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Ignorance Is Sin⑤
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雨だというのに傘もささず、濡れた身体を気にかけず此方を見るキッド。
するとその光景を見ていたもう一人の男が怒りながらキッドを睨む。
「てめェ何しやがんだ!?こいつはおれ達の獲物だ!勝手に横から奪い取ろうとしてんじゃねェ!!」
「あァ?〝おれたちの獲物〟だと?
ふざけんじゃねェ、そいつを先に手に入れたのはおれだ。海賊の宝に手ェ出すとはいい度胸してんじゃねェか」
ニヤリと口元を歪めるキッドに背筋が凍った男達は彼の海賊という言葉に耳を傾けてる。
そしてもう一度キッドの姿を確認し、途端にガタガタと身体を震わせた。
「おおおい…こ、こいつまさか…南の海(サウスブルー)の三億超えの賞金首、ユースタス・キッドじゃ…」
男がキッドの姿に怯えてアマンダから離れていくのを気にアマンダはその場から走り出しキッドの元へ向かう。
いる
本当にいる
これは夢じゃない
涙のせいで前がボヤける。
でも、わかる。
会いたかった人はすぐそこにいる。
キッドの前まで行くと、改めて彼を確認するように顔を上にあげキッドを見る。
その姿は間違いなくキッドだ。
「キッドさ……」
「邪魔だ、弱ェ癖におれの前で突っ立ってんじゃねェ。死にたくなけりゃ引っ込んでろ」
これはキッドの後ろにいていいということだろうか。
アマンダは彼の後ろにある電信棒のところまで行きその影に隠れる。
キッドは目の前で怯む男達に凶悪な笑みを浮かべながらゆっくりとした足取りで近づいて来る。
男はガクガクと震えその場に跪くが、先程キッドによって肩を撃たれた男は反対に立ち上がり、キッドを睨む。
「ハァ…ハァ…億越えの賞金首だと?いい機会じゃねェか、こいつを売り飛ばせばきっと高額になるぜ」
肩から血を流しとても苦しそうだが、やはり人攫い屋としてキャリアを積んで来たからかそれなりの額の海賊も捕まえて来たらしい。
キッドのような海賊でも怯むことはなかった。
男は懐からロープを取り出し、キッドに投げつける。
「あっ!」
そのロープは綺麗にキッドの片手に絡まって、キッドの腕を拘束した。
やはり海を渡って人を攫ってきたからかそれなりに腕は立つようだ。
そのロープで何人もの人を捕まえて売り飛ばして来たのだろう。
何の抵抗も見せずあっさりと捕まったキッドにアマンダの心臓の音は激しく鳴り響き止む様子はない。
「やった!さすがッス!!」
舎弟と思われる男も先程までキッドの威圧に怯えていたのが嘘のように調子に乗ってその場で飛び跳ね喜びを露わにする。
「そこの女と一緒に売り飛ばしてやるよ、女は兎も角、てめェはいくらが相場かな?」
キッドの動きを封じた事で、すっかり調子を良くした男が笑いながらキッドを見ている。
キッドは何も言わない、ただ捕まれている腕を見ているだけだ。
「こいつビビって喋りやがらねェぜ?まァどんな強ェ奴でも売り飛ばされるってなっちゃァ縮こまるもんだよなァ?」
「ククク、今日は大漁に大物が釣れる日だ!当分は金に困らなさそうだぜ」
そう言ってキッドの腕を拘束するロープを引っ張り、アジトへ連れて行こうとするが、キッドはその場から動かない。
どれだけグイグイと強く引っ張っても微動だにしない彼は早く来い!と促す男の罵声に耳を傾けず未だに拘束された腕を見ながらニヤリと笑った。
そして後ろでハラハラとした様子で見ているアマンダに視線を向ける。
その時のキッドの笑みが背筋を凍らせる。
「女、よく見ておけ。これがこの世の縮図だ」
「はァ?何かっこつけて……」
瞬間、キッドが自身の片腕に絡まっているロープをその手で掴んだかと思うと、それを思いっきり自分の方へ引っ張った。
途端に、ロープを持っていた男の身体は風船みたいに軽々と引っ張られ、宙を浮く。
