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選ばれたのはお気に入り
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定時になったのでエレベーターを待っていると後ろから桃ちゃんに声をかけられた。
「桃ちゃんお疲れ~、藍然課長もお疲れ様です」
振り向くと桃ちゃんと藍然課長もこちらに向かってきてる。二人も定時で上がったようだった。
そうして3人で会社を出て、タクシーを拾うと他愛もない会話をしていたら運転手さんが、ここでよろしかったでしょうか?と聞いてきたのできっと着いたのだろう。
「ここは僕が払うよ」
「えぇ!そんな!申し訳ないですよ!」
「そうですよ!私たちもちゃんと出しますよ」
藍然課長が3人分を出そうとしてる、、、ここは桃ちゃんと二人で止めなきゃいけない
「たまには上司にカッコつけさせてよ」
かっこいいこと言っちゃってー、桃ちゃん絶対キュンキュンしてるよ
「ほら、君たち行くよ」
藍然課長に呼ばれた方の先を見ると、居酒屋やバーではなく、超高級5つ星ホテルだった。
意味がわからない。
どうゆうことだ。
斜め上なんてレベルじゃないくらい予想が外れた。
私は現状を理解できぬまま、とにかく二人の後を追ってロビーに入る。
「や~っときたー!お疲れ様ですー!」
既に乱菊さん、イヅルくん、大前田はここについていたようで。
まって現状理解できてないの私だけじゃない?
これから何が始まるの?
結婚式?敷居の高い合コン?なんだこれ?
「ちゃんと来てくれてよかった~杏がいてくれないと困ってたところだったわ」
今だけ先輩に対して悪態をつきたくなるのをどうにか見逃してほしい。
「どうゆうことですか」
「あ~……黙っててごめんなさいね?」
きっと男にそんな艶めかしい顔をして言ったら許して貰えるんだろうけど、私は違う。
「ちゃんと教えてください。」
「えっとー……」
乱菊さんが困惑した顔で、藍然課長の顔を見ている。こいつらグルだな。
「藍然課長。」
「松田くん……すまない。本当は、先月大きな取引した企業からお礼がしたいと言われてね、松田くんは会食は苦手と言っていたから僕からは誘いずらくて、変わりに松本くんから誘ってもらったってわけだよ」
藍然課長の丁寧な説明のせいで帰ることができなくってしまった。
桃ちゃんやイヅルくんはまぁまぁと言ってくれる。大前田はさっさとしろと言わんばかりな顔で見てくる。乱菊さんはさっきまでの反省した顔はどこへやら、いい男いるかしら~なんて言っちゃってる。
「はぁ…事情はわかりました。逃げませんよ。先方を待たすわけには行かないので行きましょう」
気を取り直して、私たちは会場の中へ入ってみると、どうやら立食ビュッフェ式らしい。
シャンパンを貰い各自に挨拶へ向かった者もいれば、食事を楽しむ者もいる。
私と桃ちゃんはというとベランダでこじんまりと過ごそうとしていた。
「桃ちゃんはお喋りしてこないの?」
「したいんですけど、、、なんていうか、、」
「藍然課長のとこにシャンパン持っていけば喋れるよ」
「ちょっ!、、、別に藍然課長のことじゃー、、!」
ちょっと意地悪なこと言ったら突然顔を真っ赤にするもんだから、桃ちゃんってやっぱり素直でいい子だなぁ
「あー私、ちょっと1人になりたい気分だなー」
「んっ、、、わかりました。頑張っていってきます。ありがとうございます!」
そういうと桃ちゃんは新しいシャンパンを持って藍然課長の元へと去っていった。
あーあ、若いっていいなー
夜風が気持ち良くて、ベランダの手すりに肘を置き、外の景色が綺麗なのをずっと眺めていた。
突然目の前が真っ暗になり、誰かに後ろから抱きつかれ身動きができなくなった。
「えっ、ちょ、だっ」
「心配しなや。俺や、真子や」
必死で逃げようとしたら愛しい彼の声と名前が耳から入ってくる。
「真子?」
そっと目を塞いでいた手を離してくれた真子。私は本当に真子なのかと思い、見上げるとやはり真子だった。
「せやで。真子や」
真子はとっても穏やかな優しい顔をしてこちらを見てくる。
そしてそっと耳元で囁いた。
「好きな女をこないなところで1人にさせるわけないやろ。」