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紙一重の向こう側。
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「宴ダァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
パパの大きな声がモビーの端から端まで響き渡る。
あの頂上戦争から2週間後。
傷も粗方癒えた男達は、待ってましたと言わんばかりにパパの言葉に全力で拳を天へと突き上げた。
ルフィとマイは明日の朝に九蛇の女帝さんがお迎えに来るらしくお別れ会も兼ねて久々の宴。
船は活気で満ち溢れていた。
『みんな...ほどほどにね?....パパはまだ飲んじゃだめ!』
おおきな盃を持ち出してきたパパが目に入りすぐにビシッと注意する。
「....すこしぐらい『ダメ。』」
「娘にいわれちゃァ仕方ねぇ。」
「親父も娘にはとことん弱いねぃ。」
そのやり取りを見ていたマルコが苦笑いする。
「親父はユカコにゃァ適わねェなぁ!」
エースが酒樽を片腕で抱えながら遠くの方で笑った。
そのエースの顔は既に薄く赤に染まっており、足元には酒瓶が数個転がっている。
「グラララララ~。エース、その言葉オメェにそっくりそのまま返すぜ。」
「なっ/////」
「そりゃァちげーねぇ!!!」
2番隊のメンツがエースをからかい始めると、周りがドッと笑いに包まれた。
その様子をパパの隣に座り眺めていると、エースの後ろで巨大な肉を口いっぱいに頬張っているルフィを見つけた。
そういえば、とキョロキョロとあたりを見回すと探していた人物が船の最後尾でちびちび1人酒をしているのを見つけた。
『パパ!ちょっと行ってくるけどお酒飲んじゃダメだよ?飲んだらマリアに言っちゃうからね?』
「........あァ。」
最後にふかーく釘をさすと、横に置いていた例の物を持って走ってそこまで向かう。
『なーに寂しくのんでるのよ~?』
『うるせ、ばーか。』
『隣座っていい?』
『おー!』
夜の真っ暗な海を眺める。
『そういえば、エースとルフィを助けた、あのハット帽の男の人って....』
『....サボだよ。私、バルディゴまでとばされて、ドラゴンさんに助けられたの。』
海軍本部の正義の門を通り過ぎた後、彼は船から忽然と姿を消した。
遠くの方で黒い鳥の大群を見たから、それに乗って帰って行ったのかもしれない。
サボはエースとルフィに自分の正体を明かさずに行ってしまった。
多分、何かと惹かれ合う存在だからそのうちまた2人の前に姿を現すだろうけど。
『あ!マイ!見て!』
『ん?...おー!綺麗だね!』
2人の視線の先には暗い海に反射した大きな月が光り輝いていた。
フワリと風に乗った海の匂いが頬をかすめる。
『...ねぇ、ココに来た時もこんな月夜だったね。』
『あぁ、まさかトリップするなんて思っても見なかったけどね~。』
『じゃーん!』
『....好きだね。それ。』
私は持ってきていた例の物を頭の上に高く掲げる。
『そんなに飲めないくせに。』
『いーの!雰囲気!雰囲気!』
それを勢いよく開けると、一緒に持ってきた盃をマイに差し出した。
『一升瓶....7割以上はアタシがのまなきゃね~』
『余ったら...飲む人たちいっぱいいるもん!』
そう言って後ろをみると、巨大な肉を食べながら腹踊りをしているルフィとそれをみて爆笑する私の兄弟達。
...エースはまた食べながら寝てるけどね。
そのうちみんなで歌い始めて、改めて海賊って自由だなって思った。
その楽しそうなみんなの歌声をBGMにトクトクと盃にお酒をつぐ。
『この先、新世界に入ってお互い大変だろうけど。アタシ達は、乗る船は違えど心は1つだよ。』
大きな月を見つめながらボソリと呟くマイに私は目を見開く。
そういうことをあまり言わないマイが急にほんなことを言うから少し驚いたのだ。
ただ、恥ずかしいのか目を合わせずに言うところはマイらしい。
薄らと目尻に涙を浮かべる。
『....なーに、泣いてんのよ。』
そう言ってニヤリといつもの笑みを浮かべたマイの笑顔はいつになくキラキラしていた。
『ありがとう。』
そう言い返すと今度はマイが一瞬驚いた顔をしたが、すぐに元のニヤリとした笑みを浮かべる。
『当たり前だろ....ばーか。』
『うん!』
月の光を全身に浴びながら、私たちはあの月夜の日のように盃を交わした。
こちらに走って手を伸ばすエース。
何かを叫んでいるルフィ。
目も開けてられないくらいの光に包まれた。
「ユカコっ!!!!!!!!!!!」
次に目を覚ますと、マイと一緒に砂浜に倒れていた。
『っ!!!!!!!!』
私は、目を見開く。
『.....うそ、、でしょ?』
『....ん、、、え?......ここって.....。』
隣にいたマイが起きた。
私たちの背後には、いつも2人で酒盛りをした酒屋があった。
『戻って、来たの?』
そんな、、じゃあ、私は、もう、エースとは....。
_____会えないの?
『ちょっ、ユカコ!!!!!!!!....どこ行くの!?』
いても立ってもいられなくなった私は、ある場所へと走り出す。
「いらっしゃいませー。」
間の抜けた声をスルーしてすぐに目当てのものを手に取る。
『ちょっと!置いていかないでよっ!!なに、し、て....』
追いかけてきたマイも私が手にしている物を見た途端、口を閉ざす。
ワンピース58巻の最後のページをめくる。
『....よ、かった。』
エースは死んでない。
でも、、もう、会えない。
『....ユカコ。』
震えた声で私の名を呼ぶマイ。
私は漫画に描いてあるエースの顔を指でそっとなぞる。
脳裏から離れない。
『.....え、、す。』
光に包まれる瞬間に見た、
こちらに必死で手を伸ばすエースの姿、私の名前を叫ぶ声。
もう、触れられないの?
あの、温かい背中には、もう抱きつけないの?
貴方の体温をこの感じることが出来ないの?
『...ッ、ぅっ、』
その場に泣き崩れた。
『....えー、、すっっ....。たすけて』
口に手を当てて、泣き声を押し殺して。
【 第一章 】 〜 完 〜