そして自由の身であるもう片方の手をぐっと握りしめ、拳をつくったかと思うと、自分の方へ引っ張られる男の溝内にその拳を叩き込む。
「ぐぼぁっ!!!」
鈍い音が走る。
バキバキと骨が何本か折れた音がした。
肋が何本か逝ったはずだ。
「ぐっ……はっ……」
ゼェゼェと荒い息をする男にキッドは嘲るように見下す。
「ったく、雑魚の分際でこのおれに楯突いたんじゃねェよ」
キッドは再びロープを持つと、今度は上に引っ張り男の身体を天に向かって飛ばした。そしてそのまま地面に叩きつける。
男が苦しそうに呻き声をあげると今度は隣の建物に突っ込ませる。
完全に遊ばれている男の全身から血がダラダラと流れており男は完全に気絶していた。
建物を破壊する程の勢いで男の身体を叩きつけ、飽きたのか自分を拘束しているロープをもう片方の手で引っ張り簡単に引きちぎる。
キッドにとって、ロープを千切ることは紙を千切るのと一緒らしい。
アマンダな鋭利な刃物でしか千切ることは出来ないのに。
「………ひっ、ひぃぃ!!」
仲間の惨劇を見たもう一人の人攫い屋の男はキッドの強さに恐怖し仲間を放っておいてその場を逃げる。
だが、キッドは戦意を失った者にすら容赦しないのか、懐から銃を取り出し、逃げる男の後頭部めがけて発砲した。
弾はそのまま男の脳を貫通し、何が起きたかもわからぬまま男はその場に死に伏せる。
「威力はまぁまぁってとこか」
どうやら新しく買った武器を試しに使いたかったようだ。キッドが街に赴いたのは、新しい武器を調達するためだったらしい。
「…………」
電信棒からその様子を覗いていたアマンダはその影から姿を現した。
それに気づいたキッドと視線が合う。
「…………」
雨が降り注ぐ中、しばらく見つめ合っていたかと思うと、キッドは自分の手にもつロープをアマンダの方へ投げる。
「…………?」
何の抵抗もなく、先程のキッドの時のように片腕に絡まるロープを見るアマンダ。
どういう事だとキッドを見ると
「引っ張ってみろ」
と言って、自分の手に持つロープを見せた。
言われた通り拘束されている方とは反対の手でロープを掴み引っ張って見るが、キッド微動だにしない。
思いっきり引っ張って見るもキッドはその場から動かずニヤニヤとこちらを見ている。
キッドは恐らく何も力を入れていない。
それなのに、石のように動かないキッドに、力を入れ続けてきたせいか少し息切れし始めるアマンダ。
「ハッ、もう限界か?わかっちゃいたが、大した事ねェな」
そう言って嘲りながらキッドはロープを自分の方へ引っ張る。
するとアマンダの身体はいともあっさりと宙に浮かびながらそのままキッドの方へ引き寄せられる。
抵抗する間も無くアマンダの身体はそのままキッドの胸にダイブする。
勢いよく引っ張られた為アマンダの全体重がキッドにのしかかったというのに彼の重心は傾くことはない。
「あ……」
キッドの身体の体温を感じる。
胸板に耳を引っ付けると、彼の心臓の音が聞こえる。
いる、私の前に彼がいる。
アマンダは、いとも簡単にキッドに捕らえられた。
「見えたか?この世の縮図が」
「はい……」
キッドが見せた、彼らの定義。
そこに足を踏み入れた自分の運命。
わかっていた。
男がロープをキッドの腕に巻きつけ、捕らえたと勝ち誇った時
本当に捕らえられていたのは男の方だった。
捕らえたはずのキッドにいいように弄ばれたのだ。
これがキッドの言っていたこの世の縮図。
拘束具を持っているから相手を支配できるのではない。
支配はいつだって強い者の特権だ。
その強さは、キッドのように己の実力と、天竜人のように権力による実力がある。
その事実を身をもって知ったアマンダは、改めて己の無力さに涙し、キッドの胸に寄りかかる。
「弱ェ奴はこの海じゃ生き残れねェ。今みてェに襲われていいようにされても文句は言えねェ」
「だがテメェの事を弱いと認め何もしねェ奴は、死ぬことすら出来ずゴミみてェに扱われる。殺す価値もないからだ。」
キッドの言葉が深く彼女の心に突き刺さる。
まるで自分の事を言われているみたいだ。
