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午前三時の秘密会議
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君が瞳輝かせるモノは。
「なぁんだよ、寝ちまったのか妖精ちゃん。遊ぼうと思ったのになぁ」
コートを預けながらデイビッドがぼやく。一月一日午前三時、眺望で有名な傘下のホテル、スイートルーム……と、言うよりは、VIPの為の隠し部屋。
ツテとコネを駆使して漸く予約画面に辿り着くと言われる其処を、『取れました。勿体無いので皆さん来てくださいね』で済ませた隊長。何がどういう風に動いたのか怖くて訊けない内にカウントダウンも終わり、遅刻組も集まった。それなのに隊長を動かした張本人が寝こけているというのだからいい気なものである。
「昨日の晩眠れなかったみてェだからな」
「遠足前の子供かよっ。てぇか他人事みたいに言ってるが、お前らが離さなかったからじゃ……嘘、ウソです、拳に血管浮かせるな、懐に手をやるな」
「はいはい、番人同士の戦闘は御法度ですよ」
妖精の代わりにバルドルとクランツで遊ぼうとしたらしいデイビッドは敢えなく撃沈される。それも遊びの内なのだろうなと、同じく遅刻組のエミリオが珈琲を口に運びながら一応釘を刺す。
「ところで――荷物の中に気になる物が有ったんですがアレは……」
「さすがマジシャンお目が高い!」
時間も時間故に軽いお茶請け程度を摘みつつシャオリーが疑問を口にすると、時間も時間であるのにデイビッドはテンション高く返す。クランツが再び懐に手をやったのに気付かずに……
「コマ、カルタ、フクワライ。後は――」
「見た事あるなぁ……そんな名前だったのか。ジパングの玩具だよな?」
「そ。好きそうだろ妖精ちゃん」
手懐けられているのは妖精かデイビッドか。ともあれ卓上に広げられていく品々を興味深げに触っているジェノスは確実に妖精に手懐けられている派。
「お前さん使い方分かるのかい?」
「プレイ動画は用意済みだぜ」
周到だなぁと感心するナイザーの横で、ベルーガはプレイ動画再生用のタブレットを準備し始める。彼も手懐けられている派。
「むさ苦しい絵面じゃな――これは……よく手に入れたのぅ」
「秘密のルートが有るんですよ俺にゃあ」
「……危険はないだろうな」
「問題児と一緒にしないでくださいよ」
チェスを中断してメイソンとベルゼーが確認に来た。瞬時に組織への影響を考えるあたり副隊長の職業病である。対して、それが何なのか知っている翁は年の功。
「それで君はコレをどうしたいのか」
「遊びたかった相手は寝てますからね」
所狭しと卓上に広げられたジパング・トイ。だがそれを囲むのは黒スーツの男達。メイソンの言った通りむさ苦しい。遊びだしたりしたら恐怖映像である。シャオリーはともかくクランツはそんな映像の演者にされようものなら確実に懐の刃を抜く。
「そりゃあ今から勝負して、勝ったヤツが妖精ちゃんに教えるんだよ」
そこでデイビッドのこの一言。妖精に――但し食べ物の国からやって来た――尊敬の眼差しでキャッキャウフフされる。それは秘密結社の中の、更に時の番人などという職業に就いている彼らには究極の癒しである。他に無いのかと思わなくもないが。
「勝敗の基準有ンのかよコレ」
「そんなもん、妖精ちゃん基準に決まってるだろぉ?」
「『面白いモノ勝ち』ってこったな」
「コマで『面白い』って何なの?!」
「カルタの『面白い』も中々悩みますねぇ」
「メンコのように飛ばしてみようかのぅ」
「室内だ」
「……苦情が来ない程度で頼みたいが」
真夜中も真夜中に喧しい。だが止めるべき存在が居ない――正確には一人居る。部屋を押さえ、彼等を召集し、デイビッドに『お願い』した人物が。
「有り難う御座いました、デイビッド」
妖精の傍で供に眠っていたセフィリアが戻った。デイビッドは他のメンバーに気付かれないよう小声で返す。
「案は貴女だからねぇ」
「皆を上手く乗せたのは貴方ですよ」
「まぁね。得意っスよそういうの」
得意ついでに一人で仕切り、妖精の番と言う名の休息を今日が誕生日であるセフィリアにプレゼントした……とまでは言い過ぎだろうか。他のメンバーも少なからず考えていた事ではあるが。
「勝敗がつく頃には妖精も目が覚めるでしょう」
「日の出前くらいですかねぇ――しかし相変わらず面白い事を考える」
「我儘なだけですよ」
「自分の、だけじゃないっしょ」
返ってきた穏やかな微笑みがその答え――戻した視線の先に在る風景。それを目覚めた妖精が見る。その瞬間の彼女を想像する。
「――結局日の出見逃しそうっスけどね」
「有り得ますね。その時は――また来年という事で」
多くを望まない君が瞳を輝かせるのを見たい。それには何が必要だろうか。新しい太陽、美味しい食べ物、初めての遊び、それから――いや、それよりも。大事な人、世界の中で十一人。
“午前三時の秘密会議”
●END●