引きちぎり、自由の身になった身体で扉から離れる。
「アイヤー!!」
すると大きな物音を立てながら扉が破壊された。
見ると眩しい光に、自分を助けにきてくれたベポ達がそこに立っていた。
ジャンバールは急いで駆け寄ると、男の身体を持ち上げ、呆然とする彼を背負い投げで床に叩きつけた後、廊下まで追いやる。
「アマンダ!大丈夫!?」
その間ベポ達は部屋の隅で怯える彼女に駆け寄った。
シャチが暗い部屋の中彼女を見つけ震える身体に触れようとするが、ビクッと反応されてしまい、思わず手を引っ込めた。
それとは御構い無しに彼女の肩を支えるベポに、安心した様子でそのふかふかした胸元に身体を預けるアマンダ。
怖くて怖くて力無い手でぎゅっと目前にいたシャチの服を掴む。
驚くシャチだが拒みはしない。
すると、破壊された扉の向こうで男がジャンバールに何やら慌てた様子で話していた。
「お、お前ら!良いところに来てくれた!
いやァ、扉が急に故障して開かなかったんだ!」
今度こそ男の虚言だとわかる。
男の言葉に耳を傾け傾けず、四人は敵を見る目で男を睨む。
「な、なんだよその目は!
そ、そいつが急にまたおれを呼び出して…」
「ケッ、この後に及んでまだ下手な嘘付く気かよ。ここにいる全員、もう誰もお前なんざ信用しねェよ」
「顔も赤くなってるし、まさかこんな真昼間に手ェ上げてまで強姦しようなんて考えるクズがいるとはな。ジャンバールの言った通り、様子見に来て正解だったぜ」
彼らは何を言っているのだろう。
様子を見に来た?
私を軽蔑してたのではなかったの?
そんな疑問が浮かび上がるが、今彼らは自分を守るかのように囲み、ついさっき自分を襲っていた男を睨みつけている。
そして自分はそんな彼らに甘えるように縋っている。
彼らに助けられているのだ。
「そ、それは…急に船が傾いたからその女が壁にぶつかって勝手に怪我して…」
「ふざけた御託ばっか並べやがって。そもそもおれらはキャプテンからこの娘を気にかけるよう言われてんだ。その時点でもうてめェを信用なんざしてねェよ」
ペンギンの言葉から耳を疑う事実が聞こえる。
キャプテンに気にかけるよう言われた?
それはつまり、ローが自分を気にかけて部下達に様子を見るよう命令したということ?
「なっ!い、意味がわからねェ。なんでトラファルガーが…」
「何をしている」
落ち着いた声が廊下から聞こえる。その場にいた全員が声のする方を見ると、そこには更に意外な人物がいた。
「キラーさん!」
「騒々しい音が聞こえるから来てみれば、何故扉が破壊されているんだ」
キラーの登場に男は安堵の声を上げ、彼に駆け寄る。
「じ、実はこの女に昨日の事を謝りたいからって呼ばれて、鍵穴が壊れたからここにいたら急に船が傾いて女が怪我して…。
そしたら偶然来たこいつらがおれがこの女を襲ったって言って聞かねェんスよ!!」
「嘘ついてんじゃねェ!