「だからてめェは素直におれやトラファルガーに縋ってりゃいいんだ。不運から抗おうともしねェ面白みがない奴なんざ守ってやる価値もねェよ」
その言葉にアマンダはキッドの胸に顔を埋めながらコクコクと頷く。弱いからといって全てを諦めてしまう、そんな人間相手に自分が生かそうとする必要は感じない。キッドはそういう考えの人間だ。
待っていたら彼らがやってくるなんて甘い考えじゃすぐ切り捨てられる。
生き残りたいなら這い蹲ってでも抗い、助けを求めなくてはならない。
この広大で危険な海を渡って行くには死にに行くに等しい程力のないアマンダは、当然抗う意思はあっても相手の圧倒的な力にねじ伏せられてしまう。
だが、だからといってそれで諦めてしまうぐらいなら自分を守ってくれると約束してくれた人達に死に物狂いで縋らなくてはならない。
もう外が暗くなり始め、雨が降り注ぐ中、アマンダはキッドの胸元に自身の顔を埋め涙ぐむ。
キッドは自分との契約を反故した。もう守らなくて良いはずなのに、泣きじゃくるアマンダを人攫い屋から救ってくれた。
それどころか、彼らはアマンダを置いて出航などしていなかった。
もう自分に危害を加えた輩はいないのに、涙が止まらなくなる。怖くないはずなのに、今キッドから離れたくない。
いつまでも自分の胸元で泣きじゃくるアマンダにイライラしてきたのか、キッドは「いい加減離れろ」といってアマンダを自身から引き剥がそうとするが、アマンダは首を横に振ったままキッドから離れようとしない。
言わなくてはならない。
黙っているだけでは彼は察してくれない。
自分から伝えなくてはならない。
断られるかもしれない。
そんな恐怖からか身体がカタカタと震える。
しかし、アマンダはキッドの胸元に疼くめていた顔を上げ、目の前にいるキッドを見上げる。
そして、震える声で彼にお願いをする。
「お願いします……私を、守ってください…!
もう、見捨てないで……私何でもしますから!
だから!もう一度わ、わたし…と…」
「あァ?」
キッドはアマンダが何を言っているのかわからないといった表情で彼女を見る。
しかし、そういえば自分は怒り任せにアマンダとの約束を反故した記憶が蘇る。
あの時は本当に衝動的な感情で彼女に八つ当たったせいで記憶が曖昧だが、確かに彼女との取引に決裂した。
まさかあの時の事をまだ引きずっていたのかと思うも、泣きながら縋る彼女を見るとどうやらそうらしい。
未だキッドのコートを強く掴み離れようとしないアマンダにキッドは彼女の覚悟を試したくなった。
「…何故おれにこだわる、トラファルガーがいるだろうが」
我ながら意地悪な質問をすると心の中で苦笑いするキッド。
案の定、アマンダは彼の質問に上手く答えることが出来ず戸惑っている。
欲張りな感情からではない。
ローもキッドも両方が欲しいというわけじゃない。
だが、今の状況から見るとキッドにはそう思われてしまうだろう。
彼の質問に戸惑うのは、アマンダ自身もどうしてそこまでキッドにこだわるのかわかっていないからだ。
「わ…かりません。でも、わたしは…あなたに守ってもらいたい!
私が何かしたなら謝ります!だから、もう一度私と契約を…!」
キッドの機嫌を損ねる解答だったとしても、アマンダには自分の今の気持ちをぶつけるしか方法がなかった。
「……とりあえず離れろ、うぜェから一々泣くんじゃねェ」
「やっ…キッドさ…!」
「聞かねェなら交渉決裂だ、このまま捨ててやる」
キッドに睨まれ、アマンダは慌てて彼から離れる。
そして未だにボロボロと流れ落ちる涙を服の袖でゴシゴシと擦って拭いた。
そして泣かないように目に力を入れ強い意志でキッドを見る。
自分に捨てられたくないと必死に言うことをきくアマンダにキッドは加虐心が溢れ、ニヤリと口元を歪める。
「人質の分際でおれとトラファルガー両方を強請るとは欲張りな女だ
だが、海賊相手にてめェは言っちゃいけねェ言葉を使いやがった」
「……?」
「……無自覚か。つぐつぐ間抜けだなてめェは」
