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良薬は口に苦しと言うけどもだ。
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「なまえ〜!遊びに来たヨ〜!」
玄関の戸を豪快に叩く音で目覚めた。ゆっくりと立ち上がると耳の奥から地響きのような低い音が鳴り、目の前が歪む。それに、頭の中がとても熱く鼻の奥がぼんやりとしている。
「ごめ、神楽ちゃん…寝てた…」
カララ…と軽い音を立てて戸を開けると冷たい風が頬に触れた。
「!なまえどうしたネ!顔真っ赤ヨ!…風邪でも引いたアルカ?」
「んー、、そうかもしれない…」
鼻水を啜るなまえを見ると神楽が熱を測るべくおでこに手を添える。すると凄い勢いで抱え込み、靴を脱ぎ捨て寝室に連れて行った。
「物凄い熱ネ…馬鹿は風邪ひかないって銀ちゃんから聞いたことあるけど、なまえは馬鹿じゃないって証明されたアル」
布団に寝かせ暖を取らせるように毛布や掛け布団をなまえの身体を包み込むようにかける。
「神楽ちゃん、ごめんね…せっかくゲーム一緒にやろうって話してたのに」
「気にしないでヨ!戦国MASARAはまた今度一緒にすればヨロシ!それにゲームは逃げないネ」
「ごめん…」
心做しか少し寂しそうな表情をする神楽になまえは申し訳ない事したなぁと頬に手を伸ばし撫でてやるとニコッと笑う神楽をみてホッとした。
「神楽ちゃん、風邪移しちゃうから来てもらって言うのもなんだけれど今日はお家に帰って?」
「…なまえの看病したいネ」
「うーん…嬉しいけど、移しちゃったらゲームがまた先延ばしになっちゃうよ?」
はっと神楽の目が見開き、それもそうかもしれないと一瞬考えたのもつかの間。
「でも、一人暮らしの寂しい部屋になまえを1人にさせられないネ。」
悪口を言われてるのか、それとも本当に心配してくれているのかどっちだろうと悩んだがきっと後者と言うことにしておこう。
「あ、じゃあ万事屋神楽ちゃんにお仕事の依頼しちゃってもいいかな…」
「依頼?こんな時に依頼するなんてどうかしてるネ」
「いや、それもそうなんだけどね…。本当は神楽ちゃんが来たら一緒にコンビニに行ってお菓子やジュース買おうって思ってたの。でも、こんな状態になるとは思わなかったし…家に何も無いから備蓄を買ってきて欲しいなって…」
あそこのカバンに財布が入ってるからと、指差す方向を見るとシンプルな黒のバッグがあった。人様のバッグ漁っていいものか迷った神楽はなまえの目の前にバッグを置き財布を取るように言った。
「別に漁って良かったのに」
そう言ってクスクスと笑うなまえをみて、信用されていると思うと自然と口角が上がった。パステルピンクの小ぶりなリボンが付いた長財布とハートのチャームが付いた鍵を渡した。
「これ、お財布と家の鍵…。報酬はおいくらかな?」
「報酬…要らないヨ!いつもタダ働きみたいなもの、今更報酬なんて貰える訳ないアル」
報酬と聞き嬉しそうな顔をした神楽だったが、姉のような存在からお金を頂くなんて気が引けたのか首を横に振る。
「ううん、これもお仕事だし。」
すると再びバッグをがさがさと物色し、奥の方から予備金が入っているであろう封筒を出した。
「万事屋さんって利用した事なくて…相場が分からないんだけど諭吉1人で足りるかな…」
「ほんとに要らないネ!これは行為でやる事にするアル!」
そう言うと無理矢理封筒をバッグに押し込んだ。
「あ、じゃあ酢昆布!神楽ちゃん酢昆布好きだったよね?お買い物ついでに好きなだけ買っていいから」
酢昆布なら…と納得した顔をしてうなづいた神楽をみて優しく微笑んだ。
***
「じゃあ行ってくるネ」
「うん、行ってらっしゃい。気を付けて…」
玄関の方から神楽の声を聞き今にも掠れそうな声で返事をするとガチャガチャと鍵が閉まる音がした。
息苦しさを感じ、背中に手を回して下着を取る、そしてそっと瞼を閉じると、目を開けてないのに視界がぐるぐると回る感じがする。時計の音と時折外から聞こえる子供の声。気が付くと眠りについていた。