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2.
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翌日布団の上で死覇装のまま眠っていた。
あれから三席の就任の義が執り行われて、気がついたら今のありさま。
時間は朝礼の40分前。マズイ。そう思って慌てて服を着替える。
脱ぎ捨てた死覇装と共に、何かが畳の上に落ちた。
ため息が溢れた。
まだ、世界がきらきらしていて、希望を持っていて、拘束から早く逃げ出したくて、自由に憧れて
諦めることも、後悔もしないと思っていた。
大切な人を、大切だと気づきもせず、一心不乱にその日を生きて、失う日なんて来るわけないと思っていた日常と記憶。その証。
拾い上げると、それは知らないうちにヨレヨレになっていた。
真央霊術院を卒業してから、今日まで一度だって肌身離さず持ってきた写真。
写っている四人は笑っている。
青鹿、檜佐木さん、私とほたるちゃん。
この写真から二ヶ月と経たずに、親友はこの世から亡くなってしまった。
檜佐木さんと青鹿は、大きな疵を負って帰ってきた。
私はただどうしたらいいのか分からなくて、
いまもまだ贖罪の日々を続けている。
朝礼の後、部下から提出された書類。
最終的に檜佐木さんに持って行かなければならない原稿。
彼の部屋へ入ると、彼は書類にサインをしていた。
床に散らばった書類やゴミの数々。それらを拾い集めると彼は気がついたように「ああ、悪い」と呟く。
「…いいえ」と答えたまま、散乱した書類を集め、ゴミをゴミ箱へ入れる。
「昨日は大変だったな」
「ええ…まぁ、でも前の隊にいたときの宴はもっと大変でしたから…」
「…九番隊には馴染めそうか?」
「…まあ…大丈夫だと思います」
「そうか」と彼は云ったきり、沈黙が流れた。
さっさと原稿を渡して、部屋を出ようと思った瞬間、彼が口を開く。
「…お前、変わったな」
「…変わった…?」
最後のゴミを拾い上げるためにしゃがみ込んだまま彼を見上げると、頬杖をついて彼が私を見下ろしていた。
やめて。その目で私を見ないで。
「ああ」
「…変わったんじゃ、ないですよ」
立ち上がって原稿を差し出す。
今度は私が彼を見下ろすかたちになる。
「元に戻っただけです」
「…戻る?」
頷く私に、彼は「俺には変わったようにしかみえねェよ」と云う。
「でも、私はただ…昔と同じように生きてるだけです」と云う私に、彼は「無理やりな」と呟く。
「…なにを、仰って…」
「俺にはそうみえるだけ、だけどな」
ふ と仕方なさそうに笑って、彼は私を一瞥する。
ああ、やっぱりダメだ。
「…失礼します」
長い廊下を足早に進む。そうじゃないと、何かに追いつかれそう。
勢いよく部屋の入り口を閉め切る。そうじゃないと、何かが私の中に入り込んで来そう。
私は莫迦だ。大莫迦者だ。
戻ってなんていない、それをあっさり見破られた。
ああ、やっぱりダメだ。
今も昔もずっとすきなままだ。
「…っ、なんで 当たり前みたいにそんなこと云うのよ…」
もう、私を私としてみてくれないのに
なんで私のことを私より判ってるみたいに云うの。
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2011/06/16