そう言うとキッドは先程アマンダに離れろと言ったにもかかわらず今度は彼の方からアマンダに近づき彼女の顎を掴んで上向かせ強制的に自分と目を合わせる。
「おれに守ってもらう為にてめェは〝何でもする〟んだよなァ?良い心がけだぜ」
「あ………」
それは、キッドに再度自分を守ってもらうよう頼んだ時、アマンダが口走った言葉だった。
「言葉通り〝何でも〟して貰おうじゃねェか。言っとくが、訂正なんざ通用しねェからな」
「あっ……ん!?」
キッドは口元の笑みを消さないままアマンダの両腕を掴み頭上に持ち上げると近くの建物に押し付ける。
それほどまでに勢いはなく、加減をしてくれていたのか対して痛みはなかったが、それ以上に背筋が凍る。
「あ……き、キッドさ…」
「昨夜の続き…なんてのはどうだ?まァてめェに拒否権なんざ与えねェけどよ」
「…………!!?」
キッドの言葉に顔が赤くなる。
昨夜、アマンダはキッドの部屋で彼に弄ばれた。
その時何を思ったのかその行為は未遂で終わったが、続きということは、最後までするということだろうか。
「あ、キッドさ……ここ、外で…」
「あァ?拒否権なんざ与えねェって言っただろうが。嫌ならトラファルガーのヤロウに大声上げて助けを求めろよ。その瞬間、てめェとの交渉はなしだ」
「なっ……や……!」
「…もののついでだ。トラファルガーに昨夜のてめェの姿でも見せてやれよ。見物料は分捕ってやるからよ」
「そ、そんなっ……あっ!」
両手を塞がれ身動きがとれないアマンダの服の中に、雨で濡れたキッドの手が入り込む。
雨により全身を濡らしたキッドはいつもの凶暴な雰囲気の中に大人の男の色気が漂い、アマンダの視覚を犯す。
アマンダの華奢な身体を弄るキッドの鍛えられた手が下着を晒しその場所の中心をキュッと摘んだ時、敏感な彼女の身体は大きく跳ね上がる。
昨夜の出来事も相まって甘美な雰囲気に呑まれ、男から受ける愛撫に官能的な声を上げる。
キッドも自分の思うがままに身体を支配されているアマンダに感情が昂ぶってくる。
雨で服が彼女の身体に貼りつき、その女性らしいボディラインを映し出す。
髪は濡れて水滴をポタポタと垂らし、彼女の身体を伝って地面に流れ落ちる。
互いに雨のせいで身体が冷たくなるはずなのに体温が上がっていく。
男から受ける刺激に耐えられなくなったアマンダがもどかしそうに両足を擦り付け、キッドは加虐的な笑みを浮かべながら、その場所に手を動かした。
「無様なもんだな、三億の首が」
「!!?」
未だ官能的な雰囲気に呑まれ頭がぼうっとしているアマンダとは反対に、何処からか見知った声が聞こえキッドは目を見開き行為を中断させた人物のいる方へ顔を向ける。
「トラファルガー……」
「探したぜ、ユースタス屋。まさかお前が街のど真ん中で女を襲うゲスだったとは想定外だ」
行為の中断をした人物はローだった。
だんだん意識がはっきりとしてきたアマンダはキッドが顔を向ける方へ同じく視線を寄越し、彼女も一歩遅れて目を見開く。
「と、トラファルガーさん……」
思わぬ人物に自分が今どういう状況かが分かると、アマンダは恥ずかしさのあまり頭上に纏め上げられた腕を解放させようとするが、当然のごとくキッドの力に敵うはずもなく無駄な労力を使ったに過ぎなかった。
キッドもキッドでアマンダを拘束している腕を解放させる気はなさそうだ。
「おれを探してただと?てめェが本当に見つけたかったのは〝コレ〟じゃねェのか」
キッドは行為を邪魔された怒りからか眉間に皺を寄せコレと称したアマンダの腕をを拘束している手を上には上げ、彼女の身体を持ち上げる。
突然身体が宙に浮き、爪先が地面に着くか着かないか際どい所でぶら下がった状態になり、アマンダは息を詰まらせる。
「あァそうだったな。テメェで付いてきておいて勝手にいなくなった〝ソレ〟をベポからどうしても見つけてくれって頼まれたんでな。
探す手間を省かせてくれたのは感謝する。だが誰も好き勝手する許可は与えてねェ筈だが?」
「あァ!?何寝ぼけた事言ってやがる!?
おれが反故した契約をこいつ自らが何でもするっつって強請って来やがったんだ!
