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義理人情とは時に邪魔でもある
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主人公の名前は半月もしないうちに体重は平均体重に達していた。医者からは病院泣かせだと笑われていたけどこれ以上入院する事はゴメンだと苦笑いをした。
退院当日、銀時が迎えに来てくれた。入院費は銀時が立て替えてくれたようで主人公の名前はこれからどうしようと頭を捻っていた。とにかく、遠くまで逃げなければ、と。
「坂田、その…すまなかった」
病院の外を出るなり頭をさげる。
「んだよ、いきなり」
「入院費は必ず返す…一ヶ月だけ待ってくれ。それまでに金は用意する。」
住んでる場所を教えてくれと主人公の名前が言うと、腕を掴んでずんずんと街の中を歩く。周りからどんな目で見られていようが関係ない。とにかく主人公の名前を安心させられる場所へ連れていかなければと、どこかに行ってしまうのではないかと心配なのか不安なのか訳の分からない感情に飲み込まれそうになり腕を掴む手に力が入る。
***
「ここだ。」
暫く歩くと〝万事屋銀ちゃん〟と看板を指をさす銀時。職場に住んでいるのだろうか、と疑問に思うと階段を登る。
「ここだな…何となく場所はわかった。」
銀時の手を振りほどき、じゃあと手を振ると再び腕を掴まれた。
「何言ってんだ。今日からここがお前の住まいだ」
「…は?」
「いや、だから今日からここがお前の住まいだ」
「…ん?」
「ああああ!もうとにかく入れ!!」
理解するのに時間が掛かっている主人公の名前を無理やり押し込み靴を脱がす。
「あー!銀ちゃん、か弱そうなレディーを無理矢理なんて気持ち悪いネ!さすが天パはやることなすこと違うアル!」
「こいつァか弱くなんかねェよ!バケモンだ!!」
神楽を見るなり半月前の記憶がふと蘇る。あの時の少女だと呟くと、ニコッと笑って手を掴み客間に引っ張る。
「あの、この間は見つけてくれてありがとう」
深々と頭を下げると、福引と間違えたアル!と照れて笑う神楽がいた。
「いらっしゃいませ。」
新八が机にお茶を置くと、座るように促す。
「えと、初めまして。僕、志村新八と申します。」
「神楽アル!新八は童貞だから照れまくってて気持ち悪いけど何かあったらすぐ言って欲しいネ!」
「ねぇ、童貞がそんなに悪い?」
「気持ちわりぃから話かけんなよキモメガネ」
「神楽ちゃんんんん!?」
そんな会話を聞いてると、こんな可愛い子がそんな事を言っていいのだろうかと不安そうな顔で銀時を見る。お前も自己紹介くらいしろ、と言うような目で主人公の名前を見るので頭を下げる。
「…主人公の名前です。趣味は水切りです」
「地味な趣味アルナ。」
「今日から主人公の名前はここに住みま〜す。意見のある大バカ野郎は手を上げろ〜」
新八も神楽も異議なしと主人公の名前の顔をキラキラした目で見る。
「どうせ行く宛もねェんだろ?だったらここに居ろよ。密着24時もしなきゃならねェしよ」
へらっと笑う銀時を見ると行く宛もない…確かにそう思った。このまま闇雲にフラフラするより軍資金を集めつつ適度な所でで行けばいいだろう、と。
「しばらくの間、お世話になります。」
三人に深々と頭を下げる。すると神楽が主人公の名前の右腕を見る。
「…なんで主人公の名前は手が無いアルカ?」
「か、神楽ちゃん!!!!」
新八が空気を一瞬にして読んだのか神楽の言葉を阻止しようとしたが遅かった。
「なにか病気したアルカ?」
バツの悪そうな顔をする銀時。これからこいつは真実を述べるのか、はたまた嘘を言うのか横目でチラッと見ると眉間にシワを寄せていると主人公の名前は手がない右腕を眺めていた。
「ただ壊死しただけだろ」
「そうだな、壊死したんだ。」