おい殺戮武人!こいつが言ってんのは自分に都合のいい嘘だ!こいつは嫌がるこの娘を押さえつけて暴力で脅して襲おうとしたんだ!」
キラーは一言も喋らない。
両者の意見とベポの腕で横たわるアマンダ。そして破壊された扉を見て何かを考えている。
「……そうか」
何をどう思ってそう呟いたのかわからない。
仮面をつけた状態ではキラーが今どんな表情をしているのかわからないからだ。
「理由はどうあれ、この部屋を破壊したのはお前達でいいんだな?」
何を言っているのかわからない。
部屋を壊したのなんてどうでもいい筈なのに、いやよく考えてみればここはキッド海賊団の船なので余所者の自分達が破壊したのは常識的に良くない事である。
「い、今はそれどころじゃ…」
「お前達が部屋を破壊した件はトラファルガーに報告する。弁解はそこでしろ。
お前は医務室へ行って治療して来い」
「は、はい!!」
ざまぁみろと言わんばかりに此方をみてニヤつく男。
キラーはキッド海賊団の船員なので、仲間を信じるのが妥当だ。
しかし、この状況を見てもまだ男を庇うキラーの神経がベポ達にはわからなかった。
男と共にベポ達に背を向け部屋を去るその背中にシャチが怒りに叫ぶ。
「見損なったぜ殺戮武人!成り行きとはいえシャボンディ諸島でお前と共闘した縁で、話のわかる奴だと思ってたのによ!!」
だがシャチのそんな言葉にもキラーは耳を貸さず、その場を去った。
「あのヤロウ!!」
「うっ…」
キラーの無情さに壁を殴るシャチだが、アマンダの呻き声が聞こえ、彼女を見る。
「大丈夫か!?アマンダ!今キャプテン呼んでくるから!」
ベポはそう言うとローの元へ行くためシャチにアマンダを預けようとするが、アマンダはベポの服の裾を掴んで首を横にふる。
「でも顔に傷が!それに手首の怪我だって再発してたら…」
ベポの言う通り、手首の怪我は男に踏みつけられたせいで悪化していた。
でも今はローを呼んできてほしくなかった。
アマンダは必死に首を横にふって、彼らに話しかける。
「わ、私を外に…連れて行って…ください…」
「な!何言ってんだよこんな時に!?それより傷を…」
それでも尚首を横にふりつづける。
「お、お願い…あの人には言わないで…わ、私…ここにいるのが怖い…」
先程襲われそうになったアマンダの怖いという言葉を聞くと、どうしても言う通りにしたくなる。
「で、でもそれは、おれらの一存じゃ…」
「だ、だよな。結局はキャプテンを呼んでこないと…」
ペンギンの言葉に身体がビクッと強張る。
その反応を見逃さなかった四人は罰が悪そうにお互いを見る。
アマンダはローに殺すと脅され、刀を向けられた。
更に誘拐される前は店を破壊されたし、実際ローに拘束されて捕まったのだ。アマンダがローを恐れていても不思議ではない。
「アマンダ、キャプテンはいい人だよ。おれ達にアマンダを気にするよう言ってくれたのはキャプテンなんだ。だからキャプテンのところに行こう」
ベポが優しく言うが震えが止まらないアマンダ。
いくら自分達がローの事をいい人だと言ってもアマンダには通用しない。
どうしたらいいのか戸惑う三人に、ジャンバールが口を開いた。
「ではおれから伝えておこう。少しの間なら外へ出ても構わないだろう」
ジャンバールが出した答えは、ローに黙って外へ行くのではなく、ローの許可を取って行くのでもなく、アマンダを外に連れ出した後、誰かがローに伝えると言う事だった。
それなら、例えローが反対しても連れて帰るまでの間は外の空気が吸えるはずだ。
「そうか!ナイス!ジャンバール!
じゃあベポ!お前が一緒について行ってやれ!おれ達がキャプテンに伝えとくから!」
「え!?シャチとペンギンは一緒に来ないのか!?」
「アマンダはお前には心を開いてるみたいだし、それに殺戮武人が船壊した事キャプテンにチクってるだろうからな。ジャンバール一人だけ説教喰らわせるのは酷だろ?」
最もな言い分だが、正直今のアマンダを男性と共に居させるのは気が引けた。
ベポなら安心して外の空気を吸えるかもしれない。
ジャンバールの出した案に乗った三人は、まずローに見つからないようアマンダを医務室に連れて行き軽い応急処置を施してから、シャチが近くの船員にローの居所を聞いてその場所を避けながら外へ出た。
途中手首の腫れがかなり酷くなっていることに驚きやはりキャプテンを呼んできた方がと呟くペンギンにアマンダが過剰に反応したので渋々やめる。
処置が終わり、ローに気づかれないまま外へと出た。
道中キッドにも気づかれないか心配だったがなんとか誰にも会わずに外へ出れた。
「じゃあ30分後にキャプテンに伝えるから、それまでの間ゆっくりしてけよ」
「あ……はい……」
アマンダは優しく言ってくれるペンギンになんて言っていいのかわからずそれだけ言うと、ベポと一緒に梯子から降りて島を歩いた。
心の内で彼女がなにを思って居たのか、知る由もなかった。