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Princess of Capture①
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「これは………」
男への制裁を終えた後、アマンダの部屋へ向かったキッドとキラー。
しかしそこはもぬけの殻で、アマンダはおろか、ベポ達の姿も見当たらない。
「チッ、あいつら女を連れてどこ行きやがった」
ベポ達の事だから自分ではなくローに許可を貰っているはずだ。
船大工に部屋の修理を頼むと、二人はローの部屋へ向かおうとする。
しかし、それより先に部下の一人が慌てた様子で自分達が今いるところへ走ってくる姿が見えた。
汗だくになっている姿を見ると、キッドを探して船内を走り回っていたのだろう。それ程までに彼に大切な用事があったのだろうか。
「き、キッドの頭ァ!!大変です!!」
「何だ、海軍にでも嗅ぎつけられたか?」
「ひ、人質の女が…逃亡しました!!!」
「「!?」」
船員の言葉に驚くキッドとキラー。
「……どういうことだ」
「お、おれも詳しい事は…
ついさっき、電伝虫からトラファルガーの部下から、アマンダが見つからない・と連絡があったらしくそれで…え?キッドの頭!?」
部下の報告を最後まで聞く事なく、キッドはローの部屋へ急ぐ。
部屋に近づくに連れて、外が騒がしい為、もしやと思い外へ続く扉を開けると、船の看板あたりでローとその部下達を発見した。
「泣いてるだけじゃわからねェだろ、ベポ。詳しく話せ」
「ゔう…噴水のある広場でアマンダとアイス食べてて、そのゴミを捨てに行ってる間に…アマンダが…」
ベポがゴミを捨てに行って帰って来たらそこにアマンダの姿はなく、代わりにベンチに白い紙が挟んであった。
そこには恐らくアマンダが書いたものであろう
〝ありがとう、さようなら〟
というメッセージが書いてあった。
ベポに渡された紙を険しい顔で読むロー。
すると後方から「ひっ!」とシャチの喉を掠る声が聞こえ、同時に後ろから風が吹き荒れる。その風は人工的に吹いたものだった。
「トラファルガー、てめェどう責任取るつもりだ」
「口より先に手が出るのは悪い癖か?ユースタス屋」
後ろからローの後頭部目掛けて蹴りを入れてくるキッド。ローは後ろを見向きもせず彼の攻撃を片腕を後ろに出し防ぐ。
両者の力が拮抗している中、それを止めたのはキラーだった。
「よせキッド。先ずは状況の整理とアマンダの捕獲だ」
「チッ」
ローへの攻撃を断念したキッドは、恐らくアマンダを逃してしまった犯人であろうベポを鋭い目つきで睨む。
ベポの話だと、キッド海賊団のクルーに襲われた心の傷を癒す為、アマンダを連れて島へ入った。
街の中心部を歩き、噴水のある公園のベンチでアイスを食べながらのんびりしていると、ベポが食べ終わったアイスの包み紙をゴミ捨て場まで捨てに行った。
しかし帰ってくるとそこにはアマンダの姿はなく、代わりにベンチに小さな白い紙が挟んであった。
それは、アマンダが書いたものと思われるベポ達に送ったメッセージだったという。
この状況から逃げられたと思ったベポはシャチ達の連絡を待つ事なく電伝虫で彼らに繋ぎ、事のあらましを報告したのだ。
そしてローの命令通り、一旦船に帰宅して今に至るとのこと。
今まで起きた出来事を一部始終聞いたキッドは眉間に青筋を立て、能力を使って船にある金属系の武器を自分の腕に引っ付ける。
そしてその武器をベポに向かって一気に腕から放ち攻撃した。
それに驚いてベポは思わず目を閉じるが、ローが能力で薄いサークルを張り、その武器の塊を石に変えた。
するとベポにキッドの攻撃は当たらず、代わりにどさどさと後ろの方からローが石ころと交換したキッドの能力によって操られていた様々な武器が崩れる音がした。
「……何のつもりだトラファルガー」
「おれの部下の責任はおれがとる。要はあの女を連れ戻せば良いんだろ?」
両者の睨み合いが続く。
その異様な殺気に船にいる船員達の顔が強張る。
すると、そんな空気を掻き消す様に、一人の船員が血相を変えてやってきた
「た、大変だー!!南の岸に海軍の軍艦が!!」
「「!?」」
キッド達が船を泊めているのは北の海岸なので真逆だが、この島に長居するのは非常にマズイ。
報告したのは島に探検に出ていた船員の一人で、どうやらこの島に来た海賊を捕らえにやって来たのだという。
これはもしや
「あ、あの女が海軍に知らせやがったんだ…」
逃げたアマンダが住民から電話を借りて海軍に知らせた可能性は高い。
アマンダが海軍に自分達の目的を教える…。
最悪の事態を想像し、船にいる全員に緊張感が走る。
「け、けど…海軍の奴ら来るの早くねェか?アマンダが逃走したのってついさっきだろ?」
確かに、アマンダが海軍を呼んで彼らがやって来るには早すぎる。
もしかしたらあの時のオーナーが青キジにキッドやロー達の目的を話し、海軍が先回りして追ってきたのだろうか。
何れにせよ、騒ぎを大きくせず海軍を退けるにはアマンダが必要だ。
すると、ローが船から飛び降りて島に降り立つ。
「海軍がウロついている島に何人も滞在するのは危険だ。おれがあの女を連れて戻るからお前らはここにいろ」
「キャプテン!!頼みます!!」
ローが島に入るのと同時に何を思ったのか、それまで状況を見ていたキッドが船から飛び降りた。
「頭!?」
「キラー!電伝虫で島にいる奴らに船に戻るよう伝えろ!!おれはトラファルガーと共に女を連れ戻す!」
只でさえ二人とも手配書で顔が割れている。
下っ端の船員に探させる方が効率的だが、もし海軍が自分達を捕まえにきたのなら早い内にアマンダを連れ戻す方が良いだろう。
こんな事で船長の腰を上げさせるのは癪だが本人達が自ら行くと言っているため、任せた方が安全だ。
遠くなる両船長の背中を見守った後、キラーは電伝虫で島にいる船員達に事情を伝えた。
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