銀時の言葉を耳にするとへらっと笑い、手のない腕を高く上げた。それを見る新八と神楽は神妙な面持で主人公の名前を見ていた。
すると急に腕を下ろし冷や汗をかきながら銀時の顔を覗き込む。
「おい、私の刀…刀知らないか!?病院にいる時から無くて…。」
「あー、それなら」
立ち上がり、寝室に向かう銀時。あるのかもしれない、と安堵の表情を浮かべる主人公の名前。暫くすると刀と布を持ってきた。
「ほらよ。あんまり刀持って出歩くなよ。まだその汚ェ額当て持ってたんだな」
「うるさい、思い出は取っておきたいタイプなんで。」
するとその刀に額当てをぐるぐる巻き腰に下げる。落ち着くと言わんばかりに表情が柔らかくなる。
「額当てって…」
新八が不思議そうに主人公の名前に聞くと、昔やんちゃしてたんだと苦笑いする。ニヤリと笑う銀時を睨むと、新八の目が大きくなった。
「黒夜叉…白夜叉と並ぶ強者。黒夜叉を見た者は生きて帰れないって噂も流れてたっけな」
すると神楽が頭をかきながら主人公の名前に質問する。
「でも、見た者は生きて帰れないってなんだか矛盾してるネ。なんで帰れないって分かったアルカ?だってみな死んじゃってるネ。」
「噂が一人歩きしただけだ。ただ、言えることは白夜叉より私が勝ってるって事だ。」
その言葉を聞くと舌打ちをする銀時。ニヤリと笑う主人公の名前。その空間を見守る二人。
額当てはボロボロで、三箇所ほど継ぎ足して縫われており、端っこに鎖が2個ほど付いているのに気が付いた
「なんでその額当ては縫われまくってるアル?チェーンみたいなのは厨二てきなやつアルカ?やっぱり嫁修行みたいな事して女子力高めようとしてたアルカ?」
「誰も忘れないためとでも。」
ふーんと、聞いた割には反応が鈍い神楽にため息をつく銀時。すると行くぞと声が掛かる。再び腕を掴まれ草履を履き外へ出ようとした瞬間、刀を腰から抜かれた
「あ、ちょっと坂田」
「時代が変わったんだ。」
そうだよな、と呟くと新八が刀を取りに来てくれた。頼むと渡すとニコッと微笑んで受け取ってくれたのを見て階段を降りる。
すると〝スナックお登勢〟という下のスナックに入る。
「ババァ居るか?」
「なんだい騒々しいね、まだ準備中だよ」
煙を吐く女性を見るとぺこりと頭を下げる主人公の名前。おや、タバコの火を消しカウンターに座らせる。
「言ってたのはこの子の事かい」
「あぁ、頼めるか」
「な、なんの事だ坂田」
チラッと銀時を見ると着物を着た女性が主人公の名前の顔を覗き見る。
「私はお登勢、ここの経営と上の部屋を貸してるんだ。主人公の名前って言うんだっけねェ。暫くここで働いて貰うよ。」
何を言ってるのか分からず頭の上にクエスチョンマークが飛び交っている。すると銀時が取り立ててくれたんだと理解した。
「あ!あの、主人公の名前です。暫くここでお世話になります。頑張ります!」
頭を下げると割烹着を取り出すお登勢。ポイとそれを投げつければ今から働いてくれと言わんばかりにニヤリと笑う。急いで割烹着を付ける主人公の名前を見る銀時。
「じゃ、頼ァ」
「はいよ」
外に出ていく銀時を見送ると、お登勢が口を開く
「手…あの馬鹿から聞いよ。お前さんは顔がいいから本当は表に出て接客してほしいんだけどねェ。嫌な思いはさたかないから裏で料理くらい作れんだろ。時間は掛かってもいい。だから、頼んだよ」
「ま、任せてください!」
「ソンナ化粧ッ気ノナイ女ナンテ見タ事ナイヨ!ブスハ引ッ込ンデナ!!!!」
猫耳の片言の女性が主人公の名前に向かって暴言を吐く。するとお登勢が拳固を落とす。
「自己紹介くらいしなさいな」
「私ハキャサリン。姫トデモ呼ビナ!」
「主人公の名前です。女王様とお呼びください」
ぐぬぬ…と一枚上手を持っていかれたキャサリンは苦虫を噛み潰したよな顔をする。ニヤリと笑う主人公の名前をみたお登勢はなかなかやる子だと呟いた。