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一話「新たな人生の始まり」
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次に目を開けると、俺は暖かなベッドに横たわっていた。
身体中の激痛に静かに眉を潜めながら起き上がる。
……嗚呼、死にたい位に痛みは酷い。
頭痛が特に辛い、頭が割れてしまいそうだ。
その時、ドアノブががちゃりと音をたてた。
ゆっくりと開いたドアの向こうには、少年が立っていた。
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「……嗚呼、起きてたんだ」
「貴方が助けてくれたのですか?」
「まあね。……君もエボット山に登ったんだ?」
「……わからないけど、きっと」
第一印象は、クールな子供。
微笑んでいるけれど、その目は冷たい。
俺も痛みを堪えて笑う。
でも、更に不機嫌になってしまったみたいだ。
「……私はキャラ。数年前に落ちてきたんだ」
「……俺は、クルヴィです。ファミリーネームは言えないですが。」
「ふーん……。君、女じゃないの?」
「……さあ、どうでしょうか」
キャラさんは俺に近づいてくる。
何をするかと思えば、俺の額に手を当てた。
……冷たくて、背筋がぞくりと震えた。
キャラさんは、目を見開きこう俺に言う。
「こんな熱が高いのに何で笑えるんだい……?」
「……変ですみません」
「まあ良いさ。君が何だろうと。……アズ!」
「何々!?」
キャラさんが「アズ」と呼ぶと白いのが出てきた。
山羊の様な人間の様な生き物で、きっと男の子。
多分、モンスターと呼ばれる者だろう。
ふと俺はあることを思い出す。
「……キャラ、さん……」
「何? どうかした?」
「俺の、鞄知りませんか……?」
「鞄? ……オーケイ、後で聞いてみる」
「ありがとうございます。」
鞄の中には、俺の最後の誕生日プレゼントが入っている。
……ローラースケート基ローラーシューズだ。
昔の事を思い出してしまった、……くる。
「……っ、ぁっ」
「どうかした? ……っ、耐えられる?」
「……はっ、い……。……あっ、はぁっ……はぁっ」
胸を押さえて背筋を丸める。
苦しい、辛い、嫌だ、死にたい、嫌だ……。
感情が波の様に押し寄せてくる。
不意に背中を優しくとんとん、とされる。
震える視界でそちらを見やると、キャラさんがしてくれていた。
そして、またドアが開いた。
出てきたのはさっきの男の子と、一回り大きい女性(だと思う)と更に大きい男性(だと思う)だった。
流石の俺の思考も仕事を放棄しそうだ。
もう訳がわからない、と思っているとキャラさんが紹介してくれる。
「あっちの小さいのがアズリエル。こっちの大きいのがトリエル。そっちの更に大きいのがアズゴア。
えー……、この人は……」
「俺はクルヴィです。こんなところからで申し訳ありません。以後お見知りおきを。」
痛みを堪えて会釈する。
胸が痛んで、少し顔をしかめてしまった。
トリエルさんが、キャラさんに訊ねる。
「クルヴィさんはどうかしたの?」
「さっきは胸を押さえて息が荒かったよ」
「すみません、心配ないので。いつもの事ですよ」
ニコニコとしながら言うと、キャラさんは眉を潜めてこう言った。
「いつもの事って……それ危ないんじゃ」
「でも今まで死にませんでしたし。
仕方ないですよね、きっと。」
……ふと、トリエルさんと目が合う。
彼女は、アズゴアさんと何かを話していた。
……殺してくれるなら、喜んでソウルを渡すのに。
「クルヴィさん。」
「…………はい。」
「私たちと一緒に暮らしましょう?」
「……………………え、」
二の句が告げられない俺に皆が笑いかける。
どうして事情を知らない見知らぬ人を助けようとするのかな
キャラさんに目をやると、目が合った。
……頷かれても、どうすれば良いの?
俺は焦りながらも、嬉しくて、でも恐くて。
「ご……、ごめんなさい……。」
拒否してしまった。
嗚呼、とても苦しいよ。
胸が張り裂けそうな位に痛みは増す。
「ど、どうして……」
「…………恐いです」
「え?」
誤解を産まないように一生懸命話す。
俺の真意は伝わるかな
「温かい家庭がわかりません。此処が何処かも分からなくて。傷つけてしまいそうで。恐いです。」
……俺は、嫌われるのが一番。
殺してもらえば良いんだ
そう思っていると、不意に抱き締められた。
キャラさんが、俺を抱き締めたんだ。
涙が止まらない、迷惑をかけてしまう。
「……泣いていい。大丈夫、皆君と仲良くなりたいだけなんだ」
ー「君と仲良くなりたいだけなのに酷いよ!」ー
思い出がフラッシュバックする。
自分の腕を力強く握りすぎたからか。
がりっ、と抉れる音と痛みを腕に感じた。
「……俺は、幸せになって良いんですか」
「勿論さ!」
アズリエルさんは答えた。
「俺は、此処に居て良いんですか……」
「当然でしょう?」
トリエルさんはキャラさんと一緒に俺を抱き締める
「俺を、殺さなくて良いんですか……」
「殺すなんてとんでもないよ!」
アズゴアさんは笑って答える。
……俺は、覚悟を決めた。
「……よろしく、おねがいします」