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チョコレートの箱は空だった。
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一瞬にして空気が変わった。
ずっしりと重く、息苦しさを感じる。
そして、真子の表情がどんどん険しくなる。
「なんでや」
真子の鋭い視線に捕まったせいで目がそらせない。
完全に怒っている。
「そないなこと言うには理由があるんやろ」
一層低くなった声は私を逃がそうとしてくれない。
口を開こうとするが上手く声がでない。
「どもっとらんではよ言えや」
握り閉めた雑誌の端に皺がつく。冷や汗が背中を通る。
こんな緊迫した空気は流石に耐え難い。というかなんであんなこと言っちゃったんだろう。
後悔先に立たずとはまさにこのこと。
意を決して、私は大きく息を吸った。
「これ、見て」
そう言って先ほど見ていたページを開いて、真子に手渡す。
真子は何も喋らずテキトーに紙を捲っている。
何か言ってよー…。
暫くすると読み終わったのか、真子は手にしていた雑誌を近くのテーブルに置き、大きなため息を吐いた。
「杏 ....こっち来いや」
真子の声は優しく子供をあやすような声で私を呼んで私の方へ手を広げている。
きっとあの足の間においでって子となんだろう
わたしは素直に従って、真子に背を向けるような体制で真子の足の間に入った。
すると、脇の下から真子の腕がゆっくりと滑り込みお腹の前で腕を回し、ギュッ、ギュッ、後ろから強く抱き閉められた。
すると真子は私の耳元でゆっくりと喋りだしたのだ。
「この雑誌見て不安になったんやろ」
「....うん。」
私はコクリと頷く。
「はぁーーーーーーーーーー」
真子の盛大なため息とともに、真子は私の肩に顔乗せた。
「お、怒った?」
っていうか呆れてるのだろう。
後ろからガンガン伝わってくる。
「あぁ、めっちゃ怒った」
「ごめん。」
「他所は他所。俺らは俺ら。他とやってること違うかもしれんけど、お互い好きならそれでええやん。」
お腹で組んでいる手を規則正しいリズムで優しく叩いてくる。まるで泣きじゃくった子供をあやしてるようだ。
真子の言う通り、私たちは私たちでいいんじゃないだろうか。
暫くの沈黙を先に破ったのは真子だった。
「俺だって男や。そら好きなら子と居ったら、エッチしたいし、キスもしたいし、ずっと抱き締めてたくなるんや。でも、杏が疲れてると思うとちゃんと休んで欲しいねん。俺のせいで余計疲れて欲しくない。せやから、そこは誤解してほしくないねん」
恥ずかしい。でも、ちゃんと考えててくれるということが改めてわかった。
真子が我慢してることなんてずっと知ってたけど、私は真子が休んでいいと言ってくれるとその言葉に甘えて見て見ぬふりをしていた。
「んまぁ、杏がしてもいいって言うなら遠慮せずそうさせて貰うけどなぁ」
ニヤニヤして、また私をからかってる。
さっきまでの重い空気はどこへやら。
この男は、空気を瞬時に変えることが出来るのが凄いと思う。
たまにはやり返してもいいよね
私は、お腹の前で組まれていた真子の腕をほどいて真子と向き合うようになった。
そして真子は不思議そうに私を見てくるので、そっと真子の頬に手を添えてゆっくりと顔を近づけこう言ったのだ。
「真子なら何されてもいいよ」
その言葉を聞くなり、噛みつくようにキスをする真子。
それを受け止める杏。
真子と杏がこの先どうなったのか。
それは二人しか知らない。