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臭いものには蓋を
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膝を折りどんどんと鈍い音を立てながら階段を登ると戸を開けて中に入るなりブーツを脱ぎ捨てる。
「けぇ〜たぞ〜」
「あ、銀さんおかえりなさい」
雑巾を持ってる新八が台所から顔を出す。おう、と一つ返事すればソファーのある客間に行きゴロンと寝っ転がる。
「銀ちゃんおかえりネ」
「んー」
神楽が定春とじゃれあっているのを横目に、ソファーの下に山積みにしてあったジャンプを枕替わりにしようと手を伸ばす。
「銀さん、あの…」
掃除を終えた新八がお茶を3人分お盆に乗せて客間にやってくると、お茶を置き神楽を隣に座るように促した。
「やっと起きたよ、もう少し入院が必要だそうだ。」
新八が質問するよりも先に答えが帰ってきたのでびっくりして目を見開いてる新八がいた。それもつかの間、安心したように胸をなで下ろすかのように、よかったと聞こえた気がした。
「これからあの女どうするネ」
「そうさなァ、暫くはここに居させようと思ってる」
「え、でも知り合いでもないのにいいんですか?」
「…知り合いだよ。ガキの頃からのな。」
目を見合わせる神楽と新八を見ると理解するのに時間が掛かっている二人に短くため息を吐いた。
「松下村塾に、ある日やってきたんだ。」
銀時が話を続けようとソファーから起き上がり新八が淹れた茶を飲む。うまい、と呟くと聞こえたのか嬉しそうに目を見開いた。それが神楽の目の端に入ったのか、新八は神楽に変な目で見られていた。
***
「今日からこの学舎の生徒になる主人公の名前です。皆さん、仲良くしてくださいね」
主人公の名前と呼ばれた女の子は松陽先生の後に隠れて一向に出てこようとしない。困りましたねぇと苦笑いする松陽に声を上げたのは高杉だった。
「そいつの…主人公の名前の席はどこになるんですか。」
高杉の声が聞こえた瞬間主人公の名前は顔を出した。
「し、晋助…」
「おや、銀時の隣にしようと思っていたのですが…」
銀時の方を指差すなり首を横に振る主人公の名前。首を振られ失礼なやつだと声を上げると再び後に隠れてしまった。
「こら、銀時。女の子にはもっと優しくしなきゃダメですよ。」
後ろに隠れた主人公の名前の頭に手を伸ばし撫でる松陽。晋助の隣へ、と耳打ちされたのか小走りで高杉の隣にぴったりくっつくと、こちらをチラッと見る。
「何見てんだよ」
「…っ」
「銀時、醜いぞ」
ふふん、銀時に鼻を鳴らした晋助は机の使用スペースを半分にしようと少し横にずれる。主人公の名前もそれを察したのか空いたスペースに座り直し、高杉が教科書開き上から圧を掛けて見やすくしているのを横目に松陽に目を向ける。
ふわりと笑う顔を見れば恥ずかしそうに俯き高杉にぴたっとくっつき直す。
***
主人公の名前が剣術を学びたいと松陽に掛け合ったらしく道場には誰かのお下がりの道着を身にまとい素振りをしている主人公の名前を見掛けるようになった。
「おい」
「…なに」
銀時が声を掛けると今にも消えそうな声で返事が帰ってきた。高杉といる時はいつもニコニコしていてベッタリしているのに、他の人から話しかけられるといつとこうだ。
「俺と一本勝負しろ」
「…」
横目でちらりと銀時を見ると手拭いで汗を拭き、竹刀を持ち直し人差し指でちょいちょいと招きをする。その態度にカチンときた銀時は眉間にシワを寄せて構えに入る。
「俺が勝ったら、俺の質問に答えろ」
「私が勝ったら、二度と話し掛けないで」
ぼそぼそっと呟く主人公の名前に更に苛立ちを覚えて竹刀を振りかざす。
鍔迫り合いになり同時に払った為か、竹刀が飛んでお互いに丸腰になる。