おれが何しようがてめェに関係ねェだろうが!」
「反故した契約…ねェ。
〝ROOM〟」
ローがそう唱えた後、三人の周りには薄いサークルが張られる。ローは薬指と小指を抜いた三本の指を立て、「シャンブルズ」と唱えると、突然アマンダの視界が透けていき、気がついた時には先程いた場所と違った光景が目に移る。
ローの能力に寄ってキッドの側から移動させられたアマンダは先程キッドにより宙に浮かされていたため、突然足が地面につきその反動で転びそうになる。
しかし、突如何処からか腕を掴まれ、そのおかげで転ぶ心配は無くなった。
腕を掴んでいる方を見ると、そこにはローがいた。
「いいか?てめェが女とした〝取引〟はてめェだけに特権があるわけじゃねェ。
〝取引〟は〝等価価値交換〟だ。
例えてめェが女との〝取引〟を反故しても女がそれを認めなけりゃ解約は成立しねェ。」
ローの言いたい事が何となくわかってきた。
要はアマンダがキッドの反故に同意しなければ、反故された事にはならない。
先程アマンダが再度彼に守ってもらうよう頼んだが、あれは全く必要のない事だったのだ。
「取引の反故はお前が勝手にやった気でいるだけだ。
それと、忘れているようだからもう一度言っといてやる。
女の身柄は今おれが預かっている。その時点でこいつはおれの〝モノ〟だ。許可なく触るとお前だろうが遠慮なく消すぞ」
「っ!上等だ!」
ローの挑発に怒りが頂点に達してしまったキッドがローめがけて新しく調達した銃を発砲する。
普通の人間なら抗う術なくその銃弾を身体に浴びて血を流すというのに、ローはそんな恐ろしい武器を前にしても冷静な表情で肩にかけていた刀を前に出し、銃弾を弾いた。
(す、すごい…!あんなのテレビの中でしか見た事がない!)
銃弾を弾くなんて生で見たのは初めてだ。
ローはこちらに迫ってくるキッドに迎え撃つため、アマンダを支えていた腕を振り払う。
そのまま勢いよく地面に転ぶアマンダに気にもかけず、ローはキッドの蹴りを今度は拳で受け止める。
互いの力が拮抗しあい、両者一歩も譲らぬ状況をただ唖然としながら見ていることしか出来ないアマンダ。
(え…と、何がどうなかったの?)
人攫い屋に攫われそうになって、キッドに助けてもらって、彼に縋って契約を交わしてその証として襲われそうになって、ローが現れて二人の言い争いから喧嘩になった。
(ど、どうしよう…)
能力は互いに使っていないものの、体術でお互いの身体を傷つけあい、アマンダはどうしたらこの喧嘩を止めることができるのかわからなくなる。
いつもならこういう時はキラーが仲介に入って止めてくれる筈だが生憎彼は今いない。
あたふたしながら二人の喧嘩をどうやって止めようかと考えていると、突如後ろから強い力で口を塞がれ後方へ引き寄せられる。
見ると、そこには頭から血を流した人攫い屋の片割れの姿があり、先程キッドから弄ばれ、近くの建物に顔を突っ込んで気を失っていた男だった。
「ゼェ…ったく冗談じゃねェぞ…!こうなりゃせめてお前だけでも売りさばいて……
…………っ!!ぐあああっ!!」
血を流しながらも強い力でアマンダを取り押さえ、そのままアジトへ連れて行こうとするも、突如男に襲い掛かる激しい痛み。
男は自分を痛めつけたであろうキッドとローの二人を見て、再度気を失った。
「あ……キッドさん…トラファルガー…さん」
「少しは周りを見ろ、間抜け」
「す、すみません……」
「次勝手にいなくなってみろ、てめェの余計な足バラして歩けなくしてやるよ」
「は、はい……以後気をつけます」
凶悪な二人に睨まれ、思わず縮こまってしまうアマンダ。
だが、そのお陰が二人の気は治り一悶着ついた。
「…………」
帰り道、自分の前を歩く二人を見て、アマンダは今は遠くにいる店長に心の内で話しかける。
【海賊と私達の住む世界は次元が違う。なるべく関わらないようにするのが一番だ。だが…】
【長い人生で、もしかしてらどうしても彼等の世界に関わらなければならない時が来るかもしれない】
【その時は、潔くその世界を受け入れなさい。
取り残されたその世界を生き抜くために】
店長
あなたの言っていた通り、私は今、弱肉強食の世に巻き込まれています。
その渦に飲み込まれないためにも、私なりに考えて自分の命を守りました。
その答えが正しかったのかはわかりません。
でも、私はもう一度あなたに会うために、彼等に縋ります。
To Be Countinue…