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7.
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「言ノ葉先輩、この前の写真です」
昼食のとき、ほたるちゃんの後輩が写真を持ってきた。人なつっこい笑顔の女の子で、とても可愛い子だった。
お礼を云うと「こちらこそ」と笑う。
一度写真を撮って貰っただけの縁なのに、きちんと責任もって手渡ししてくるなんて良い子だ、とも思った。
「ところで言ノ葉先輩、あれって本当ですか?」
「あれ?」
「この人…檜佐木先輩が護廷十三番隊に入るの決まったって件です。言ノ葉先輩、同じクラスですよね?」
彼女が指さしたのは写真の中で私の隣にいる修兵の姿。
「なに、それ…」
「え、知らないんですか?」
「修兵!修兵!!」
「静かにしろ!なんだよ」
さっさとご飯を食べて、片付けも次の授業の宿題のこともままならないまま 廊下を突っ走って彼の元に辿り着く。
「護廷十三隊に入るのが決まったって、本当なの?」
「なんだ、知ってたのか」
さらりと言う彼に、私は「知らなかったよ!」と声を張り上げた。
多少驚いたような顔をした彼に、息切れする呼吸を整えてから再び口を開く。
「ほんとに?」と問うと「ああ」と彼は答えた。
「そ、か…頑張って、ね…。九番隊だと…いいね、修兵ずっと九番隊に憧れてたもんねっ」
私がそう云うと、彼も「ああ」と見慣れない笑みで笑う。
そうか。彼は、だからあんな風にこの前も笑ったのか。
遠くに、行ってしまうから。
あなたはいつだって 結局最後まで、私のアコガレで終わってしまう。
傷つける事もせず
触れる事もしないで
本当は、たくさん云いたいことがあった。
どうして修兵の口から云ってくれなかったの、とか
いつ決まったの、とか
なんでもっと早く云ってくれなかったの、とか
ああ、だけどそんなのは私のわがままだ。
寮に戻ってその話をほたるちゃんにすると「私は少し前に聞いてたけど」と彼女はさらりと云う。
「なんで私に教えてくれないの!?」と怒ると「知ってると思ってたわ」と肩を上げた。
「知らなかったよ?!」
「でも私も噂で聞いただけだったから…それに、檜佐木くんからしたら自分からは言いにくいでしょうしね」
なんで?と問うと「自分だけ一抜け、っていうことでしょ?」と彼女が逆に首を傾げた。ブロンドの髪がさらりと肩から落ちた。
「卒業後の進路が決まってれば、安心よね。その分、心良く思わない人たちもいるし」
本を読みながら、ほたるちゃんは私にそういう。
ちら、と顔を上げたかと思うと、彼女はぎょっとなって「ちょっと…音色、顔真っ赤よ?」と綺麗な指をした手を私の額につけた。
「熱があるんじゃない?」という彼女。
そういえばここのところ、調子が悪い。吐き気も頭痛もする。
ご飯もあんまり食べていない。
「明日、一年生の演習引率なんだけど…」
「…やめておいた方が良いんじゃない?悪化するわよ?」
「でも…」と言葉を続けようとすると、彼女は「だめ」と一蹴する。
「先生には誰か代行するように言っておくわ」とイスから立ち上がった。
「…ごめんね…」
「それよりも、早く休みなさい。そんなんじゃ、明日どころか中間テストにも間に合わないわよ」
すっかり忘れていたテストの存在。
喉に詰まった重い物を飲み下して、布団の中に身を横たえる。
ほたるちゃんが代行の件を伝えるため、部屋を出て行く姿を薄目で見ていた。
翌朝、熱に浮かされる中、彼女の声で目を覚ました。
「大丈夫…じゃなさそうね、やっぱり」とため息をついた彼女は、背中に演習で使う斬魄刀が結わえられていた。
「だいじょぶ…」
「大丈夫じゃないでしょう。無理しちゃダメよ。ちゃんと休んでなさい」
「ん…そうする」
彼女が何かをいった。
「薬はちゃんと飲むのよ」とか「演習の引率は私が代行するから」とかそんな言葉だった。
もう一度目を覚ましたとき、彼女の姿はもうなかった。
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2012/06/15