「引き分けだな」
声が聞こえる方を見ると、高杉が立っていた。
「晋助…見てたのか」
「んだよ!こんなのありかよ!」
行くぞと主人公の名前に高杉が声を掛け頷くと、竹刀を取り銀時に頭を下げる。そのまま主人公の名前は高杉の元へ小走りで行き汗を拭きながら楽しそうに道場を出ていった。
「噂で聞いたんだが、主人公の名前は妾の子らしいな。」
「ヅラ…いつから居たんだ」
「ヅラじゃない、桂だ。主人公の名前が素振りしているところから道場に居た」
「気持ちわりィな。」
妾の子に対して疑問を持ったが誰かがでっち上げた噂に過ぎないと当時は思っていた。
それから半年、幾度となく勝負をしても引き分けに終わる。互角だろうと桂が呟くが納得できない銀時がいた。
ある日、松下村塾の裏庭で蹲っている主人公の名前を見かけた。声をかけようと近寄ると左肩から血が出ているのか、着物にじわりと血液が染み込んでいる
「お前…なにやってんだよ!!」
「触んないでよ!!!」
手を引っ張り松陽の所まで連れて行こうとすると、泣いてぐちゃぐちゃになった顔で睨まれ手を振りほどかれた。
「触るなって…血出てんだぞ!?なにやってんだよ!」
嫌がる主人公の名前を無理矢理立たせるとカツン、と音がした。音のする方を覗き込むときちんと納刀されていない真っ白な鞘の刀が倒れていた。その刀を掴むと主人公の名前を睨み松陽の元へ連れて行く。
***
「主人公の名前…どうしたんですか、その傷は…」
眉間にシワを寄せる松陽に刀を差し出す銀時。
「なんでも…無いです。」
「何でもなくねェよ!なにやってんだよ!」
「銀時…一旦外に出て貰えますか?ここは私が…」
ふわりと笑う松陽を見ると腑に落ちない顔をして頷き、部屋の外へ出る。立ち聞きは良くないと思い部屋を離れようと思ったが好奇心には勝てず、縁側に潜り込んだ。聞き耳を立てているといつも銀時たちの前では寡黙を装っている主人公の名前が急に大声で泣き始めた。
「だって…こんなのいらない!嫌だ…どうすればいいの…」
「主人公の名前、大丈夫です。貴女は私が守りますよ。安心して下さい。」
騒ぎを聞きつけた高杉と桂がバタバタと廊下を走って部屋に入ると松陽が出て行きなさい、と一言。桂は何かを察したように後ずさりをし部屋を出ていく。
「嫌です。主人公の名前は俺が、、」
「晋助…出ていってよ…」
「なんでだよ。出てなんか行かない」
襖を締める音がすると高杉が部屋に残ったのが分かる。ふと風を感じると銀時の隣には桂が居た。
「お前も物好きだな」
「お前には負ける」
すると更に大きな声で泣き喚く主人公の名前の声が聞こえ目を大きく見開き合わせる二人。どうやら消毒されている様だ。わんわんと泣き喚く主人公の名前に高杉が「大丈夫だ」や「痛かったら俺の手を噛め」と慰めている声が聞こえた。その声に苛立ちを覚えて縁側に潜っていた二人が再び部屋に入ってくる。
血を綺麗に拭かれ、松陽が苦戦しながらもあろう事か傷口を縫っているのを目にした。かなり深く傷付けた事が分かると銀時は主人公の名前に近寄り乱雑に頭を撫でる。松陽がその行動を見れば何か言いたそうにしていたがまずは縫うのが先だと言わんばかりに集中する。桂も心配そうに見守っている中、ふと縫われている肩に目を向けた。
一瞬だけだったが、赤黒く焼かれた皮膚が目に入った。
「百合の花…〝偽り〟か。」
同い年ぐらいであろう女の子の身体に焼印なんて趣味の悪いと呟くと、高杉が鋭い目付きで睨んできた。
バツの悪そうな顔をし主人公の名前に近寄る。縫い終わったのか額の汗を手の甲で拭う松陽が頑張りました、と主人公の名前の頭を撫でてやるとへらっと笑い刀を手に取る。すると松陽はその刀を取り上げた。
「これは私が暫く預かっておきます」
顔は笑っているが、多分今この人は笑っていないであろうと主人公の名前以外は思っていた。