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Ignorance Is Sin
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「あ…………」
キッドと分かれた後、一体何があったのか確かめるべく看板の方へ向かうと、そこには恐らくローとキッドとの喧嘩で壊されたであろう箇所を船大工が修理している光景があった。
その中からベポ達の姿を見つけ、アマンダは彼らの元へ駆け寄る。
「ベポさん!」
「あ!アマンダ!!」
ベポの周りにはシャチやペンギンもいて、そしてその中心にはローもいた。
アマンダはローがいた事に一瞬驚き軽くお辞儀をすると視線をベポに戻す。
「あの、ここで一体何が……」
「それが……」
「ベポ」
惨状の出来事を話そうとするベポの言葉を低くナイフのように鋭い声が遮る。
声のする方へ顔を向けると、ベポの言葉を遮ったローが此方を見ていた。
ベポはローの視線から何かを読み取ったのか先の言葉を紡ぐ。
ベポに自分の言いたい事が伝わって今度はアマンダを見るロー。
しかし、ベポに向けていた視線とは違い、今度は怒っているかのように睨まれる。
「余計な事に首を突っ込むな、それで何度も痛い目にあっていたのを忘れたのか?」
「…………」
ローの言葉に忘れてないと首を横に降るアマンダ。
廊下で会ったキッドの様子からローとキッドが喧嘩していたのがすぐにわかった。
また、その原因が自分にあることも…。
ならば自分がなんとかしなければと思い訳を聞こうとしたのだが、ローの口ぶりからすると恐らくアマンダに出来ることは何もないのだろう。
それどころか彼らに火に油を注ぐかもしれない。
ローはアマンダがそれ以上何も聞かない姿勢を取ったのを確認すると、無言のまま仲間を連れて彼女の元を立ち去った。
「……………」
どうしよう
私はどうしたらいいのだろう
そんな事を頭の中で考えていても、確かなことは今この場でアマンダが出来ることは何もない
アマンダは荒れる船内を見ながら静かにその場を去った。
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自分の部屋に着いてからも、アマンダの心は騒めいたままだ。
(どこからダメだったんだろう、何から間違っていたのだろう…)
この船の中で起こる出来事や外界から起こる危険からキッドに身を守ってもらう約束をした。
しかし、それではキッド自身がもし彼女にとって外界からの危険となった場合、彼女の身を守るものは何もない。
その為にローとも契約を交わした。
それは多分間違っていないのだろう。
しかし、それは同時にキッドへの信頼を疑っている事になる。
それがいけなかったのだろうか
(でも、私がこの船にいるにはそうするしか…)
アマンダは以前、この船に囚われている時無力なのをいい事に船員から襲われた。
そして船から逃げ出した時も、たまたま出会った海賊に売り飛ばされそうになった。
船か外かどちらかを選ばなければならない時、アマンダは船を選んだのだ。
しかし、一度襲われた経験から何も学ばず船に戻るなんて自殺行為にも等しかった。
だからこの船で強い二人に身柄を預けたのだ。
無力で何もない自分には、元より授かったこの命を彼らに差し出すしかなかった。
(けどキッドさんは、私がトラファルガーさんに媚を売ったって言ってた…)
もしかしたら、誰振り構わず自分の命を売ってキッドやロー達を盾がわりに使う卑怯な奴だと思われたのかもしれない。
……わからない
何が正しくなく、何がそこまでキッドを怒らせたのか
そして、自分がキッドに対して何が出来るのか
それとも何かしてやる義理もないのか
何もわからない
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