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9.
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草の中に続く石畳。坂道を下りながら、何も言葉はない。
彼女の手には白かった花の束。
葬儀が終わって、三日。
突然彼女が墓参りにいく、と言い出した。
どういう心境の変化かわからないが、一人で行かせるのは不安だった。
その帰り道。
石畳の中腹で、彼女がふいに足を止める。
一つ下で、俺が振り返る。いつも下にある彼女の頭が、今は丁度目の前にあった。
彼女が俯いたまま、手の中の枯れた花に目を落とす。
「ねェ、修兵…?」
「どうした?」
もうすぐ、夏がやってくる。春はもう終わりを迎える。
風には夏の匂いが混ざっていた。
音色が俺の名前を呼ぶ。
「私が死ねば、よかったのかなぁ…」
「…なにいって…」
「死ぬのは、私のはずだったのにね」
彼女の顔を見て、返す言葉がなかった。
彼女は
誰より強い、凛とした空気を身に纏っている。
だからこそ触れれば一瞬で崩れる脆さがある。
本当は誰より泣き虫で、誰より弱くて
誰よりも独りになることを恐れている。
孤独であることから、仲間を持つことを知らずにいれば、その恐怖はなかっただろうに。
「私が…死ねばよかったのにね」
危うい
いつだって選ぶんだろう、死ねる方法を
目の前で二人が殺されて、一回生共を逃がすことよりなにより思ったのは
親友を失ったコイツのこと。
情けなくとも、本当に
(死んだ?蟹沢が?青鹿が?)
(…なあ、蟹沢が死んだら、アイツは一人になっちまうのか?)
「私にはもう、なにもないよ…」
「なにも、か…」
コイツには俺というものはみえていない。仕方のないことかもしれない。
「俺はここにいるぞ」
彼女が俺をみる。涙で歪んだ瞳が、俺自身を見返す。
震える声で、音色が「ひとりは…厭よ」と呟く。
「一人は厭だよ、帰りたくない…あの部屋の全部がほたるちゃんとの記憶なの」
その瞳から、音もなく涙がこぼれ落ちる。
そのうち肩を震わせて泣き始めた。
頬に触れると、その手を彼女の白い手が握る。
「…音色」
「なんで私が…こんな風に のうのうと生きてるの、」
そういうと、ただひたすら謝り続けた。
随分と痩せた、細い肩を抱き寄せても、尚「ごめんなさい、」とあいつらに謝り続ける。
「もういい。お前だけでも生きててよかった」
さらりと嘘をついた。
お前だけでも、なんてそんな綺麗事をあっさりいう自分に嫌悪した。
お前が生きててよかった。
死んだのが、お前じゃなくて良かった。
そんなことすら言えなかった。
あれから何年時が過ぎたんだろう。
彼女を連れ去ることも、さらうことも、臆病な俺にはできない。
今も、あのときも
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2012/06/15