-
雪が降らない町に氷柱
-
真子がリビングから出て行ってから独り残されたそこは、先ほど電話してた時とは違い、些細な物音でさえも響く程の静けさに満ちた。
あんなに怒った真子を見るのはいつぶりだろうか。
何が真子の逆鱗に触れることをしてしまったのか深く考えたが全く思い付かない。
正直泣き出したいくらい怖かった。
あんな般若みたいな閻魔大王様みたいな顔で見られたら誰だって恐怖で身動きが取れなくなるに決まってる。真子が出て行ってから時間も経つが未だに私の中で鋭い緊張が糸を張っている。そのせいでなのか手の震えがとまらない。震えを抑えるために必死で手を重ね合わせ強く握り絞めるが止まる気配がない。
「どうしよう…」
本当に悪いことをしてしまったのか。このままではいけない気がした。
兎に角謝ってなんであんなに怒ってるのか聞かなきゃと停止寸前の脳と体を無理矢理動かして真子の今いる場所へ向かおうとリビングを出た。
△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△
ほんま、何しとんね。
この歳で嫉妬なんて恥ずかしいわ
多分、電話の相手は黒崎一護やと思う。
いや、絶対。
あいつが黒崎と仲良かったことなんて付き合う前からわかっとったし、今さらあいつらが連絡とってた所でどうも思わんのに。
ちょっと前まではお互いすれ違うようになってしまったが、ここ最近はクリスマスやら正月休みやらで買い物行ったり家でゴロゴロしたりと一緒に居った時間は多かった。
でも、もしかしたらほんま夢かもしれへん。って思うことも多くなった。
この夢が覚めたら、杏はどっかに行ってしまうのかもしれん。そう考えたくないが、たまに杏の笑った顔が自分以外にも向けられるとふと考えてしまうのだ。
今日だってそうだ。
突然の不安が襲いかかってきたせいで、ほんまは今日中に終わらせなアカン仕事を持ち帰って来たんや。家にちゃんと居るかが気になって急いで帰ってきた。玄関に靴が置いてあって、一安心したのもつかの間、リビングに扉を開けようとしたとき、奥から聞こえてくる笑い声。
そっと開けてみると、誰かと電話しとった。
あいつの口から、"黒崎" という名前が出てきた瞬間、俺の中から黒い渦が表れた。
あいつの顔は幸せそうな満面の笑みを浮かべてた。
あぁ、俺やなくてもあいつはあんな顔できる相手が居るんやって、ふと思った。
その時には俺の中の黒い渦は中身全部を侵食していて、衝動的な怒りが爆発してしまった。
後悔しても時既に遅し。
深いため息と共に肋骨が凹んでいくのがわかる。
ベッドに仰向けに寝転んで天井を見つめても現実は変わらないと寝室のよどんだ空気を吸う度に思う。
はよ謝らんと
そう頭ではわかっているが体が動かない。
どないすればええんや
そう考えていると、寝室の扉が開く音がした。
「し、真子、、、」
そこからは今一番に聞きたかった声が聞こえた。