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こんな思いにさせないでよ
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「晋助…!!やめろ、晋助!!!!」
自分の寝言だと気が付き躊躇なく瞼を開けると目の前に真っ白が、広がっていた。
「ここは…」
シュー…と機械音が流れる中、口には緑色のマスクを装着されており、お世辞にも柔らかいとは言えないシーツが踵を擦る。
「やっと…起きたか。心配掛けさせやがって…」
心配そうに主人公の名前の顔をのぞき込むと目を力いっぱい見開いて懐かしい顔にそっと手を触れるとそれに答えるように銀時は自分の手を重ねた。
「…坂田か、久しぶりだな、生きていたのか…」
「死んでなんかねェよ。死にかけてたけどな」
「よかった…」
赤い瞳は更に赤く充血していて、目の下は真っ黒になっている。うっすらと目尻に涙を溜めているがバレまいと目を擦り、それを眺めている主人公の名前を見ればくしゃくしゃと頭を撫で、綺麗に包帯が巻いてある右腕に触れた。
「なんだ、触っても生えて来ないぞ」
「そうだよな。銀さん菌でどーにかならねぇかなぁって思ったんだけどよ。」
「腐って取れちゃうよ、勘弁してくれ。」
銀時の手を振りほどくと左腕に刺さっている点滴を見つめた。
「私はあれからどれくらい寝ていた。あれから何年経った…」
「…さァな。覚えてねぇや。今までどこ行ってたのか、後で密着24時しながら聞くから覚悟するこった」
そう言うと病室から出て行くとナースステーションに向かう銀髪を見つめていた。
「ナ、ナースさぁああぁあぁん!起きたよ!!起きたんだよ!!」
「うるさい!!ここに何処だと思ってるんだい!」
廊下から聞こえるやり取りにふわりと笑えば、いい時代になったのかと右腕を見つめた。
***
20年前に天人が 江戸に襲来し、無理矢理開国を迫った。
主人公の名前は妾の子だった。遊び人の父に育てられ、普通ならありえない本妻と妾の子の同居。
父はなんの仕事をしてるかしらない。だが、家が裕福な事は暮らす上でわかった。義母と主人公の名前は馬が合わないのか、はたまた他所の家の子だからか、父がいない時には散々いびられていた。
父がいると優しく、本当の子供のように接してくれた。女とはこんなものだろうかと幼いながらに思っていた。
ある日いつものように義母に家を追い出され、父が仕事から帰ってくるまで時間を潰すため河原の石を投げて遊んだり笹舟を作って川に浮かべたりするのが日課になっていた。
「冷てぇ…」
「あ、ごめんなさい…」
まさか人が居るとは思わずに大きい石を投げたら水しぶきが掛かったらしい。緑色した大きな目に綺麗な着物。きっといい所の子供に違いない。これ以上粗相を犯したら大変な事になると思い頭を深々と下げ立ち去ろうとすると。
「待て!」
「…え?」
「水切りって知ってるか?」
「水切り?」
急に声を掛けてき訳の分からない事を言ってので混乱していると、薄い石をどこからが持って来て石を川に向かって投げた。するとチュンッと風と水を切る音が川から5回ほど聞こえた。
「石が跳ねた…!」
「やっぱり水切りも知らないんだな」
少年は主人公の名前に石を渡し、やり方を得意げに教える。
「投げる時に回転をかけるんだ」
「…えい!」
石は2回程川を跳ねて沈んでいった。
「あーあ…」
「練習すれば上手くなる」
「ほんと?」
それから二人で暫く水切りをして楽しんだ。石の形が悪いだの、構え方がなってないなどくだらない事であーだこーだ言っていると昔から友達だったような感覚に思えた
「…ねぇ、君!明日もまたできるかな…水切り一緒に」
「…晋助」
「え?」
「高杉晋助、俺の名前…」
「私…主人公の名前」
「苗字は?」
「え、あの…」
「ないのか」
「…名乗っちゃダメなの。怒られちゃうか」
そう言うと晋助という男はバツの悪い顔をして、そうかと呟いた。
***
外をぼーっと眺めていると昔の記憶が蘇り、眉間にシワを寄せる。こんな時によくも昔の記憶を思い出せるのがすごく不思議だった。暫くすると銀時が部屋に戻ってきた。
「ナースに言ってきた。マスクも取れるし昼からゆっくりペースト状の食事だとよ。それと、風呂入れてくれるってさ。って言っても髪の毛洗って身体拭くくらいしかまだ出来ねぇって。」
「…ありがとう」
「暫く入院。まぁ、そんな身体じゃ当たりめェか」
「…」
また明日来ると手をヒラヒラさせながら病室を出ていく銀髪を眺めて、再び眠りについた。